会長声明2012.11.14
地域適正配置に関する会長声明
広島弁護士会
会長 小田清和
質・量ともに充実した法曹を育てるという司法制度改革の理念に基づき,「プロセス」としての法曹養成制度の中核的機関となる法科大学院が平成16年に創設され,本年度で9年目を迎えている。この間,法科大学院は,法曹資格取得者だけでも1万人以上,他にも民間企業や公務部門など,社会の様々な分野に修了生を送り出してきた。
一方,法科大学院制度は,司法試験合格率の低迷,入学志願者の激減など,様々な課題に直面しており,地方の法科大学院も同様の問題でより厳しい状況に置かれている。
日本弁護士連合会及び当会は,これまで再三にわたって法科大学院の地域適正配置の重要性を訴えてきた。それは,各地の様々な階層から法曹を生み出すための専門教育を受ける機会を実質的に確保し,有為な人材が経済的事情や家庭の事情などで法曹への途を断念することがないよう配慮することのみにとどまらず,法科大学院のカリキュラムであるリーガル・クリニックを通じた司法アクセスの充実,研究者と地方法曹の協同による教育や研究の充実など,地域司法の充実・発展にも繋がるものであり,「法の支配」を全国あまねく実現するために必要不可欠な理念だからである。
広島の法科大学院においても,上述のリーガル・クリニックのほか,エクスターンシップ(当会会員事務所での実務研修)の実施や,当会会員の実務家教員・非常勤講師への選任など,当会と協同して専門教育を行っているところである。このような,地域に根ざした諸問題について考え,解決の方策を探るという教育は,地方に所在する法科大学院の大きな特色の一つである。そして,このような取り組みは,法科大学院生がその地域に関心を向け,その地方で開業する一つの契機ともなっている。その表れとして,広島県内2校の法科大学院出身弁護士89名の内,約67%にあたる60名が当会に,約81%にあたる72名が中国地方の単位会に登録しており,地域司法の充実に寄与している。
昨今,文部科学省は,法科大学院の組織見直しを促進するための公的支援の見直しと称し,入学者選抜における競争倍率や入学定員充足率,司法試験合格率という指標によって,国立大学法人運営費交付金及び私立大学等経常費補助金の削減を行うことを公表している。この見直しについて,当会は,平成22年9月8日付「法科大学院への国立大学法人運営交付金及び私学助成金の配分について」と題する文部科学大臣宛意見書において,反対の意見を表明し,当該見直しによって地域適正配置に深刻な影響を及ぼすことを述べた。しかし,文部科学省は,その後の平成22年9月16日の公的支援見直し制度導入時及び平成24年9月7日の見直し指標の変更の際のいずれにおいても,地域適正配置について考慮することはなく,当該指標は全国一律に適用されることとなっている。
地方の法科大学院は,多数の法科大学院が通学可能範囲内に併存している都市部の法科大学院とは異なり,法科大学院受験の併願はしにくく,高い競争倍率を維持することが困難である。また,選択肢が限られることから,司法試験合格率等の指標から法科大学院を選択するといった競争原理が正面から当てはまるものではなく,上記基準をそのままあてはめて公的支援を見直すのは適切ではない。
むしろ,地方の法科大学院は,司法制度改革審議会意見書の「公平性,開放性,多様性の確保」を支える重要な役割を担っていることからすれば,「適正な公的支援が行われる必要がある」のであって,国は,人的・物的な公的支援を充実させ,地方の法科大学院の存続に尽力すべきである。
法科大学院制度の創設以後,既に5校の法科大学院が撤退を表明しており,今後も法科大学院の統廃合は一定程度行われるものと思われる。しかし,地方の法科大学院は,競争原理による統廃合や公的見直しによって撤退を余儀なくされるようなことはあってはならず,地域適正配置という重要な役割を果たすべく,国及び社会が一丸となって支えていくべき存在である。
そこで,当会は,国に対して,地方法科大学院に対して適正な公的支援が行われるよう求めるとともに,広く社会に対して法科大学院の地域適正配置の必要性を訴えるものである。
以上
広島弁護士会
会長 小田清和
質・量ともに充実した法曹を育てるという司法制度改革の理念に基づき,「プロセス」としての法曹養成制度の中核的機関となる法科大学院が平成16年に創設され,本年度で9年目を迎えている。この間,法科大学院は,法曹資格取得者だけでも1万人以上,他にも民間企業や公務部門など,社会の様々な分野に修了生を送り出してきた。
一方,法科大学院制度は,司法試験合格率の低迷,入学志願者の激減など,様々な課題に直面しており,地方の法科大学院も同様の問題でより厳しい状況に置かれている。
日本弁護士連合会及び当会は,これまで再三にわたって法科大学院の地域適正配置の重要性を訴えてきた。それは,各地の様々な階層から法曹を生み出すための専門教育を受ける機会を実質的に確保し,有為な人材が経済的事情や家庭の事情などで法曹への途を断念することがないよう配慮することのみにとどまらず,法科大学院のカリキュラムであるリーガル・クリニックを通じた司法アクセスの充実,研究者と地方法曹の協同による教育や研究の充実など,地域司法の充実・発展にも繋がるものであり,「法の支配」を全国あまねく実現するために必要不可欠な理念だからである。
広島の法科大学院においても,上述のリーガル・クリニックのほか,エクスターンシップ(当会会員事務所での実務研修)の実施や,当会会員の実務家教員・非常勤講師への選任など,当会と協同して専門教育を行っているところである。このような,地域に根ざした諸問題について考え,解決の方策を探るという教育は,地方に所在する法科大学院の大きな特色の一つである。そして,このような取り組みは,法科大学院生がその地域に関心を向け,その地方で開業する一つの契機ともなっている。その表れとして,広島県内2校の法科大学院出身弁護士89名の内,約67%にあたる60名が当会に,約81%にあたる72名が中国地方の単位会に登録しており,地域司法の充実に寄与している。
昨今,文部科学省は,法科大学院の組織見直しを促進するための公的支援の見直しと称し,入学者選抜における競争倍率や入学定員充足率,司法試験合格率という指標によって,国立大学法人運営費交付金及び私立大学等経常費補助金の削減を行うことを公表している。この見直しについて,当会は,平成22年9月8日付「法科大学院への国立大学法人運営交付金及び私学助成金の配分について」と題する文部科学大臣宛意見書において,反対の意見を表明し,当該見直しによって地域適正配置に深刻な影響を及ぼすことを述べた。しかし,文部科学省は,その後の平成22年9月16日の公的支援見直し制度導入時及び平成24年9月7日の見直し指標の変更の際のいずれにおいても,地域適正配置について考慮することはなく,当該指標は全国一律に適用されることとなっている。
地方の法科大学院は,多数の法科大学院が通学可能範囲内に併存している都市部の法科大学院とは異なり,法科大学院受験の併願はしにくく,高い競争倍率を維持することが困難である。また,選択肢が限られることから,司法試験合格率等の指標から法科大学院を選択するといった競争原理が正面から当てはまるものではなく,上記基準をそのままあてはめて公的支援を見直すのは適切ではない。
むしろ,地方の法科大学院は,司法制度改革審議会意見書の「公平性,開放性,多様性の確保」を支える重要な役割を担っていることからすれば,「適正な公的支援が行われる必要がある」のであって,国は,人的・物的な公的支援を充実させ,地方の法科大学院の存続に尽力すべきである。
法科大学院制度の創設以後,既に5校の法科大学院が撤退を表明しており,今後も法科大学院の統廃合は一定程度行われるものと思われる。しかし,地方の法科大学院は,競争原理による統廃合や公的見直しによって撤退を余儀なくされるようなことはあってはならず,地域適正配置という重要な役割を果たすべく,国及び社会が一丸となって支えていくべき存在である。
そこで,当会は,国に対して,地方法科大学院に対して適正な公的支援が行われるよう求めるとともに,広く社会に対して法科大学院の地域適正配置の必要性を訴えるものである。
以上