声明・決議・意見書

意見書2014.09.18

国選付添報酬及び国選弁護報酬における交通費についての意見書

日本司法支援センター理事長 宮﨑 誠 殿
法務大臣 松島みどり 殿
日本弁護士連合会会長 村越 進 殿

広島弁護士会
会長 舩木孝和

意 見 書

第1 意見の趣旨
国選付添報酬及び国選弁護報酬における交通費について,実費全額が支給されるように報酬基準を改定されたい。

第2 意見の理由
1 広島弁護士会独自の加算援助と少年法改正
広島弁護士会(以下「当会」という。)では,当然ながら付添人活動に伴う実費を付添人に負担させるべきでないことから,法律援助基金に関する会規等を設け,日本弁護士連合会が行う刑事被疑者援助事業及び少年保護事件付添援助事業に関して,当会独自の加算援助を行い,援助事業を利用して被疑者弁護人及び付添人として活動を行った弁護士に対し,交通費及び通訳費用等の経費の実費を援助してきた。
ところが,少年法の一部を改正する法律(平成26年4月18日法律第23号)により,裁量による国選付添人制度の対象事件が被疑者国選対象事件まで拡大され,大部分の身体拘束を伴う少年保護事件が国選付添人制度の対象事件となったことに伴い,特に,広島家庭裁判所呉支部管内(以下「呉支部管内」という。)において,交通費に関する問題が顕在化するに至った。
すなわち,国選付添人として活動すると,現行の報酬基準では遠距離移動に該当しない限り交通費は支給されないこととなっているため,呉支部管内に登録する弁護士が国選付添人として広島鑑別所で面会した際の交通費は,一切支出されないのである。
2 呉支部管内における交通費の負担に関する問題の顕在化
呉支部管内に弁護士登録する国選付添人契約弁護士は,いずれもその事務所を広島県呉市内に設置しており,各弁護士の事務所から広島市内にある広島少年鑑別所へ面会に赴く際には,他の交通手段ではあまりに不便であること等から,大多数の弁護士が移動手段として自家用車を使用する。そして,一般道路経由だと,呉簡易裁判所(最寄簡裁)の主たる庁舎の所在する場所と広島少年鑑別所(目的地)との移動距離は約28キロメートル程度であるところ,道中片側一車線の道が続きその一部には恒常的な渋滞がみられたり,大きな交差点等の信号待ちでも渋滞がしばしば発生し,距離に基づく一般的な所要時間以上に実際の移動に時間がかかるのがこの地域の特性で,渋滞状況によっては所要時間が1時間半程度となることも少なくない。このため,実際には,広島呉道路呉料金所,同坂南料金所,仁保JCT及び広島高速3号線吉島料金所を経由し,復路はこの逆順で広島少年鑑別所から各弁護士の事務所に帰るのが通例となっている。この場合の広島呉道路及び広島高速3号線の料金は,片道1490円,往復2980円であり,所要時間は約24分程度である。
ところが,上記した呉簡易裁判所(最寄簡裁)の主たる庁舎の所在する場所と広島少年鑑別所(目的地)との直線距離は,片道約17.2キロメートル程度しかなく(しかも,直線距離計測上のルートは,海上を通るという現実にありえない不合理なものである),遠距離移動の片道25キロメートル以上の要件を満たさないため,遠距離移動に該当せず,交通費は全く支払われない。したがって,週1回・全4回程度の面会を実施した場合,1万1920円(実際にはさらに往復のガソリン代が加わる。)を弁護士個人が負担せざるを得ないこととなってしまう。
観護措置から4週間程度で最終審判を迎えるのが一般的である少年事件において,週1回以上の面会を継続することは,環境調整や最終審判の準備さらには少年と付添人との信頼関係構築において欠かせないものであり,面会のための交通費は付添人活動に基本的に生ずる費用といえるものである。
なお,成人の刑事事件のうち広島地方裁判所呉支部管内で発生した事件のうちの裁判員裁判対象事件についても,広島地方裁判所本庁のみで審理が行われており,当該事件の被告人は,広島少年鑑別所と同様広島市内にある広島拘置所で身体拘束される。この場合にも,呉市内の各弁護士の事務所から広島拘置所に被告人接見に赴く場合に,上記少年事件における面会と同様の問題が生ずることも指摘しておく。
3 現行の報酬基準の不合理性
現行の報酬基準において,付添人活動及び弁護活動に伴って通常支出される経費(例えば,通信費や近距離の交通費等)が個別の費用償還の対象とされていない理由は,事務処理が煩雑となることを防ぐために個別の請求を待たずにそれを織り込んだ基礎報酬額を設定することとし,通常の経費の枠内におさまらない支出(遠距離の交通費,記録謄写費用,通訳人費用等)については,支給範囲と上限を定めた上で,報酬とは別立てで費用償還の対象とするということにあるものと考えられる。
しかし,呉支部管内の国選付添人対象事件における上記例示した1万1920円(実際にはさらに往復のガソリン代が加わる。またこれ以上の面会回数も十分考えられる)は,基礎報酬の9万円(被疑者国選弁護人から移行した場合は8万円)の13パーセント以上(被疑者国選弁護人から移行した場合は14パーセント以上)を占める額となり,基礎報酬額に織り込まれた付添人活動に伴って通常支出される経費を超える出費であることは明らかである。
このように,国選付添人制度の対象事件の拡大に伴い,呉支部管内の弁護士個人の負担は看過することができないほど加重なものとなる現行の報酬基準の不合理性が浮き彫りになったのである。
4 交通費実費全額が支給されるよう報酬基準を改定すべきであること
上記呉支部管内から広島少年鑑別所への移動(呉支部管内から広島拘置所への移動も同様である)のように,現行の報酬基準による限り,遠距離移動に該当しない場合ために弁護士個人が付添人(及び弁護人)活動に伴って通常支出される経費の範囲とは到底いえない加重な負担を強いられる場合が生じてしまう。
現行の報酬基準は,遠距離移動とそうでない場合を区別して,遠距離移動に該当する場合には遠距離交通費のみならず遠距離接見等加算報酬が支給されるが,これに該当しない場合には個別の費用が償還の対象とならないどころか,たとえ弁護人及び付添人活動に伴って通常支出される経費とは到底いえない多額の交通費実費がかかったとしても全て弁護士個人の負担とする規定となっている。しかし,そもそも遠距離移動か否かで区別するから,上記呉支部管内から広島少年鑑別所及び広島拘置所への移動のように,遠距離移動の要件距離にわずかに充たないだけで,多額の交通費実費が弁護士個人の負担となるという不合理な事態が生じるのである。
そもそも,弁護人及び付添人活動に必要な交通費等の実費は,報酬とは別に全額支給されてしかるべきである。交通手段の多様化もあり,遠距離移動か否かを区別する合理的な基準を定めることは困難な場合も少なくない。少なくとも交通費については,実費全額が支給されるように報酬基準を改定すべきである。
ちなみに当会では,実費は報酬とは別に全額支給されるべきという考え方を貫くべく,法律改正後も国選対象にならない事件についての実費支給を継続するため,当会会員から月額400円の特別会費を徴収することとした。
5 結語
以上のとおりであり,当会は,貴殿らに対し,呉支部管内の交通費負担の現状と現行の報酬基準の不合理性を指摘したうえで,国選付添報酬及び国選弁護報酬における交通費について,実費全額が支給され,会員に不当な負担が生じないように報酬基準を改定されるよう意見を述べる。

以上