声明・決議・意見書

会長声明2012.06.13

マイナンバー法案に反対する会長声明

広島弁護士会
会長 小田 清和

1 今国会において,「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」案(いわゆる「マイナンバー法」案。以下「本法案」という。)が提出され,審議されようとしている。
本法案は,国民及び住民登録をしている外国人に対し,社会保障と税の分野で共通に利用する番号(共通番号)を漏れなく付し,これらの分野の個人情報について,名寄せ・統合することを確実に可能とする制度(共通番号制)を創設するものである。その主たる目的は,行政運営の効率化,行政手続の簡素化による国民の負担軽減等ということである(本法案第1条)。
2 しかし,本法案は,国民や外国人のプライバシー権(憲法13条)を侵害する危険が極めて高いものである。
共通番号が用いられる行政分野(年金,労働保険,健康保険,生活保護,介護保険,税務等)の情報は,私生活全般に及び,その中には,個人の資産,病気など,極めてセンシティブな個人情報も含まれる。共通番号制度により,これらの情報が名寄せ・統合され,個人の情報が集約される結果,国家による国民監視の道具として利用されるおそれがある。しかも,本法案は,どのような場合に共通番号を利用し,情報の名寄せ・統合が出来るのかについて,その全てを主務省令に委ね,行政の判断で共通番号の利用範囲を拡大することができる仕組みとなっており,法律によるコントロールが及ばないものとなっている。また,国内有数の企業や公的機関がサイバー攻撃の対象になっている現代において,情報漏洩の危険は高まっているが,サイバー攻撃から完全に防御できるシステムが構築されているものではなく,個人情報が漏洩した結果,取り返しのつかない被害を招くおそれがある。
これらの点について,本法案は,「個人番号情報保護委員会」(31条)を設置し,同委員会に,共通番号等の適正な取扱いの確保,必要な指導,助言等を行わせることとしているが,同委員会は,委員長ほかわずか6名の組織であり,しかも委員の内3名は,非常勤であるなど(35条1項,2項),同委員会がどの程度,機能するのか,又,日本全国の関係機関の監視ができるのかどうかについても疑問があるし,前述の通り情報漏洩のおそれを完全に除去することはできない。
3  一方,プライバシー権の侵害のおそれがあるにも関わらず,内閣府が2011年(平成23年)11月に実施した「社会保障・税の番号制度に関する世論調査」によれば,共通番号制を「内容まで知っている」と答えた者は,わずか16・7%であったという結果が出ており,未だ認知度が高まっているとは考えられず,国民の間で同制度の導入について十分な議論がなされたとは言い難い。また,行政運営の効率化を目的とするのであれば,その費用対効果の試算がなされるべきであるが,共通番号制の導入にかかる費用として,最大,6100億円が必要とされる(運用経費は別途必要)との政府の資料は公表されているが,共通番号制により削減される費用や効果を試算した資料は公表されておらず,十分な検討がなされているとは言い難い。
4  以上のとおり,国民の基本的人権の侵害の危険性が高いにもかかわらず,国民的議論がなされているとは言えない状況をも考慮するなら,当会は,本法案に反対するものである。

以上