その他2020.05.01
家事事件の進行に関する要望書
広島高等裁判所 御中
広島家庭裁判所 御中
広島弁護士会
会 長 足 立 修 一
第1 要望の趣旨
1 新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言の継続期間中において、新規に受理した人事訴訟事件については、遅滞なく訴状の送達及び期日指定を行うとともに、新規に受理した調停事件及び審判事件についても、遅滞なく期日指定のうえ呼出状の送付を行うよう求める。
2 緊急事態宣言の継続期間中においても、人事訴訟事件及び家事事件について、事案毎の事情を踏まえ当事者等への安全確保のために手続運営等を工夫しつつ、期日を開き手続を進行できるよう柔軟な対応を図られたい。
また、期日指定の必要のない審判事項についても、原則として遅滞なく審判を行うよう求める。
3 上記2の円滑な実施を図るため、以下の準備を進められたい。
(1) 音声の送受信が複数間で同時に行える機材の速やかな追加調達
(2) 調停室の一部を待合室として利用する等、裁判所出頭者への感染防止のための柔軟な取り扱い
第2 要望の理由
1 はじめに
本年4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大されて以降、広島家庭裁判所においては、本年5月6日までに期日指定されていた人事訴訟事件の期日、家事調停期日及び家事審判事件期日(保全手続を除く)が取り消され、また新規受理した人事訴訟事件及び調停・審判事件についても、訴状送達、期日指定ないし調整が行われていない。また、各種の審判事項(例えば、成年被後見人の死後の事務に関する事項の許可)についても、申立てが行われても、原則として審判がされていない。
家庭裁判所及びその抗告審で扱われる事件は、当事者の身分関係、家庭生活上の重大事態等、いずれも当事者や当事者間の子ども等の暮らしに密接に関わるものである。殊に、婚姻費用、養育費及び扶養料等の事件は、当事者の家計に直結し、早期解決を求めて申立てが行われている。各種の審判事項も必要があるので申立てがされており、通常どおり審判されることを前提とし申立てを行っている。
緊急事態宣言という未曽有の事態にあって、裁判所も対応に苦慮されていることは承知している。しかし、当事者の権利擁護及び手続の適正な進行の観点からは、期日が長期にわたって指定されない事態を看過することはできず、当会は上記の通りの要望を行う。
2 要望の趣旨1について
(1) 調停前置主義の現行法下において、訴訟提起された人事訴訟事件は相当程度に紛争が継続しかつ複雑化しているものも少なくない。こうした事件の進行が停止することは、事案解決をさらに難しくするおそれもあ る。とりわけ、訴状送達が遅延損害金の始期となる事案においては、送達が遅れることは当事者の利害に直結する問題であり、訴状送達が遅滞なく行われる必要性は高い。
(2) 家事調停事件及び審判事件についても、期日指定が長期にわたって行われず解決の見通しが立たないとなると、当事者に与える心理的・経済的負担は多大である。
殊に養育費、婚姻費用及び扶養料が申立てに含まれる事件解決の重要性は、論を俟たない。この種の事件の中には、実務上調停委員の調整等により、調停成立前等においても、調停・審判期日において一部金の暫定払を中間合意(ないし事実上合意)することで権利者が一定額を得られることもある。調停・審判期日が全く未定なまま長期間が経過すれば、そうした部分的な対応を図る機会も失われることとなり、権利者は全く生活費を得られない一方、義務者は未払金(一括金)がかさむこととなり、当事者双方に不利益をもたらしかねない。
また、期日指定を要しない審判事項についても、裁判所の判断が遅れることにより、様々な影響が生じる可能性がある。例えば、成年被後見人死亡後の相続財産保存に必要な行為として、弁済期の到来した相続財産に属する債務の弁済(医療費、施設入所費用など)のため、成年被後見人名義の口座の払戻しの許可を求めたものの、審判が遅れれば、遅延損害金の支払いが求められるおそれがある。
(3) 以上のことから、緊急事態宣言が継続される中にあっても、速やかに訴状の送達や申立書の送付をし、期日指定を行うべきである。また、審判事項については原則として遅滞なく審判されるべきである。
3 要望の趣旨2について
(1) 緊急事態宣言継続期間中に、当事者や代理人等(以下「当事者等」という。)が期日出頭を要する事件については、いわゆる「密」な状態を作り出さないよう、十分な配慮・工夫が必要である。
また、以下の各手続等を柔軟に活用し、当事者等が直接出頭しない、あるいは出頭する当事者等を調整して期日を開廷・運営することも可能である。
(2) 人事訴訟事件における手続
① 擬制陳述の活用
② 弁論準備手続における電話会議の活用
③ 書面による準備手続及び同手続における電話会議の活用(この手続を活用すれば当事者双方が裁判所に出頭しないことも可能である)
④ 尋問に代わる書面の提出
⑤ 和解条項案の書面による受諾
⑥ 判決言渡し(当事者の在廷不要)
(3) 家事調停及び審判事件における手続
家事調停及び審判事件においても、電話会議等を最大限活用することにより、出頭する当事者を調整して、期日運営を行うことが可能である。
離婚又は離縁の調停事件は、電話調停によって調停を成立させることができないが、調停に代わる審判の活用も考えられる。
期日指定を要しない審判事件等の手続に関しては、そもそも現在の状況のもとで一律に審判等の手続を止める合理性・必要性に疑義があるといわざるを得ない。
(4) なお、事案毎に、事案の性質や当事者等の抱える事情は異なり、また期日進行へのニーズも異なりうる。そのため、期日を進めるにあたっては、特に一定程度の出頭を要する事案については各当事者等の意見を聴きながら、柔軟な手続進行を模索いただきたい。
4 要望の趣旨3について
(1) 以上の要望を実現するためには、電話会議システムの整備が不可欠である。通信手段確保に向けてあらゆる努力を行っていただくとともに、最優先の整備事項としてできる限りの対応を図っていただきたい。
(2) 上記のとおり、出頭者を調整しても、一方当事者等の出頭はやむを得ない事件も出てくる可能性がある。感染防止のため、貴庁でもすでに実施されている調停室の一部を待合室として開放する、可能な限り別室対応として待合室を利用しない等の柔軟な取り扱いも要望する。
5 まとめ
未曾有の事態を前に、貴庁が、当事者等をはじめ裁判所に関わる者全ての感染拡大防止のため、真摯な取組をされていることには敬意を払うところである。
しかし、緊急事態宣言の期間が長期継続した場合に、裁判所の各事件の期日が開かれないまま長期間経過させることは、ただでさえコロナ禍によって不安を抱いている当事者等(あるいは潜在的な当事者)に、さらなる不安と落胆を抱かせるものとなる。さらに言えば、司法手続が停止する事態が続くことで、社会の司法不信を招き、ひいては自力救済を模索することにより社会秩序の安定を脅かす事態にすらつながりかねない。
そうした事態を回避し、あるべき当事者の権利擁護と手続の適正を図るべく、頭書の要望をする次第である。
以上
広島高等裁判所 御中
広島家庭裁判所 御中
広島弁護士会
会 長 足 立 修 一
第1 要望の趣旨
1 新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言の継続期間中において、新規に受理した人事訴訟事件については、遅滞なく訴状の送達及び期日指定を行うとともに、新規に受理した調停事件及び審判事件についても、遅滞なく期日指定のうえ呼出状の送付を行うよう求める。
2 緊急事態宣言の継続期間中においても、人事訴訟事件及び家事事件について、事案毎の事情を踏まえ当事者等への安全確保のために手続運営等を工夫しつつ、期日を開き手続を進行できるよう柔軟な対応を図られたい。
また、期日指定の必要のない審判事項についても、原則として遅滞なく審判を行うよう求める。
3 上記2の円滑な実施を図るため、以下の準備を進められたい。
(1) 音声の送受信が複数間で同時に行える機材の速やかな追加調達
(2) 調停室の一部を待合室として利用する等、裁判所出頭者への感染防止のための柔軟な取り扱い
第2 要望の理由
1 はじめに
本年4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大されて以降、広島家庭裁判所においては、本年5月6日までに期日指定されていた人事訴訟事件の期日、家事調停期日及び家事審判事件期日(保全手続を除く)が取り消され、また新規受理した人事訴訟事件及び調停・審判事件についても、訴状送達、期日指定ないし調整が行われていない。また、各種の審判事項(例えば、成年被後見人の死後の事務に関する事項の許可)についても、申立てが行われても、原則として審判がされていない。
家庭裁判所及びその抗告審で扱われる事件は、当事者の身分関係、家庭生活上の重大事態等、いずれも当事者や当事者間の子ども等の暮らしに密接に関わるものである。殊に、婚姻費用、養育費及び扶養料等の事件は、当事者の家計に直結し、早期解決を求めて申立てが行われている。各種の審判事項も必要があるので申立てがされており、通常どおり審判されることを前提とし申立てを行っている。
緊急事態宣言という未曽有の事態にあって、裁判所も対応に苦慮されていることは承知している。しかし、当事者の権利擁護及び手続の適正な進行の観点からは、期日が長期にわたって指定されない事態を看過することはできず、当会は上記の通りの要望を行う。
2 要望の趣旨1について
(1) 調停前置主義の現行法下において、訴訟提起された人事訴訟事件は相当程度に紛争が継続しかつ複雑化しているものも少なくない。こうした事件の進行が停止することは、事案解決をさらに難しくするおそれもあ る。とりわけ、訴状送達が遅延損害金の始期となる事案においては、送達が遅れることは当事者の利害に直結する問題であり、訴状送達が遅滞なく行われる必要性は高い。
(2) 家事調停事件及び審判事件についても、期日指定が長期にわたって行われず解決の見通しが立たないとなると、当事者に与える心理的・経済的負担は多大である。
殊に養育費、婚姻費用及び扶養料が申立てに含まれる事件解決の重要性は、論を俟たない。この種の事件の中には、実務上調停委員の調整等により、調停成立前等においても、調停・審判期日において一部金の暫定払を中間合意(ないし事実上合意)することで権利者が一定額を得られることもある。調停・審判期日が全く未定なまま長期間が経過すれば、そうした部分的な対応を図る機会も失われることとなり、権利者は全く生活費を得られない一方、義務者は未払金(一括金)がかさむこととなり、当事者双方に不利益をもたらしかねない。
また、期日指定を要しない審判事項についても、裁判所の判断が遅れることにより、様々な影響が生じる可能性がある。例えば、成年被後見人死亡後の相続財産保存に必要な行為として、弁済期の到来した相続財産に属する債務の弁済(医療費、施設入所費用など)のため、成年被後見人名義の口座の払戻しの許可を求めたものの、審判が遅れれば、遅延損害金の支払いが求められるおそれがある。
(3) 以上のことから、緊急事態宣言が継続される中にあっても、速やかに訴状の送達や申立書の送付をし、期日指定を行うべきである。また、審判事項については原則として遅滞なく審判されるべきである。
3 要望の趣旨2について
(1) 緊急事態宣言継続期間中に、当事者や代理人等(以下「当事者等」という。)が期日出頭を要する事件については、いわゆる「密」な状態を作り出さないよう、十分な配慮・工夫が必要である。
また、以下の各手続等を柔軟に活用し、当事者等が直接出頭しない、あるいは出頭する当事者等を調整して期日を開廷・運営することも可能である。
(2) 人事訴訟事件における手続
① 擬制陳述の活用
② 弁論準備手続における電話会議の活用
③ 書面による準備手続及び同手続における電話会議の活用(この手続を活用すれば当事者双方が裁判所に出頭しないことも可能である)
④ 尋問に代わる書面の提出
⑤ 和解条項案の書面による受諾
⑥ 判決言渡し(当事者の在廷不要)
(3) 家事調停及び審判事件における手続
家事調停及び審判事件においても、電話会議等を最大限活用することにより、出頭する当事者を調整して、期日運営を行うことが可能である。
離婚又は離縁の調停事件は、電話調停によって調停を成立させることができないが、調停に代わる審判の活用も考えられる。
期日指定を要しない審判事件等の手続に関しては、そもそも現在の状況のもとで一律に審判等の手続を止める合理性・必要性に疑義があるといわざるを得ない。
(4) なお、事案毎に、事案の性質や当事者等の抱える事情は異なり、また期日進行へのニーズも異なりうる。そのため、期日を進めるにあたっては、特に一定程度の出頭を要する事案については各当事者等の意見を聴きながら、柔軟な手続進行を模索いただきたい。
4 要望の趣旨3について
(1) 以上の要望を実現するためには、電話会議システムの整備が不可欠である。通信手段確保に向けてあらゆる努力を行っていただくとともに、最優先の整備事項としてできる限りの対応を図っていただきたい。
(2) 上記のとおり、出頭者を調整しても、一方当事者等の出頭はやむを得ない事件も出てくる可能性がある。感染防止のため、貴庁でもすでに実施されている調停室の一部を待合室として開放する、可能な限り別室対応として待合室を利用しない等の柔軟な取り扱いも要望する。
5 まとめ
未曾有の事態を前に、貴庁が、当事者等をはじめ裁判所に関わる者全ての感染拡大防止のため、真摯な取組をされていることには敬意を払うところである。
しかし、緊急事態宣言の期間が長期継続した場合に、裁判所の各事件の期日が開かれないまま長期間経過させることは、ただでさえコロナ禍によって不安を抱いている当事者等(あるいは潜在的な当事者)に、さらなる不安と落胆を抱かせるものとなる。さらに言えば、司法手続が停止する事態が続くことで、社会の司法不信を招き、ひいては自力救済を模索することにより社会秩序の安定を脅かす事態にすらつながりかねない。
そうした事態を回避し、あるべき当事者の権利擁護と手続の適正を図るべく、頭書の要望をする次第である。
以上