会長声明2009.07.08
海賊対処法成立に抗議する会長声明
広島弁護士会
会長 山下哲夫
政府は、本年3月13日、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案を閣議決定し、同法案は、同日、第171回通常国会に提出され、6月19日に衆議院で再可決されたことから法律として成立した。海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律は、海賊行為の具体的内容を定義した上で同行為を犯罪として処罰する旨規定し、海上保安庁による海賊行為への対処措置を定めるとともに、防衛大臣が自衛隊の部隊に対する海賊対処行動の実施を命ずることができるものとしている。加えて、同自衛隊による海賊対処行動に際しては、一定条件の下に武器使用が認められている。
同法律は、憲法9条1項が禁止する武力による威嚇又は武力の行使を招くおそれがあるというべきである。同法律では、航行中の船舶を強取する等の目的で他の船舶につきまとい、又は、その進行を妨げる行為(同法律第2条第6号)等を「海賊行為」と定義して、その犯人の逮捕、逃走防止等のために必要と認められるに武器を使用することを認めている(同法律第8条第2項、警察官職務執行法第7条)。同武器使用は原則的に威嚇射撃等を想定しているとはいえ、かかる武器使用は先制攻撃を認めることにもつながりうるものであって、憲法上禁止されている武力の行使を招来することにもなりかねない。また、自衛隊による同武器使用は、武力による威嚇にまで拡大する可能性が否定できない。
ましてや、ソマリア沖海域では、その武力の行使又は武力による威嚇に至る可能性が高い状態にあるというべきである。国際連合安全保障理事会は、安保理決議第1838号ソマリア情勢に関する決議によって、関連諸国に対し、海軍艦艇・軍用機の展開によるソマリア領海内及び同国沖公海上における海賊行為に対する戦いに積極的に参加することを要請しており、同決議第1851号ソマリア情勢に関する決議は、暫定連邦政府と協力する各国に対し、海上における海賊行為及び武装強盗を制圧するために、同国内であらゆる必要な措置を行うことができることを決定している。かかる要請、及び決定がされている同国領海内及び同国沖公海上における自衛隊の海賊対処行動は、他国の軍隊と共同した武力行使になる可能性が高いと考えられ、同海域における自衛隊の武器使用を認めることは、憲法上禁止されている武力による威嚇又は武力の行使となる可能性が高い。
加えて、自衛隊の海賊対処行動は、内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣が命ずるものとされており、国会の関与は事後的報告のみとされていることから、自衛隊による海賊対処行動に対する国会の民主的コントロールにも問題があるというべきである。
海賊行為が海上輸送の用に供する船舶その他の海上を航行する船舶の航行の安全に対する極めて重大な加害行為であって、深刻な国際問題であることは論を待たない。しかし、かかる海賊行為に対する対処行動として海上保安庁による海賊行為への対処に加えて、自衛隊による海賊対処行動まで認めることは、警察比例の原則を逸脱するに留まらず、上記のような憲法違反を生じさせるおそれがあるものであって、極めて問題性が高いというべきである。
よって、当会は、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律の成立に対して抗議する。
以上
広島弁護士会
会長 山下哲夫
政府は、本年3月13日、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律案を閣議決定し、同法案は、同日、第171回通常国会に提出され、6月19日に衆議院で再可決されたことから法律として成立した。海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律は、海賊行為の具体的内容を定義した上で同行為を犯罪として処罰する旨規定し、海上保安庁による海賊行為への対処措置を定めるとともに、防衛大臣が自衛隊の部隊に対する海賊対処行動の実施を命ずることができるものとしている。加えて、同自衛隊による海賊対処行動に際しては、一定条件の下に武器使用が認められている。
同法律は、憲法9条1項が禁止する武力による威嚇又は武力の行使を招くおそれがあるというべきである。同法律では、航行中の船舶を強取する等の目的で他の船舶につきまとい、又は、その進行を妨げる行為(同法律第2条第6号)等を「海賊行為」と定義して、その犯人の逮捕、逃走防止等のために必要と認められるに武器を使用することを認めている(同法律第8条第2項、警察官職務執行法第7条)。同武器使用は原則的に威嚇射撃等を想定しているとはいえ、かかる武器使用は先制攻撃を認めることにもつながりうるものであって、憲法上禁止されている武力の行使を招来することにもなりかねない。また、自衛隊による同武器使用は、武力による威嚇にまで拡大する可能性が否定できない。
ましてや、ソマリア沖海域では、その武力の行使又は武力による威嚇に至る可能性が高い状態にあるというべきである。国際連合安全保障理事会は、安保理決議第1838号ソマリア情勢に関する決議によって、関連諸国に対し、海軍艦艇・軍用機の展開によるソマリア領海内及び同国沖公海上における海賊行為に対する戦いに積極的に参加することを要請しており、同決議第1851号ソマリア情勢に関する決議は、暫定連邦政府と協力する各国に対し、海上における海賊行為及び武装強盗を制圧するために、同国内であらゆる必要な措置を行うことができることを決定している。かかる要請、及び決定がされている同国領海内及び同国沖公海上における自衛隊の海賊対処行動は、他国の軍隊と共同した武力行使になる可能性が高いと考えられ、同海域における自衛隊の武器使用を認めることは、憲法上禁止されている武力による威嚇又は武力の行使となる可能性が高い。
加えて、自衛隊の海賊対処行動は、内閣総理大臣の承認を得て防衛大臣が命ずるものとされており、国会の関与は事後的報告のみとされていることから、自衛隊による海賊対処行動に対する国会の民主的コントロールにも問題があるというべきである。
海賊行為が海上輸送の用に供する船舶その他の海上を航行する船舶の航行の安全に対する極めて重大な加害行為であって、深刻な国際問題であることは論を待たない。しかし、かかる海賊行為に対する対処行動として海上保安庁による海賊行為への対処に加えて、自衛隊による海賊対処行動まで認めることは、警察比例の原則を逸脱するに留まらず、上記のような憲法違反を生じさせるおそれがあるものであって、極めて問題性が高いというべきである。
よって、当会は、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律の成立に対して抗議する。
以上