会長声明2005.06.30
少年法等の一部改正法律案に関する会長声明
広島弁護士会
会長 山田延廣
「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)が本年3月1日に閣議決定され、国会に上程されている。
当会は、改正法案が非行事実に争いがない場合であっても、一定の重大事件において家庭裁判所が職権で弁護士である国選付添人を選任できるとしている点については評価するものの、以下の3点については反対であるため、その旨の意思を表明する。
1 第1に、改正法案は、警察官による触法少年及びぐ犯少年に対する調査権限を法律上明確化している。
しかし、これは、非行少年に対する福祉的な対応を後退させるものであり、賛成できない。すなわち、現行法上、触法少年や14歳未満のぐ犯少年に対する調査や処遇は、福祉的な見地から児童相談所を中心として行うこととなっており、警察官の関わりは補助的な役割に過ぎないのである。現状の触法少年等への調査や処遇について不十分な点もあるが、これは児童相談所をはじめとした福祉機関を強化して対処すべきであり、警察の権限を強化することにより解決を図るべきではない。
とりわけ、このような低年齢の児童は、表現能力が不十分なうえ、被暗示性・迎合性を有しており、児童の福祉や心理について専門性を有していない警察官が取調べを行うことは、誤った供述を引き出す危険性が高く、当該児童を心理的に傷つけるおそれがあるなど問題が多い。
また、ぐ犯とは犯罪ではなく、将来法をおかすおそれにすぎないにもかかわらず、「ぐ犯少年の疑い」という要件のもとで警察の調査権限を認めるなら、その範囲は無限定に拡大しかねないうえ、警察が、学校等の公務所・団体へ照会することも可能であるとされていることから、少年の生活全般が警察の監視のもとにおかれるという危惧を払拭できない。
2 第2に、改正法案は、少年院に送致可能な少年の下限年齢を撤廃するとしているが、14歳に満たない少年に規律や訓練を重視する矯正教育を行うことは適当ではない。
年齢の低い少年を家族から分離して更生をはからなければならない場合、家庭的な雰囲気のもとで、人間関係を中心とした生活力を身につけること、いわゆる「育て直し」が必要である。このため、現行法はこのような理念のもと、児童自立支援施設を設けているのである。
今回の改正法案の背景には、14歳未満の少年であっても相当期間の閉鎖的な処遇を行う必要があるとの考えに基づくものであろうが、そのような少年への対応は、児童自立支援施設を充実強化し、必要な場合には少年法第6条第1項の家庭裁判所による強制的措置の規定を活用することによって対処すべきである。小学生であっても、少年院に送致できるとする改正法案の内容には、到底賛成できない。
3 第3に、改正法案は、保護観察中の少年が遵守事項に違反し、その程度が重い場合に、家庭裁判所の決定により当該少年を少年院に送致できるとしている。
この点については、遵守事項違反がぐ犯に該当すると考えられる場合、現行法上のぐ犯通告制度(犯罪者予防更生法42条)を適用することにより少年院送致することも可能であり、新たな制度を設ける必要性は何ら存しない。
改正法案は、保護司と少年の人間的な接触を通じて少年を更生に導こうとする制度を、施設収容の威嚇によって遵守事項を遵守させるという制度にしようとするものであり、保護観察制度のあり方そのものを誤った方向に改変するものである。
以上のとおり、今回改正の対象となっている事項に関し、仮に、現状に不十分な点があれば、児童相談所や児童自立支援施設等の児童福祉機関の機能を強化し、また保護観察官を増員する等の方法で対処すべきである。
従って、国選付添人制度の導入を除き、今回の改正法案には賛成できない。
以上
広島弁護士会
会長 山田延廣
「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)が本年3月1日に閣議決定され、国会に上程されている。
当会は、改正法案が非行事実に争いがない場合であっても、一定の重大事件において家庭裁判所が職権で弁護士である国選付添人を選任できるとしている点については評価するものの、以下の3点については反対であるため、その旨の意思を表明する。
1 第1に、改正法案は、警察官による触法少年及びぐ犯少年に対する調査権限を法律上明確化している。
しかし、これは、非行少年に対する福祉的な対応を後退させるものであり、賛成できない。すなわち、現行法上、触法少年や14歳未満のぐ犯少年に対する調査や処遇は、福祉的な見地から児童相談所を中心として行うこととなっており、警察官の関わりは補助的な役割に過ぎないのである。現状の触法少年等への調査や処遇について不十分な点もあるが、これは児童相談所をはじめとした福祉機関を強化して対処すべきであり、警察の権限を強化することにより解決を図るべきではない。
とりわけ、このような低年齢の児童は、表現能力が不十分なうえ、被暗示性・迎合性を有しており、児童の福祉や心理について専門性を有していない警察官が取調べを行うことは、誤った供述を引き出す危険性が高く、当該児童を心理的に傷つけるおそれがあるなど問題が多い。
また、ぐ犯とは犯罪ではなく、将来法をおかすおそれにすぎないにもかかわらず、「ぐ犯少年の疑い」という要件のもとで警察の調査権限を認めるなら、その範囲は無限定に拡大しかねないうえ、警察が、学校等の公務所・団体へ照会することも可能であるとされていることから、少年の生活全般が警察の監視のもとにおかれるという危惧を払拭できない。
2 第2に、改正法案は、少年院に送致可能な少年の下限年齢を撤廃するとしているが、14歳に満たない少年に規律や訓練を重視する矯正教育を行うことは適当ではない。
年齢の低い少年を家族から分離して更生をはからなければならない場合、家庭的な雰囲気のもとで、人間関係を中心とした生活力を身につけること、いわゆる「育て直し」が必要である。このため、現行法はこのような理念のもと、児童自立支援施設を設けているのである。
今回の改正法案の背景には、14歳未満の少年であっても相当期間の閉鎖的な処遇を行う必要があるとの考えに基づくものであろうが、そのような少年への対応は、児童自立支援施設を充実強化し、必要な場合には少年法第6条第1項の家庭裁判所による強制的措置の規定を活用することによって対処すべきである。小学生であっても、少年院に送致できるとする改正法案の内容には、到底賛成できない。
3 第3に、改正法案は、保護観察中の少年が遵守事項に違反し、その程度が重い場合に、家庭裁判所の決定により当該少年を少年院に送致できるとしている。
この点については、遵守事項違反がぐ犯に該当すると考えられる場合、現行法上のぐ犯通告制度(犯罪者予防更生法42条)を適用することにより少年院送致することも可能であり、新たな制度を設ける必要性は何ら存しない。
改正法案は、保護司と少年の人間的な接触を通じて少年を更生に導こうとする制度を、施設収容の威嚇によって遵守事項を遵守させるという制度にしようとするものであり、保護観察制度のあり方そのものを誤った方向に改変するものである。
以上のとおり、今回改正の対象となっている事項に関し、仮に、現状に不十分な点があれば、児童相談所や児童自立支援施設等の児童福祉機関の機能を強化し、また保護観察官を増員する等の方法で対処すべきである。
従って、国選付添人制度の導入を除き、今回の改正法案には賛成できない。
以上