声明・決議・意見書

意見書2019.03.01

広島高等・地方・簡易裁判所合同庁舎における入庁時検査等についての意見書

広島高等裁判所
長官 大門 匡 殿

広島弁護士会
会長 前川 秀雅

第1 意見の趣旨
1 広島高等・地方・簡易裁判所合同庁舎(以下「広島高裁等庁舎」という)における入庁時検査の実施にあたっては、来庁者のプライバシー権、人格権等の人権を侵害することのないよう、また、その実施が市民による裁判手続の利用や裁判の傍聴を躊躇させることのないよう、十分に配慮することを求める。
2 広島高裁等庁舎の出入口が同庁舎南棟正面玄関の1か所のみとされた点について、同庁舎に少なくとも2か所以上の出入口を確保することを求める。

第2 意見の理由
1 意見の趣旨第1項について
裁判所における入庁時検査は、高裁所在地本庁を中心に順次開始されているところであり、御庁においても2018年(平成30年)10月1日より入庁時検査が実施されている。
この点、当会として、御庁において庁内の安全確保のための対応が必要であることを一切否定するものではない。
しかし、裁判所は三権の一翼として市民の人権の最後の砦であるし、裁判の公開は憲法により保障されているものである。
そのため、入庁時検査においては、来庁者のプライバシー権、人格権等の人権を不当に侵害することのないよう十分に配慮する必要がある。この点、御庁での入庁時検査開始後、ペースメーカーを使用する市民が入庁する際、ゲート型の金属探知機の通過は不要とされたものの、検査にあたる警備員がハンディ型の金属探知機を使用して検査をしようとし、ペースメーカーの故障につながりかねないと市民が強く抗議した事案が発生したと聞き及んでいる。かかる対応は当該市民の生命・身体の安全を脅かしかねないものであるから、速やかな改善及び再発防止を求める。
また、入庁時検査で人権を侵害してはならないことは当然のことであるが、それに加えて、入庁時検査は、それを実施すること自体、来庁者に負担を感じさせるものであるから、検査の実施が裁判手続への参加や公開の裁判の傍聴を躊躇させる一因ともなりうるとの意識を持ち、地方裁判所委員会委員や当事者団体等の意見も聴いて、運用の改善、警備員への研修等、不断の努力をすることを求める。
さらに、障がい者については、障害者差別解消法の趣旨や「裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」(平成28年3月23日最高裁判所裁判官会議議決)を踏まえ、差別的な取扱や、合理的配慮の不提供とならないよう十分に配慮することを求める。
また、犯罪被害者や、相手方当事者から危害を加えられるおそれがあるような事案の当事者等(以下「犯罪被害者等」という)に対しては、その安全確保に格別の配慮を求める。
2 意見の趣旨第2項について
標記入庁時検査開始に伴い、それまでは広島高裁等庁舎南棟正面玄関と同北棟西側の2か所に設置されていた出入口が正面玄関の1か所のみとなった。
出入口が1か所のみとなった結果、例えば、自動車による来庁者は、広島高裁等庁舎の西側ないし東側の駐車場に自動車を駐車した後、正面玄関までの移動が必要となり、移動の負担が増加している。また、弁護団事件においては、裁判期日の前後に、広島高裁等庁舎の北西にある当会会館を利用し記者会見・弁護団会議等を実施する場合があるが、西側出入口の廃止により、同様に当会会館と広島高裁等庁舎間の移動の負担が増加している。
広島高裁等庁舎の構造を見ると、東・西・南・北の各棟がロの字型に建てられており、正面玄関は南棟にある一方、法廷は主に北棟の2階及び3階に集中している。また、各棟の間は手動の防火扉で仕切られている。このため、利用者が法廷に向かう場合は、南棟の正面玄関から入庁後、西棟ないし東棟を経由して北棟に向かわなければならず、その途中では棟と棟の間の防火扉を開ける必要もあり、移動の負担が増加していることは明白である。
とりわけ、障がい者については、正面玄関からの入退庁により、庁内の移動に非常に重い負担が生じていると言わざるを得ない。具体的には、従前は北棟の西側出入口から自動ドアを通過して入庁し、北棟のエレベーターで上階に移動できていたものが、南棟の正面玄関を利用しなければならなくなった結果、設備面の問題、例えば、正面玄関に設置されているスロープの傾斜が急である、正面玄関のある南棟にはエレベーターがない、エレベーターのある他の棟に移動する場合には重い防火扉を開けなければならない(かつ防火扉付近には職員は常駐しておらず、防火扉を開けるよう職員に依頼することも困難である)等の問題も相まって重い負担が生じている。また、歩行の際に杖等の福祉用具を必要とする市民などについても、同様に、大きな移動の負担が生じている。
犯罪被害者等については、個別事件での配慮は検討すると御庁から聞き及んでいる。しかし、出入口が1か所のみとされたことで、犯罪被害者等が、相手方当事者と鉢合わせるのではないかとの懸念を持つことは容易に想像できる。また、相手方当事者等から危害を加えられるかもしれないと危惧を覚えたとしても、具体的な根拠等がない場合、当事者が御庁に配慮を求めることを躊躇するおそれがある。加えて、御庁が上記の配慮をすることが、一般の利用者に十分に周知されているとは言い難いのが現状である。そうだとすると、身の危険を感じた当事者が、その場の判断によって異なる出入口から入退庁することができる態勢を整えておくことが非常に重要である。
仮に、出入口の増加について予算面の問題があるとしても、例えば、暫定的な措置として、北棟西側について原則として退庁のみ認める(ただし、障がい者等の配慮が必要な方には入退庁を認める)などの工夫により、経費を抑えつつ、前記の問題点を解消する術もあるはずである。
このような事情からすると、広島高裁等庁舎の出入口として、正面玄関以外の出入口を確保する必要性は高く、対応を強く求めるものである。
3 結語
よって、当会は、上記の理由から、第1記載のとおり意見を述べるものである。

以上