会長声明2020.05.13
検察庁法改正案中,いわゆる「役職定年制」の例外を規定する改正に反対し,撤回を求める会長声明
2020年(令和2年)5月13日
広島弁護士会 会長 足立修一
第1 声明の趣旨
当会は,検察庁法改正案中,いわゆる「役職定年制」の例外を規定する改正に反対するとともに,現状での同法案の法案審議に強く抗議し,同法案の撤回を求める。
第2 声明の理由
1 検察庁法改正案提出までの経緯
当会は,本年1月31日に政府が国家公務員法の解釈を変更して黒川弘務検事の定年を半年間延長することを閣議決定したことに対し,本年3月30日に会長声明を発出し,抗議して撤回を求めた。本日までに,当会を含む多数の単位会,日弁連及び当時の静岡地方検察庁の神村昌通検事正が,同閣議決定の撤回を求める声明等を発出し,明確に問題点を指摘しているところである。
ところが政府は,上記閣議決定を撤回するどころか,本年3月13日に,上記閣議決定をまさに法制化するための検察庁法改正案(以下「改正案」という。)を国会に提出し,検事長ら要職にある者の勤務延長を内閣の判断に委ねる法改正を行おうとしている。
2 改正案の内容
これまで,検事総長は65歳,その他の検察官は63歳で退官するとされていた。
しかしながら,この度の改正案は,すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に引き上げ,63歳以上は,高検検事長や地検検事正といった要職には就けないという「役職定年制」を設ける一方,内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは,63歳の「役職定年制」の例外を認め,更には,65歳の定年を越えて当該要職で勤務させることができるものとしている(改正案9条3項ないし5項,10条2項,22条1項,2項,4項ないし7項)。
3 改正案が検察官の職務の独立性,公正性及び中立性に対する国民の信頼を失わせること
検察官は,単なる行政機関に留まらず,起訴権限をほぼ独占するなど準司法機関として司法権の一翼をも担っている。そのため,政治的な圧力を不当に受けない様に,政治的に独立し,公正,中立であることが強く求められている。このことは,検察官の起訴権限が国務大臣に及ぶことからも明らかである(憲法75条)。
しかし,改正案が成立すれば,「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」などの要件が不明確なことから,事実上,定年延長の判断が,内閣又は法務大臣といった,訴追対象となる可能性がある閣僚の広範な裁量に服することになる。
そうすると,個々の検察官が定年延長の判断権者である内閣又は法務大臣,及びその関係者に対する厳正な捜査権限の行使を躊躇するおそれが生じ,結果として検察官の職務の独立性,公正性及び中立性に対する国民の信頼を失わせることとなる。
4 現時点の法案提出そのものに問題があること
改正案には,上記のような看過できない問題点が存在するところ,その法案が提出された時期にも問題がある。
現在,日本全国で新型コロナウイルス感染症が蔓延しているため,改正案に対する国民の反対の意思表明を行う集会活動の自由が大幅に制約されている状況にある。しかも,黒川弘務検事の定年延長を認める国家公務員法の解釈を変更する閣議決定がなされたことに多数の法律家団体から問題が指摘されている状況にある。そのような状況からすれば,改正案の審議は行うべきではないにもかかわらず,政府は,改正案の審議を行っている。
このままでは,重大な問題をはらんだ法改正が,十分な審議が尽くされぬまま,成立してしまうおそれがある。
5 結論
よって,当会は,検察官の職務の独立性,公正性及び中立性に対する国民の信頼を失わせるという理由から,「役職定年制」の例外を規定する改正案に反対する。また,現状での法案審議に,強く抗議し,改正案の撤回を求めるものである。
以上
2020年(令和2年)5月13日
広島弁護士会 会長 足立修一
第1 声明の趣旨
当会は,検察庁法改正案中,いわゆる「役職定年制」の例外を規定する改正に反対するとともに,現状での同法案の法案審議に強く抗議し,同法案の撤回を求める。
第2 声明の理由
1 検察庁法改正案提出までの経緯
当会は,本年1月31日に政府が国家公務員法の解釈を変更して黒川弘務検事の定年を半年間延長することを閣議決定したことに対し,本年3月30日に会長声明を発出し,抗議して撤回を求めた。本日までに,当会を含む多数の単位会,日弁連及び当時の静岡地方検察庁の神村昌通検事正が,同閣議決定の撤回を求める声明等を発出し,明確に問題点を指摘しているところである。
ところが政府は,上記閣議決定を撤回するどころか,本年3月13日に,上記閣議決定をまさに法制化するための検察庁法改正案(以下「改正案」という。)を国会に提出し,検事長ら要職にある者の勤務延長を内閣の判断に委ねる法改正を行おうとしている。
2 改正案の内容
これまで,検事総長は65歳,その他の検察官は63歳で退官するとされていた。
しかしながら,この度の改正案は,すべての検察官の定年を現行の63歳から65歳に引き上げ,63歳以上は,高検検事長や地検検事正といった要職には就けないという「役職定年制」を設ける一方,内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」と認めるときは,63歳の「役職定年制」の例外を認め,更には,65歳の定年を越えて当該要職で勤務させることができるものとしている(改正案9条3項ないし5項,10条2項,22条1項,2項,4項ないし7項)。
3 改正案が検察官の職務の独立性,公正性及び中立性に対する国民の信頼を失わせること
検察官は,単なる行政機関に留まらず,起訴権限をほぼ独占するなど準司法機関として司法権の一翼をも担っている。そのため,政治的な圧力を不当に受けない様に,政治的に独立し,公正,中立であることが強く求められている。このことは,検察官の起訴権限が国務大臣に及ぶことからも明らかである(憲法75条)。
しかし,改正案が成立すれば,「職務の遂行上の特別の事情を勘案し」「公務の運営に著しい支障が生ずる」などの要件が不明確なことから,事実上,定年延長の判断が,内閣又は法務大臣といった,訴追対象となる可能性がある閣僚の広範な裁量に服することになる。
そうすると,個々の検察官が定年延長の判断権者である内閣又は法務大臣,及びその関係者に対する厳正な捜査権限の行使を躊躇するおそれが生じ,結果として検察官の職務の独立性,公正性及び中立性に対する国民の信頼を失わせることとなる。
4 現時点の法案提出そのものに問題があること
改正案には,上記のような看過できない問題点が存在するところ,その法案が提出された時期にも問題がある。
現在,日本全国で新型コロナウイルス感染症が蔓延しているため,改正案に対する国民の反対の意思表明を行う集会活動の自由が大幅に制約されている状況にある。しかも,黒川弘務検事の定年延長を認める国家公務員法の解釈を変更する閣議決定がなされたことに多数の法律家団体から問題が指摘されている状況にある。そのような状況からすれば,改正案の審議は行うべきではないにもかかわらず,政府は,改正案の審議を行っている。
このままでは,重大な問題をはらんだ法改正が,十分な審議が尽くされぬまま,成立してしまうおそれがある。
5 結論
よって,当会は,検察官の職務の独立性,公正性及び中立性に対する国民の信頼を失わせるという理由から,「役職定年制」の例外を規定する改正案に反対する。また,現状での法案審議に,強く抗議し,改正案の撤回を求めるものである。
以上