会長声明2017.06.30
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し,廃止を求める会長声明
広島弁護士会
会長 下中奈美
第1 声明の趣旨
当会は,国会に対し,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に断固抗議し,早急にその廃止を求める。
第2 声明の理由
1 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下,「カジノ解禁推進法」という。)が,2016(平成28)年12月15日に成立し,現在具体的な制度設計が検討されているところである。
2 もっとも,同種法案は,2013(平成25)年12月に国会に提出されたものの,実質的な議論が何ら行われないまま,2014(平成26)年11月の衆議院解散に際し一旦廃案とされた。その後,2015(平成27)年4月に再提出されたものの,1年半以上もの間全く審議されていなかったにもかかわらず,突如として,2016(平成28)年11月30日から法案の審議が開始され,衆議院内閣委員会においては3日後に採決がなされ,参議院内閣委員会においてもカジノ解禁推進法は,反対意見を十分に考慮することなく,直ちに可決されている。
そもそも,カジノ解禁推進法は,我が国の刑法が賭博罪として禁止している行為のうち,特定の者,特定の場所に限定して非犯罪化することを公認するものであり,日本の刑事司法政策に与える影響の大きさからみても,慎重な審議が必要とされるべきものであった。
ところが,カジノ解禁推進法は,充実した審議がなされないままに,上述の経緯に鑑みれば,結論ありきで成立されたものと言わざるを得ないのであって,その法案審議のプロセスという手続的な観点からしても,重大な問題を孕んでいるものと評価せざるを得ない。
3 そして,カジノ解禁においては,カジノを資金源とする暴力団対策の問題,マネー・ロンダリング対策の問題,ギャンブル依存症患者の増加やこれに伴う多重債務者増加による生活の困窮の問題,自殺者の増加の問題,青少年の健全育成への悪影響の問題等,カジノ施設の設置による看過できない数多くの弊害の発生が予見されるものである。
特に,ギャンブル依存症は,単にギャンブルが好きな性格,傾向があるというものだけではなく,国際的な診断基準が定められている疾病である。「ギャンブル等依存症が疑われる者」は,平成25年度調査で成人の4.8%であり,平成28年度調査で成人の2.7%であった。このように,我が国においては現在でも多くのギャンブル依存症に苦しむ者がおり,これについても更なる対策が必要とされているところである。
従って,カジノ解禁を決定するのであれば,上記のような問題に対応する,必要な対策が適宜検討され,制度として設けられるべきであるにもかかわらず,上述のとおり,カジノ解禁推進法は,結論ばかりが先行して,拙速に成立されたものである。
4 さらに,カジノ解禁を肯定する理由として挙げられている経済的効果や地域振興についても,治安,風俗環境の悪化によってカジノ設置自治体の人口が減少したり,カジノが破綻し,税収減となり,地域経済と市民に対し深刻なダメージを与えたという,韓国や米国等の先行事例が指摘されているところである。
従って,カジノが解禁されたからといって,経済的効果や地域振興が得られるという保証などどこにもない。そもそも,経済の活性化は,ギャンブルなどではなく勤労によるべきであり,地域振興についても,カジノ解禁ではなく,我が国の豊かな自然や文化などの観光資源や,その地域に住む住民らの活発な交流により実現されるべきものである。
5 以上の理由から,当会は,カジノ解禁推進法の成立に断固抗議し,早急にその廃止を求めるものである。
以上
広島弁護士会
会長 下中奈美
第1 声明の趣旨
当会は,国会に対し,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に断固抗議し,早急にその廃止を求める。
第2 声明の理由
1 「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下,「カジノ解禁推進法」という。)が,2016(平成28)年12月15日に成立し,現在具体的な制度設計が検討されているところである。
2 もっとも,同種法案は,2013(平成25)年12月に国会に提出されたものの,実質的な議論が何ら行われないまま,2014(平成26)年11月の衆議院解散に際し一旦廃案とされた。その後,2015(平成27)年4月に再提出されたものの,1年半以上もの間全く審議されていなかったにもかかわらず,突如として,2016(平成28)年11月30日から法案の審議が開始され,衆議院内閣委員会においては3日後に採決がなされ,参議院内閣委員会においてもカジノ解禁推進法は,反対意見を十分に考慮することなく,直ちに可決されている。
そもそも,カジノ解禁推進法は,我が国の刑法が賭博罪として禁止している行為のうち,特定の者,特定の場所に限定して非犯罪化することを公認するものであり,日本の刑事司法政策に与える影響の大きさからみても,慎重な審議が必要とされるべきものであった。
ところが,カジノ解禁推進法は,充実した審議がなされないままに,上述の経緯に鑑みれば,結論ありきで成立されたものと言わざるを得ないのであって,その法案審議のプロセスという手続的な観点からしても,重大な問題を孕んでいるものと評価せざるを得ない。
3 そして,カジノ解禁においては,カジノを資金源とする暴力団対策の問題,マネー・ロンダリング対策の問題,ギャンブル依存症患者の増加やこれに伴う多重債務者増加による生活の困窮の問題,自殺者の増加の問題,青少年の健全育成への悪影響の問題等,カジノ施設の設置による看過できない数多くの弊害の発生が予見されるものである。
特に,ギャンブル依存症は,単にギャンブルが好きな性格,傾向があるというものだけではなく,国際的な診断基準が定められている疾病である。「ギャンブル等依存症が疑われる者」は,平成25年度調査で成人の4.8%であり,平成28年度調査で成人の2.7%であった。このように,我が国においては現在でも多くのギャンブル依存症に苦しむ者がおり,これについても更なる対策が必要とされているところである。
従って,カジノ解禁を決定するのであれば,上記のような問題に対応する,必要な対策が適宜検討され,制度として設けられるべきであるにもかかわらず,上述のとおり,カジノ解禁推進法は,結論ばかりが先行して,拙速に成立されたものである。
4 さらに,カジノ解禁を肯定する理由として挙げられている経済的効果や地域振興についても,治安,風俗環境の悪化によってカジノ設置自治体の人口が減少したり,カジノが破綻し,税収減となり,地域経済と市民に対し深刻なダメージを与えたという,韓国や米国等の先行事例が指摘されているところである。
従って,カジノが解禁されたからといって,経済的効果や地域振興が得られるという保証などどこにもない。そもそも,経済の活性化は,ギャンブルなどではなく勤労によるべきであり,地域振興についても,カジノ解禁ではなく,我が国の豊かな自然や文化などの観光資源や,その地域に住む住民らの活発な交流により実現されるべきものである。
5 以上の理由から,当会は,カジノ解禁推進法の成立に断固抗議し,早急にその廃止を求めるものである。
以上