声明・決議・意見書

総会決議2011.05.23

個人通報制度の導入及び国内人権機関の設置を求める決議

広島弁護士会

【決議事項】

当会は,わが国における人権保障を推進し,国際人権基準の実施を確保するため,2008年の国際人権(自由権)規約委員会の総括所見をはじめとする各条約機関からの相次ぐ勧告をふまえ,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入及び国際連合の「国内人権機関の地位に関する原則(いわゆるパリ原則)」に合致した,真に政府から独立した国内人権機関の設置を,政府及び国会に対して強く求める。

以上のとおり決議する。

【提案理由】

1 個人通報制度について
個人通報制度とは,国際条約によって認められた権利を侵害された個人が,各人権条約の国際機関に直接に訴え,その救済を求める制度である。この個人通報制度を実現するためには,各条約の人権保障条項について個人通報制度を定めている選択議定書等を批准するなどの手続が必要であるところ,政府は,これらの選択議定書等の批准を行っていない。
OECD(経済協力開発機構)加盟30か国のうち,何らかの個人通報制度を持たない国はわが国だけである。
日本政府は,自由権規約委員会から1993(平成5)年,1998(平成10)年,2008(平成20)年と3回も第1選択議定書の批准を勧告され,女性差別撤廃委員会,人権理事会等からも個人通報制度の受け入れを繰り返し勧告されている。
ところで,わが国の裁判所は,国際条約の人権保障条項の適用については必ずしも積極的とはいえない。その結果,国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっている。したがって,各人権条約における個人通報制度がわが国においても実現することになれば,被害者個人が各人権条約上の委員会に直接に見解・勧告等を直接求めることが可能となるだけではなく,裁判官もまた,より真剣に国際的な条約解釈に取り組み,適正な憲法解釈や法解釈が展開されることが期待できる。また,それによって,具体的な事案における行政府や立法府による改善を促す契機にもなると考えられる。

2 国内人権機関の設置について
人権侵害を受けた者が裁判制度を利用するには,多くの費用と時間が必要である。また,社会的にみて深刻な人権侵害と認められる事象であっても,裁判所による法的な救済が困難なケースも少なくない。このような場合,裁判所(司法)以外にも,簡易かつ迅速に人権救済にあたり,立法や行政に対して人権保障の観点から発言する機関(国内人権機関)が必要であると考えられる。そのため,国連決議及び人権諸条約機関では,各国に対し,国内人権機関を設置するよう求めており,多数の国が既にこれを設けている。
国連は,1993年12月に「国内人権機関の地位に関する原則(いわゆるパリ原則)」を採択し,各国に対し,国内人権機関が法律に基づいて設置されること,権限行使の独立性が保障されていること,委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること,調査権限及び政策提言機能を持つことなどを求めている。
わが国に対しては,国際人権(自由権)規約委員会,人種差別撤廃委員会,女性差別撤廃委員会,子どもの権利委員会などから,早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの所見が表明されており,2008年5月には,国連人権理事会の勧告がなされる状況にも至っている。
現在,わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが,独立性等の点からも極めて不十分な制度である。また,2002年に国会に提出された人権擁護法案や,2005年に民主党が提案した法律案も,パリ原則に適合しているとは言えない不十分なものであった。
このような状況の中で,日本弁護士連合会は,2008年11月18日,パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。
さらに,2010年6月22日には,法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において,パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど,国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。また,本年4月には,与党においても「人権侵害救済機関検討プロジェクトチーム」の初会合が開かれるなど,実現に向けた動きもみられる。

3 まとめ
そこで,当会は,わが国における人権保障を推進し,また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため,個人通報制度を一日も早く採用するとともに,パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。

以上