会長声明2013.07.11
法曹養成制度検討会議取りまとめの再考を求める会長声明
広島弁護士会
会長 小野裕伸
1 政府の法曹養成制度検討会議は,平成25年6月26日,関係閣僚会議に提出する「取りまとめ」を公表した。この取りまとめは,①事前に実施されたパブリックコメントについて考慮されたものであるのか疑問が多いうえ,②司法修習生に対する経済的支援に対しては依然として給費制ではなく貸与制を前提とし,③法科大学院の地域適正配置についても十分な配慮がなされていないなど,極めて遺憾といわざるを得ない内容となっている。したがって,当会は,上記「取りまとめ」の再考を強く求める。
2 同検討会議では,「中間的取りまとめ」を公表した後,約1か月にわたってパブリックコメントを実施し,募集期間中に3119通の意見が寄せられた。このうちの8割近くが法科大学院生及び司法修習生に対する経済的支援に関するものであり,通数こそ明らかにされていないものの,その大半は司法修習生の給費制復活を求めるものと思われ,当会も同様の意見を述べたところである。
パブリックコメントとは,広く一般から意見を募り,その意見を考慮することにより,行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り,国民の権利利益の保護に役立てることを目的とするものである。しかしながら,検討会議では,給費制復活を求める大多数の意見に耳を傾けて議論を尽くすことをせず,従前どおり貸与制を前提とする取りまとめを公表するに至っている。
このような検討会議の姿勢は,パブリックコメント制度を形骸化させるものであり,諮問機関として極めて不当なものといわざるを得ない。政府は,すみやかにパブリックコメントに寄せられた意見を全て公表したうえ,さらなる議論を尽くすべきである。
3 司法修習は司法制度を担う法曹を育成するための国の根幹をなす制度であり,その修習の実を上げるため,司法修習生に対して修習専念義務が課されている。そのため,生活費等最低限の資金を給付することにより司法修習生の生活基盤を確保する必要があり,財政的事情のみで私費負担とすべきものではない。当会を含めた大多数の意見として給費制の復活が求められているのは,以上の認識が共通のものとなっているからである。
しかし,検討会議においては,このような大多数の共通認識を一顧だにせず,貸与制を前提として,旅費の支給や研修所への入寮配慮,兼業の許可といった弥縫策を論じるにとどまっている。
このような検討結果は,検討会議が司法修習生を取り巻く環境の実情や司法修習・給費制の意義について真に理解しているのか疑問といわざるを得ず,すみやかに給費制の復活に向けて再考すべきである。
4 また,法科大学院の地域適正配置の重要性についても,当会を含め多数の意見が寄せられているところ,この点についても全く検討を加えられた形跡がないまま,最終的な取りまとめが公表されるに至っている。
司法制度改革審議会の意見書は,「自由と公正を核とする法(秩序)が,あまねく国家,社会に浸透し,国民の日常生活において息づくようになるため」の改革を目指し,その人的基盤の確保のため,「地域を考慮した全国的な適正配置に配慮」した法科大学院制度を提言した。この地域適正配置の理念は,多様な人材の確保という役割はもちろん,地方司法の充実発展を支える社会インフラとしての役割もあることにも注目しなければならない。
当会は,文部科学省による公的支援見直しが地域適正配置に深刻な影響を及ぼすことを繰り返し表明してきたが,昨今,募集停止や単独での生き残りを断念する地方の法科大学院があらわれており,当会の懸念が現実のものとなった。
このような状況において,政府としては改めて地域適正配置の重要性を再検討したうえ,むしろ積極的な支援策を表明すべきであるのに,最終的な取りまとめにおいても,説明文の中のなお書きでわずか2行触れられるにとどまり,実効的な対策を論じていない。
このような検討結果は,法科大学院の地域適正配置についての十分な理解に基づくものとは考えられず,すみやかに再考すべきである。
5 以上のとおり,このたびの「法曹養成制度検討会議取りまとめ」は,実施されたパブリックコメントの意見について十分な検討が加えられていないものであるから,寄せられた全ての意見をすみやかに公表するとともに,これを尊重し,司法修習生の給費制の復活及び法科大学院の地域適正配置の重要性について,再度の考慮を行った取りまとめがなされるべきである。
以上
広島弁護士会
会長 小野裕伸
1 政府の法曹養成制度検討会議は,平成25年6月26日,関係閣僚会議に提出する「取りまとめ」を公表した。この取りまとめは,①事前に実施されたパブリックコメントについて考慮されたものであるのか疑問が多いうえ,②司法修習生に対する経済的支援に対しては依然として給費制ではなく貸与制を前提とし,③法科大学院の地域適正配置についても十分な配慮がなされていないなど,極めて遺憾といわざるを得ない内容となっている。したがって,当会は,上記「取りまとめ」の再考を強く求める。
2 同検討会議では,「中間的取りまとめ」を公表した後,約1か月にわたってパブリックコメントを実施し,募集期間中に3119通の意見が寄せられた。このうちの8割近くが法科大学院生及び司法修習生に対する経済的支援に関するものであり,通数こそ明らかにされていないものの,その大半は司法修習生の給費制復活を求めるものと思われ,当会も同様の意見を述べたところである。
パブリックコメントとは,広く一般から意見を募り,その意見を考慮することにより,行政運営の公正さの確保と透明性の向上を図り,国民の権利利益の保護に役立てることを目的とするものである。しかしながら,検討会議では,給費制復活を求める大多数の意見に耳を傾けて議論を尽くすことをせず,従前どおり貸与制を前提とする取りまとめを公表するに至っている。
このような検討会議の姿勢は,パブリックコメント制度を形骸化させるものであり,諮問機関として極めて不当なものといわざるを得ない。政府は,すみやかにパブリックコメントに寄せられた意見を全て公表したうえ,さらなる議論を尽くすべきである。
3 司法修習は司法制度を担う法曹を育成するための国の根幹をなす制度であり,その修習の実を上げるため,司法修習生に対して修習専念義務が課されている。そのため,生活費等最低限の資金を給付することにより司法修習生の生活基盤を確保する必要があり,財政的事情のみで私費負担とすべきものではない。当会を含めた大多数の意見として給費制の復活が求められているのは,以上の認識が共通のものとなっているからである。
しかし,検討会議においては,このような大多数の共通認識を一顧だにせず,貸与制を前提として,旅費の支給や研修所への入寮配慮,兼業の許可といった弥縫策を論じるにとどまっている。
このような検討結果は,検討会議が司法修習生を取り巻く環境の実情や司法修習・給費制の意義について真に理解しているのか疑問といわざるを得ず,すみやかに給費制の復活に向けて再考すべきである。
4 また,法科大学院の地域適正配置の重要性についても,当会を含め多数の意見が寄せられているところ,この点についても全く検討を加えられた形跡がないまま,最終的な取りまとめが公表されるに至っている。
司法制度改革審議会の意見書は,「自由と公正を核とする法(秩序)が,あまねく国家,社会に浸透し,国民の日常生活において息づくようになるため」の改革を目指し,その人的基盤の確保のため,「地域を考慮した全国的な適正配置に配慮」した法科大学院制度を提言した。この地域適正配置の理念は,多様な人材の確保という役割はもちろん,地方司法の充実発展を支える社会インフラとしての役割もあることにも注目しなければならない。
当会は,文部科学省による公的支援見直しが地域適正配置に深刻な影響を及ぼすことを繰り返し表明してきたが,昨今,募集停止や単独での生き残りを断念する地方の法科大学院があらわれており,当会の懸念が現実のものとなった。
このような状況において,政府としては改めて地域適正配置の重要性を再検討したうえ,むしろ積極的な支援策を表明すべきであるのに,最終的な取りまとめにおいても,説明文の中のなお書きでわずか2行触れられるにとどまり,実効的な対策を論じていない。
このような検討結果は,法科大学院の地域適正配置についての十分な理解に基づくものとは考えられず,すみやかに再考すべきである。
5 以上のとおり,このたびの「法曹養成制度検討会議取りまとめ」は,実施されたパブリックコメントの意見について十分な検討が加えられていないものであるから,寄せられた全ての意見をすみやかに公表するとともに,これを尊重し,司法修習生の給費制の復活及び法科大学院の地域適正配置の重要性について,再度の考慮を行った取りまとめがなされるべきである。
以上