声明・決議・意見書

その他2022.03.03

男女共同参画を推進する宣言

誰もが個人として尊重され(日本国憲法13条)、法の下の平等(同14条)の理念に基づき、性別や性的指向、性自認によって差別されず、誰もが能力や個性を生かし活躍できる社会を作ることは、憲法の理念を実践するうえでも非常に重要である。とりわけ、男女共同参画社会の実現は、すべての人に生きやすい社会を作ることであり、「21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」(男女共同参画社会基本法前文)である。

しかし、現実には、依然としてわが国には大きな男女間の格差や差別、固定的な性別役割分担意識などによる差別・偏見が根強く残り、他の先進諸国に比べ立ち遅れた状況にある。

男女共同参画社会の実現に向けて、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士により構成される団体である弁護士会に求められている役割は大きく、当会の自らの活動においても、会内における男女共同参画を推進するための総合的かつ継続的な取組みを行う必要がある。

そこで当会は、会内における男女共同参画を推進するため、下記の活動指針を実現していくことを宣言する。

1 男女共同参画の推進をはかるため「基本計画」を作成する。

2 会務活動における政策・方針決定過程への女性会員の参画の拡充を推進する。

3 男女問わず、家事・育児・介護等の負担を担う会員が、会務活動や研修などに参加しやすくするための支援策を検討・整備する。

4 性別による差別的取扱いやセクシュアル・ハラスメント(性的指向及び性自認による差別的な取り扱いを含む)を防止するため、既存の制度の充実及び新たな制度の創設を図る。

5 女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大を推進する。

6 男女共同参画の推進及び性の多様性の尊重に関し、会員の理解を深めるため、研修や啓発を一層充実させる。

7 男女共同参画の推進及び性の多様性の尊重に関し、対外的に様々な発信や取組を行っていく。

 

以上のとおり宣言する。

2022年(令和4年)2月24日

広 島 弁 護 士 会

 

第2 宣言の理由

1、政府・社会の状況、日弁連や各弁護士会の動向

1999年(平成11年)、男女共同参画社会基本法が制定され、男女共同参画社会の実現は「21世紀の我が国社会を決定する最重要課題」(男女共同参画社会基本法前文)と位置づけられた。政府は、2003年(平成15年)に「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」との政府目標(以下「202030目標」という。)を掲げ、5か年ごとに男女共同参画基本計画を策定し、その実現に向けた取り組みを進めてきた。2015年(平成27年)には女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)が、2018年(平成30年)には政治分野における男女共同参画の推進に関する法律が公布・施行された。

しかしながら、日本の現状は、現時点では202030目標に到底到達しておらず、世界経済フォーラム(WEF)が示す世界156カ国を対象とした「男女格差報告」で日本は、2019年(令和元年)は121位、2020年(令和2年)は120位と、世界的にみて最低水準にある。その原因として、固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が強く存在し、特に政治・経済分野への参画における男女間格差が大きいことが指摘されている。

政府は、現在の日本の状況を踏まえ、2020年(令和2年)12月25日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画で目標を修正し、「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指し」「2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す」との目標を定めた。今こそ、男女共同参画社会の実現に向けて、迅速かつ実効性のある取り組みが求められている

また、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士によって構成される弁護士会は、個人の尊重、法の下の平等という憲法の理念を率先して実践すべき存在である。

 

2、広島弁護士会のこれまでの取り組み

当会は、2004年(平成16年)度に、出産及び育児のための休業に伴う会費免除に関する規則を制定し、2007年(平成19年)度にはセクシュアル・ハラスメントの防止に関する規則を制定した。

一部の委員会や執行部運営における会議開催時間を夕方の遅い時間から昼間の時間にし、2020年(令和2年)度には、ウェブ会議システム利用規則を制定して、ウェブ会議システムにより委員会等の会議を開催し、また、参加する方法を可能にした。

近年では、執行部(会長1名、副会長5名)のうち少なくとも1名が女性会員となっており、常議員(定数21名)の一定数を女性会員が占める状況が続いている。

 

3、広島弁護士会における課題と具体的目標

(1) 男女共同参画推進のための基本計画作成

男女共同参画の理念を当会において更に推進するためには、「基本計画」を作成し、当会全体で総合的かつ継続的な取り組みを行っていく必要がある。

(2) 政策・方針決定過程への女性会員参画推進

当会は、2021年(令和3年)12月20日現在での女性会員割合が約17.1%(総会員数614名、女性会員105名)である。執行部(会長、副会長)、常議員、委員会委員長の構成について、男女共同参画推進の観点から、見直し検討する。但し、数値目標や構成を気にするあまり、特定の会員に会務が集中することは避けなければならない。

そのためにも、執行部の負担軽減あるいは業務の合理化、会務等の開催時間の配慮、IT技術の活用による会務の合理化等の施策を講じるとともに、それぞれの弁護士にとって参画の障壁となっている事由がないか、調査・分析を続けることが不可欠であり、全ての弁護士が政策・方針の決定や各種活動に広く、平等に参画しやすい環境整備を進めていく必要がある。

(3) 育児・介護中会員への支援策

日本では、現在でもなお、性別による固定的な役割分担意識が根強く、女性が家事・育児・介護等(以下「家事等」という。)の多くを担わざるを得ず、仕事との両立に困難を感じ、他方、男性は仕事に追われ、家事等を担いたくても柔軟な働き方を選択しにくい現状がある。この問題は、個々の会員の自助努力だけで解決することは困難であり、弁護士会全体として取り組むべき課題である。

当会では、すでに、2004年(平成16年)度、出産・育児に伴う会費免除規則を制定しているが、これを広げ、支援制度をさらに拡充し、家事等を担う会員に対するサポート体制の構築等を行う必要がある。

(4) セクシュアル・ハラスメント等の防止

性別による差別的取扱い及びセクシュアル・ハラスメント(性的指向及び性自認による差別的な取り扱いを含む)は、いずれもジェンダー・バイアスに基づく重大な人権侵害である。これらの根絶は、会を挙げて取り組むべき課題である。

当会は、2007年(平成19年)度に「セクシュアル・ハラスメントの防止に関する規則」及びこれに基づく「セクシュアル・ハラスメントの防止に関する指針」を制定した。しかし、これらの規則に基づく相談制度等は十分周知・利用されているとはいいがたく、既存制度の周知・利用促進及び更なる改善が必要であり、セクシュアル・ハラスメントに性的指向及び性自認による差別的な取り扱いが含まれることを明らかにする必要がある。

(5) 女性弁護士割合の拡大

弁護士全体に占める女性割合の拡大は喫緊の課題である。前述のとおり、当会の女性会員の割合は約17.1%、日弁連全体においても19.4%にとどまっており(2021年(令和3年)12月20日現在)、政府が定めた202030目標にも大きく及んでいない。社会に存在する女性法曹に対するニーズに応え、女性の社会的地位を向上させるためには、女性弁護士の増加は必要不可欠である。女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大に向け、女性が弁護士として活躍する魅力を伝えるため、中学、高校、大学、大学院等の教育機関に弁護士を派遣して出前授業を行ったり、シンポジウムを開催したりする等して情報提供を行い、女性に対する進路選択支援を積極的に行うことが望まれる。さらには、司法試験の女性合格者が弁護士を職業として選択しやすくなるような取り組みや、出産・育児・介護など業務外の事情での女性弁護士の離職を防ぎ、離職者の再登録を支援する取り組みも必要となる。

(6) 会内研修の充実、対外的発信

当会では、セクシュアル・ハラスメントの防止に関する研修について、義務化されたものはない。しかし、当会における男女共同参画の推進を実現し、更には弁護士としての使命を全うするためには、各会員の男女共同参画についての意識を高め、性の多様性やジェンダー・バイアスの無理解からくる差別や偏見等について会員の認識を深めることが不可欠である。そのためには、会員に対する研修の開催や意識啓発に向けた各種取り組みを積極的に行っていく必要がある。

男女共同参画社会を積極的に推進し、性の多様性を尊重する立場から、弁護士会は、会内だけではなく、市民・社会・学校等に向けた対外的な発信や各種取り組みを行っていくことが重要である。現在、大企業の多くが、男女共同参画の実現や各種ハラスメントを防止するための社内規定の整備をする動きがあるが、中小企業の取組みは未だ十分とはいえない。家庭内における役割の固定化やジェンダー・バイアス、性的マイノリティに対する偏見も未だ根強い。これらの問題を是正すべく、当会が社会の先頭に立ち、男女共同参画の推進社会の実現に向けて、積極的な活動を進める必要がある。

 

 

 

 

以上