意見書2011.09.22
子ども・若者育成支援推進法に基づく計画作成及び施策の実施を求める意見書(1/2)
広島弁護士会
会長 水中 誠三
広島県及び県下地方公共団体に対して
子ども・若者育成支援推進法に基づく計画作成及び施策の実施を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 広島県及び県下地方公共団体は,子ども・若者育成支援推進法(以下,「子若法」という。)第9条第2項及び第3項に基づき,子ども・若者育成支援についての計画(以下,「支援計画」という。)を作成・公表すべきである。
上記計画の作成にあたっては,子ども・若者を含めた住民から十分に意見を聴取したうえで,別紙記載の施策を盛り込むべきである。
2(1) 広島県は,「みんなで育てるこども夢プラン」について,改めて子ども・若者を含めた住民から十分に意見を聴取し,別紙記載の施策を盛り込む方向で,必要な改定を行うべきである。
(2) 次世代育成支援対策推進法(以下,「次世代法」という。)に基づく行動計画の中で,子若法に基づく施策の方針等を定めた広島県下の地方公共団体は,その施策の方針等について,改めて子ども・若者を含めた住民から十分に意見を聴取し,別紙記載の施策を盛り込む方向で,必要な改定を行うべきである。
3 広島県及び県下地方公共団体は,国及び地方公共団体の関係機関相互の密接な連携並びに民間の団体及び国民一般の理解と協力の下に,関連分野における総合的な取組として,子ども・若者育成支援施策を実施すべきである(子若法第7条)。
第2 意見の理由
1 子若法は,2009(平成21)年7月21日に成立し,2010(平成22)年4月1日に施行された。
同法は,対象を0歳から30歳の子ども・若者としており,「子ども・若者が次代の社会を担い,その健やかな成長が我が国社会の発展の基礎をなすものであることにかんがみ,日本国憲法及び児童の権利に関する条約の理念にのっとり,子ども・若者をめぐる環境が悪化し,社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者の問題が深刻な状況にあることを踏まえ,子ども・若者の健やかな育成,子ども・若者が社会生活を円滑に営むことができるようにするための支援その他の取組について,その基本理念,国及び地方公共団体の責務並びに施策の基本となる事項を定めるとともに,子ども・若者育成支援推進本部を設置すること等により,他の関係法律による施策と相まって,総合的な子ども・若者育成支援のための施策を推進すること」を目的とする(同第1条)。
2 子若法は,子ども・若者育成支援の基本理念として,以下の7点を掲げる(同第2条)。
①一人一人の子ども・若者が,健やかに成長し,社会とのかかわりを自覚しつつ,自立した個人としての自己を確立し,他者とともに次代の社会を担うことができるようになることを目指すこと。
②子ども・若者について,個人としての尊厳が重んぜられ,不当な差別的取扱いを受けることがないようにするとともに,その意見を十分に尊重しつつ,その最善の利益を考慮すること。
③子ども・若者が成長する過程においては,様々な社会的要因が影響を及ぼすものであるとともに,とりわけ良好な家庭的環境で生活することが重要であることを旨とすること。
④子ども・若者育成支援において,家庭,学校,職域,地域その他の社会のあらゆる分野におけるすべての構成員が,各々の役割を果たすとともに,相互に協力しながら一体的に取り組むこと。
⑤子ども・若者の発達段階,生活環境,特性その他の状況に応じてその健やかな成長が図られるよう,良好な社会環境(教育,医療及び雇用に係る環境を含む。以下同じ。)の整備その他必要な配慮を行うこと。
⑥教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用その他の各関連分野における知見を総合して行うこと。
⑦修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者その他の子ども・若者であって,社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対しては,その困難の内容及び程度に応じ,当該子ども・若者の意思を十分に尊重しつつ,必要な支援を行うこと。
3 子若法は,子ども・若者をめぐる環境が悪化し,子ども・若者の問題が深刻化している現状をふまえ,上記目的及び基本理念を掲げた。
すなわち,現代の子ども・若者の中には,経済的な理由から高校や大学への進学をあきらめ,あるいは中退を余儀なくされている者や,貧困問題をはじめとして,児童虐待・児童買春・児童ポルノ等の様々な被害や困難にさらされ,就業意欲があっても就職できず,正社員を希望してもアルバイトや期間雇用とならざるを得ないなど,健やかな成長発達を阻害されている者がいる。こうした子ども・若者には福祉・教育等の多岐に渡る分野からの支援が必要であるが,縦割り行政の下では横断的な取り組みがされることなく,問題が見過ごされてきた。
そこで,民間団体及び国民一般の理解と協力の下,国及び地方公共団体が連携して総合的な子ども・若者育成支援策を推進する目的で,子若法が制定された。
4 子若法は,総合的な取組を実現させるべく,国に対しては子ども・若者育成支援施策を策定し,実施する責務を課し(第3条),地方公共団体に対しては,区域内における子ども・若者の状況に応じた施策を策定し,実施する責務を課した(第4条)。
また,同法は,前記の通り,児童の権利に関する条約の理念に則ることを明記し(第1条),さらに教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用その他の各関連分野における知見を総合して行うことを基本理念として掲げている点(第2条第6号),子ども・若者を含めた国民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとしている点(第12条)などで,従来の子ども・若者の育成を目指した法律とは異なる画期的な法律といえる。
5 子若法第8条に基づき,政府(子ども・若者育成支援推進本部)は,2010(平成22)年7月23日,支援計画の基本となる大綱である「子ども・若者ビジョン」(以下,「ビジョン」という。)を策定し,公表した。
「ビジョン」は,基本理念として,①憲法及び児童の権利に関する条約に基づき,子ども・若者の最善の利益を尊重すること,②子ども・若者は,大人の一段下の存在として位置づけるのではなく,大人と共に生きるパートナーであること,③子ども・若者が自尊感情や自己肯定感を育み,自立した個人としての自己を確立し社会の能動的形成者となるための成長・発達を支援すること,④子ども・若者一人一人の状況に応じた総合的な支援を社会全体で重層的に実施すること,⑤子ども・若者の問題は,それを取り巻く大人を含む社会全体の問題として,大人社会のあり方を見直すこと,の5つを掲げた。そして,第1に,全ての子ども・若者の健やかな成長を支援する施策,第2に,困難を有する子ども・若者やその家族を支援する施策,第3に,子ども・若者の健やかな成長を社会全体で支えるための環境を整備する施策,という3つの施策を進めるとしている。
6 子若法は,地方公共団体に対し,「ビジョン」を「勘案して」(同法第9条第1項,第2項),支援計画を作成することを求めている。
「ビジョン」の施策を実効性あるものとするためには,支援計画を,単なる引きこもり,ニートの就労対策や,既存の施策の寄せ集めとすべきでない。地方公共団体は,子ども・若者の意見を十分に尊重しつつ子ども・若者の最善の利益をはかり,その成長・発達を支援するという同法の趣旨を十分に勘案した上で,総合的な支援計画を作成すべきである。
それゆえ,支援計画の作成にあたっては,子ども・若者自身を含めた住民からの意見聴取を行うことが重要であり,地方公共団体が行うことができると考えられる別紙記載の施策が盛り込まれるべきである。
7 他方で,広島県における動きとしては,2010(平成22)年3月に「みんなで育てるこども夢プラン」が策定されている。同プランは,未就学児を対象とする子育て支援や家庭へのサポート,地域に密着した子育てを主眼としている。
しかし,「ビジョン」は,0歳から30歳の子ども・若者を広く対象とし,修学・就業のいずれもしていない子ども・若者や,社会生活を営む上で困難を有する子ども・若者に特に配慮している。前述のような子若法の目的・基本理念に照らせば,子育て支援を主眼とした家庭へのサポート等では不十分であり,広島県における支援計画においても,別紙記載の施策を盛り込む必要がある。
以上
広島弁護士会
会長 水中 誠三
広島県及び県下地方公共団体に対して
子ども・若者育成支援推進法に基づく計画作成及び施策の実施を求める意見書
第1 意見の趣旨
1 広島県及び県下地方公共団体は,子ども・若者育成支援推進法(以下,「子若法」という。)第9条第2項及び第3項に基づき,子ども・若者育成支援についての計画(以下,「支援計画」という。)を作成・公表すべきである。
上記計画の作成にあたっては,子ども・若者を含めた住民から十分に意見を聴取したうえで,別紙記載の施策を盛り込むべきである。
2(1) 広島県は,「みんなで育てるこども夢プラン」について,改めて子ども・若者を含めた住民から十分に意見を聴取し,別紙記載の施策を盛り込む方向で,必要な改定を行うべきである。
(2) 次世代育成支援対策推進法(以下,「次世代法」という。)に基づく行動計画の中で,子若法に基づく施策の方針等を定めた広島県下の地方公共団体は,その施策の方針等について,改めて子ども・若者を含めた住民から十分に意見を聴取し,別紙記載の施策を盛り込む方向で,必要な改定を行うべきである。
3 広島県及び県下地方公共団体は,国及び地方公共団体の関係機関相互の密接な連携並びに民間の団体及び国民一般の理解と協力の下に,関連分野における総合的な取組として,子ども・若者育成支援施策を実施すべきである(子若法第7条)。
第2 意見の理由
1 子若法は,2009(平成21)年7月21日に成立し,2010(平成22)年4月1日に施行された。
同法は,対象を0歳から30歳の子ども・若者としており,「子ども・若者が次代の社会を担い,その健やかな成長が我が国社会の発展の基礎をなすものであることにかんがみ,日本国憲法及び児童の権利に関する条約の理念にのっとり,子ども・若者をめぐる環境が悪化し,社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者の問題が深刻な状況にあることを踏まえ,子ども・若者の健やかな育成,子ども・若者が社会生活を円滑に営むことができるようにするための支援その他の取組について,その基本理念,国及び地方公共団体の責務並びに施策の基本となる事項を定めるとともに,子ども・若者育成支援推進本部を設置すること等により,他の関係法律による施策と相まって,総合的な子ども・若者育成支援のための施策を推進すること」を目的とする(同第1条)。
2 子若法は,子ども・若者育成支援の基本理念として,以下の7点を掲げる(同第2条)。
①一人一人の子ども・若者が,健やかに成長し,社会とのかかわりを自覚しつつ,自立した個人としての自己を確立し,他者とともに次代の社会を担うことができるようになることを目指すこと。
②子ども・若者について,個人としての尊厳が重んぜられ,不当な差別的取扱いを受けることがないようにするとともに,その意見を十分に尊重しつつ,その最善の利益を考慮すること。
③子ども・若者が成長する過程においては,様々な社会的要因が影響を及ぼすものであるとともに,とりわけ良好な家庭的環境で生活することが重要であることを旨とすること。
④子ども・若者育成支援において,家庭,学校,職域,地域その他の社会のあらゆる分野におけるすべての構成員が,各々の役割を果たすとともに,相互に協力しながら一体的に取り組むこと。
⑤子ども・若者の発達段階,生活環境,特性その他の状況に応じてその健やかな成長が図られるよう,良好な社会環境(教育,医療及び雇用に係る環境を含む。以下同じ。)の整備その他必要な配慮を行うこと。
⑥教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用その他の各関連分野における知見を総合して行うこと。
⑦修学及び就業のいずれもしていない子ども・若者その他の子ども・若者であって,社会生活を円滑に営む上での困難を有するものに対しては,その困難の内容及び程度に応じ,当該子ども・若者の意思を十分に尊重しつつ,必要な支援を行うこと。
3 子若法は,子ども・若者をめぐる環境が悪化し,子ども・若者の問題が深刻化している現状をふまえ,上記目的及び基本理念を掲げた。
すなわち,現代の子ども・若者の中には,経済的な理由から高校や大学への進学をあきらめ,あるいは中退を余儀なくされている者や,貧困問題をはじめとして,児童虐待・児童買春・児童ポルノ等の様々な被害や困難にさらされ,就業意欲があっても就職できず,正社員を希望してもアルバイトや期間雇用とならざるを得ないなど,健やかな成長発達を阻害されている者がいる。こうした子ども・若者には福祉・教育等の多岐に渡る分野からの支援が必要であるが,縦割り行政の下では横断的な取り組みがされることなく,問題が見過ごされてきた。
そこで,民間団体及び国民一般の理解と協力の下,国及び地方公共団体が連携して総合的な子ども・若者育成支援策を推進する目的で,子若法が制定された。
4 子若法は,総合的な取組を実現させるべく,国に対しては子ども・若者育成支援施策を策定し,実施する責務を課し(第3条),地方公共団体に対しては,区域内における子ども・若者の状況に応じた施策を策定し,実施する責務を課した(第4条)。
また,同法は,前記の通り,児童の権利に関する条約の理念に則ることを明記し(第1条),さらに教育,福祉,保健,医療,矯正,更生保護,雇用その他の各関連分野における知見を総合して行うことを基本理念として掲げている点(第2条第6号),子ども・若者を含めた国民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとしている点(第12条)などで,従来の子ども・若者の育成を目指した法律とは異なる画期的な法律といえる。
5 子若法第8条に基づき,政府(子ども・若者育成支援推進本部)は,2010(平成22)年7月23日,支援計画の基本となる大綱である「子ども・若者ビジョン」(以下,「ビジョン」という。)を策定し,公表した。
「ビジョン」は,基本理念として,①憲法及び児童の権利に関する条約に基づき,子ども・若者の最善の利益を尊重すること,②子ども・若者は,大人の一段下の存在として位置づけるのではなく,大人と共に生きるパートナーであること,③子ども・若者が自尊感情や自己肯定感を育み,自立した個人としての自己を確立し社会の能動的形成者となるための成長・発達を支援すること,④子ども・若者一人一人の状況に応じた総合的な支援を社会全体で重層的に実施すること,⑤子ども・若者の問題は,それを取り巻く大人を含む社会全体の問題として,大人社会のあり方を見直すこと,の5つを掲げた。そして,第1に,全ての子ども・若者の健やかな成長を支援する施策,第2に,困難を有する子ども・若者やその家族を支援する施策,第3に,子ども・若者の健やかな成長を社会全体で支えるための環境を整備する施策,という3つの施策を進めるとしている。
6 子若法は,地方公共団体に対し,「ビジョン」を「勘案して」(同法第9条第1項,第2項),支援計画を作成することを求めている。
「ビジョン」の施策を実効性あるものとするためには,支援計画を,単なる引きこもり,ニートの就労対策や,既存の施策の寄せ集めとすべきでない。地方公共団体は,子ども・若者の意見を十分に尊重しつつ子ども・若者の最善の利益をはかり,その成長・発達を支援するという同法の趣旨を十分に勘案した上で,総合的な支援計画を作成すべきである。
それゆえ,支援計画の作成にあたっては,子ども・若者自身を含めた住民からの意見聴取を行うことが重要であり,地方公共団体が行うことができると考えられる別紙記載の施策が盛り込まれるべきである。
7 他方で,広島県における動きとしては,2010(平成22)年3月に「みんなで育てるこども夢プラン」が策定されている。同プランは,未就学児を対象とする子育て支援や家庭へのサポート,地域に密着した子育てを主眼としている。
しかし,「ビジョン」は,0歳から30歳の子ども・若者を広く対象とし,修学・就業のいずれもしていない子ども・若者や,社会生活を営む上で困難を有する子ども・若者に特に配慮している。前述のような子若法の目的・基本理念に照らせば,子育て支援を主眼とした家庭へのサポート等では不十分であり,広島県における支援計画においても,別紙記載の施策を盛り込む必要がある。
以上