会長声明2015.06.15
区域外避難者への避難先住宅無償提供の終了に反対する声明
広島弁護士会
会長 木村 豊
第1 声明の趣旨
1 福島県に対し,区域外避難者へのみなし仮設住宅の無償提供を2016年度で打ち切ることなく,速やかに,2017年度以降も期間延長することを決定するよう求める。
2 政府に対し,福島県が,区域外避難者へのみなし仮設住宅無償提供が継続できるよう,引き続き,十分な財源を確保するよう求める。
第2 声明の理由
1 福島第一原子力発電所事故後,避難指示を受けずに避難した区域外避難者に対する避難先住宅(災害救助法上の「みなし仮設住宅」。)の無償提供について,先月17日から福島県が2016年度で終える方針を固めた旨の報道が各報道機関からなされている。仮に,報道内容が事実であり,福島県が区域外避難者へのみなし仮設住宅の無償提供を2016年度で一律に打ち切り,区域外避難者の帰還を促すのであれば,その政策決定は,避難者の実情を踏まえておらず,到底容認することはできない。
2 福島県が2015年4月27日に発表した最新の避難者意向調査によれば,区域外避難者の58.8%が応急仮設住宅での避難生活を余儀なくされており,46.5%が入居期間の延長を求めている(前年度から2.5%増)。延長を求める理由として,58.3%が生活資金の不安を,56%が放射線による人体への影響という不安をあげ,「よく眠れない」,「何事も以前より楽しめなくなった」という心身の不調を訴える回答も増加している。また,調査への回答数自体,区域外避難者の回答は37%も増加している(避難指示区域避難者の回答は20%減少)。
これは,区域外避難者が,現在も避難元に帰還するのか,それとも避難先に定住するのか簡単には決めかねる現状があることを端的に示している。
3 区域外避難者を取り巻く状況は,復旧・復興に程遠く,原発事故から丸4年以上が経過した現在も大きく改善されたとはいえない。これは,未だに原発事故が収束したとはいえず,また,原発事故によって拡散した放射性物質の健康への影響が簡単には解明されないことに起因するものである。また,避難元への帰還を望んでいる避難者においても,長期間の避難生活の中で,避難先での就職や子供の進学などにより生活環境が大きく変化しており,短期間で避難元に帰還することは必ずしも容易ではない。
本来,避難するか帰還するかは,個々人の自由な自己決定に委ねられるべきである。それにもかかわらず,2016年度で避難先のみなし仮設住宅の無償提供を終えるとすれば,避難生活を選択した被害者に対し,間接的に帰還又は移住を強制する結果となりかねず,ひとり一人が,このまま避難先に定住するか,避難元に帰還するか,もう少し時間をかけて決断するか,という選択を尊重する人間の復興の理念に真っ向から反する恐れがある。そればかりか,「原発事故による健康不安」という短期的には到底払拭しきれない原発事故による損害が現存しているにも関わらず,当該損害に対する福島県の姿勢を何ら明確にすることなく,漫然と帰還・移住を促す政策を採ることになれば,福島県自体が「原発事故による健康不安」という原発事故の根源的損害を積極的に否定する結果となる可能性すらある。
4 確かに,みなし仮設住宅の提供は,地方自治法第238条の4第7項が根拠規定となり,建築基準法第85条に定める応急仮設住宅の規定を準用し,「供与期間2年及び延長は1年ごと」という運用が行われている(供与期間2年について,災害救助法第4条第3項,同施行令第3条第1項,平成25年10月1日内閣府告示第228号第2条第2号ト。延長1年ごとについて,特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律第8条)。
しかし,みなし仮設住宅はプレハブ等の応急仮設住宅とは異なり,建築基準法所定の基準を満たした通常の建築物であるから,必ずしも「供与期間2年及び延長は1年ごと」とする合理性はない。すでにみた区域外避難者の実情,及びこの問題が,個人の重要な自己決定に属する問題であることを,十二分に踏まえた運用がなされるべきである。
5 以上より,当弁護士会は,福島県に対し,区域外避難者への避難先でのみなし仮設住宅の無償提供を2016年度で打ち切ることなく,速やかに,2017年度以降も期間延長することを決定するよう求める。
また,現在,このみなし仮設住宅の無償提供は,国が財源を確保することによって,事実上,福島県に財政上の負担をさせないという運用がされている。そこで,当弁護士会は,政府に対し,みなし仮設住宅の無償提供の財源を,引き続き確保するよう求める。
以上
広島弁護士会
会長 木村 豊
第1 声明の趣旨
1 福島県に対し,区域外避難者へのみなし仮設住宅の無償提供を2016年度で打ち切ることなく,速やかに,2017年度以降も期間延長することを決定するよう求める。
2 政府に対し,福島県が,区域外避難者へのみなし仮設住宅無償提供が継続できるよう,引き続き,十分な財源を確保するよう求める。
第2 声明の理由
1 福島第一原子力発電所事故後,避難指示を受けずに避難した区域外避難者に対する避難先住宅(災害救助法上の「みなし仮設住宅」。)の無償提供について,先月17日から福島県が2016年度で終える方針を固めた旨の報道が各報道機関からなされている。仮に,報道内容が事実であり,福島県が区域外避難者へのみなし仮設住宅の無償提供を2016年度で一律に打ち切り,区域外避難者の帰還を促すのであれば,その政策決定は,避難者の実情を踏まえておらず,到底容認することはできない。
2 福島県が2015年4月27日に発表した最新の避難者意向調査によれば,区域外避難者の58.8%が応急仮設住宅での避難生活を余儀なくされており,46.5%が入居期間の延長を求めている(前年度から2.5%増)。延長を求める理由として,58.3%が生活資金の不安を,56%が放射線による人体への影響という不安をあげ,「よく眠れない」,「何事も以前より楽しめなくなった」という心身の不調を訴える回答も増加している。また,調査への回答数自体,区域外避難者の回答は37%も増加している(避難指示区域避難者の回答は20%減少)。
これは,区域外避難者が,現在も避難元に帰還するのか,それとも避難先に定住するのか簡単には決めかねる現状があることを端的に示している。
3 区域外避難者を取り巻く状況は,復旧・復興に程遠く,原発事故から丸4年以上が経過した現在も大きく改善されたとはいえない。これは,未だに原発事故が収束したとはいえず,また,原発事故によって拡散した放射性物質の健康への影響が簡単には解明されないことに起因するものである。また,避難元への帰還を望んでいる避難者においても,長期間の避難生活の中で,避難先での就職や子供の進学などにより生活環境が大きく変化しており,短期間で避難元に帰還することは必ずしも容易ではない。
本来,避難するか帰還するかは,個々人の自由な自己決定に委ねられるべきである。それにもかかわらず,2016年度で避難先のみなし仮設住宅の無償提供を終えるとすれば,避難生活を選択した被害者に対し,間接的に帰還又は移住を強制する結果となりかねず,ひとり一人が,このまま避難先に定住するか,避難元に帰還するか,もう少し時間をかけて決断するか,という選択を尊重する人間の復興の理念に真っ向から反する恐れがある。そればかりか,「原発事故による健康不安」という短期的には到底払拭しきれない原発事故による損害が現存しているにも関わらず,当該損害に対する福島県の姿勢を何ら明確にすることなく,漫然と帰還・移住を促す政策を採ることになれば,福島県自体が「原発事故による健康不安」という原発事故の根源的損害を積極的に否定する結果となる可能性すらある。
4 確かに,みなし仮設住宅の提供は,地方自治法第238条の4第7項が根拠規定となり,建築基準法第85条に定める応急仮設住宅の規定を準用し,「供与期間2年及び延長は1年ごと」という運用が行われている(供与期間2年について,災害救助法第4条第3項,同施行令第3条第1項,平成25年10月1日内閣府告示第228号第2条第2号ト。延長1年ごとについて,特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律第8条)。
しかし,みなし仮設住宅はプレハブ等の応急仮設住宅とは異なり,建築基準法所定の基準を満たした通常の建築物であるから,必ずしも「供与期間2年及び延長は1年ごと」とする合理性はない。すでにみた区域外避難者の実情,及びこの問題が,個人の重要な自己決定に属する問題であることを,十二分に踏まえた運用がなされるべきである。
5 以上より,当弁護士会は,福島県に対し,区域外避難者への避難先でのみなし仮設住宅の無償提供を2016年度で打ち切ることなく,速やかに,2017年度以降も期間延長することを決定するよう求める。
また,現在,このみなし仮設住宅の無償提供は,国が財源を確保することによって,事実上,福島県に財政上の負担をさせないという運用がされている。そこで,当弁護士会は,政府に対し,みなし仮設住宅の無償提供の財源を,引き続き確保するよう求める。
以上