勧告書・警告書2013.09.25
広島県警察本部に対する勧告書
広島県警察本部
本部長 井口斉 殿
広島弁護士会
会長 小野裕伸
勧告書
当会は,貴本部に対して以下のとおり勧告する。
第1 勧告の趣旨
広島地方検察庁本庁内(広島法務総合庁舎内)の接見室のような仕切り室において,被疑者又は被告人とその弁護人又は弁護人となろうとする者が接見する際に,押送警察官が被疑者又は被告人に対し捕縄や手錠を使用して同人の着席する椅子に固定し身体拘束をしたままの状態にしたことは明らかに違法であるから,今後貴本部管内の警察官がこのようなことをしないよう勧告する。
第2 勧告の理由
1 当会は,当会会員から,広島地方検察庁本庁内(広島法務総合庁舎内)の接見室(以下「本件接見室」という)における弁護人と被疑者との秘密接見に関し,以下のような報告を受けた。
被疑者国選弁護人であった当会会員が,平成25年5月23日午後1時ころ,安佐北警察署に勾留中の被疑者と本件接見室で接見したところ,被疑者は捕縄で拘束され,さらに捕縄の先端に連結した手錠はパイプ椅子に固定されていて,立ち上がることができない状態にあった。
同日午後1時30分ころ,接見を終えた当会会員は,被疑者を移動させるためパイプ椅子に固定された手錠や捕縄を解いていた担当警察職員に対し,「いつもそうやっているのか。」と確認したところ,その職員は,「そうです。」と回答した。
その後の午後2時45分ころ,貴本部留置係担当者2名が当会会員Bの事務所を訪ね,本件接見室での接見の際に,被疑者を捕縄で拘束し,さらに捕縄の先端に連結した手錠はパイプ椅子に固定していたこと,担当警察職員がいつも拘束している旨の発言をしたこと自体は認めたが,警察署として実際に本件接見室内でいつも被疑者を拘束していることはないと弁明した。
2 上記報告内容は,貴本部留置係担当者の回答とも一致するので,上記のとおりの事実があったものと認定できる。
3(1) 留置担当者の被疑者又は被告人(以下「被疑者等」という)に対する捕縄及び手錠の使用要件については,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という)213条1項において規定されているところ,その趣旨は,捕縄及び手錠という被疑者等の身体を直接拘束する器具(拘束具)の使用は,器具を用いて被疑者等の身体を,直接,ある程度の間,拘束する点においては自由の侵害性が高く,また,被疑者等の心身に与える影響が大きくなることもあり得ることから,拘束具を使用し得る法的根拠を明確に定めるとともに,拘束具の使用によって被疑者等の人権が不当に侵害されることがないようにする点にある。
そのため,刑事収容施設法213条1項の要件に該当する場合でない限りは,被疑者等に対して捕縄及び手錠を使用してはならない。
刑事収容施設法213条1項は「被留置者を護送する場合」の捕縄及び手錠の使用を認めているところ,その趣旨は,留置施設内にいるときに比べて戒護力が弱くなるからという点にある。
しかし,本件接見室は,被疑者等の留置施設の面会室と同様に,被疑者等と面会の相手方たる弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という)との間を仕切る設備を有する室(仕切り室)となっているところ,仕切り室は,被疑者等の逃走や金品(信書を含む)の直接の授受などを防止する観点から戒護力を確保するために設置されている部屋であるから,被疑者等が本件接見室のような仕切り室内にいる場合に戒護力が弱くなることはない。
ゆえに,被疑者等が本件接見室のような仕切り室内にいるときには,被疑者等に対して捕縄及び手錠を使用する法的根拠はないから,それにもかかわらず,被疑者等に対して捕縄及び手錠を使用した場合には,不当に被疑者等の人権を侵害するものといわなければならない。
(2) 加えて,被疑者等とその弁護人等には,憲法34条前段の弁護人依頼権に由来する秘密接見交通権が刑事訴訟法39条1項により保障されるところ,その趣旨は,被疑者等にとって,捜査機関等の国家機関の持つ強大な権限と実力に対抗するには,あまりにも弱い存在であるから,その唯一の援助者は,弁護人だけであり,それとの自由な面会,書類等の授受がその防御のために極めて重要だから,という点にある。
しかし,弁護人等との秘密接見の際に,捜査機関側が被疑者等の身体を拘束することは,被疑者の心理面に影響を及ぼし,防御活動の制約となりうるものであるから(刑事訴訟法287条が公判廷における被告人の身体不拘束を規定する趣旨も,「当事者の一方である被告人には自由な防御活動が保障されなければならないが,被告人の身体が拘束されることは,被告人の心理面に影響を及ぼし,右の防御活動の制約となることがあり得る」という点にある),憲法34条前段に由来し刑事訴訟法39条1項により保障される秘密接見交通権を侵害するものというべきである。 また,弁護人等との接見の際、被疑者等が捕縄や手錠で身体拘束された状態では、事件当時の再現などの被疑者等の動作による表現が大幅に制約され,被疑者等から弁護人等への十分かつ円滑な意思伝達や情報提供が困難となる弊害も生じる。
4 以上のように,本件接見室のような仕切り室において被疑者等が,弁護人等と接見する際,被疑者等に対し捕縄や手錠を使用することは,不当な人権侵害であり,刑事訴訟法39条1項にも反することは明らかである。
よって,当会は,貴本部に対して,勧告の趣旨記載のとおりの勧告に及ぶものである。
以上
広島県警察本部
本部長 井口斉 殿
広島弁護士会
会長 小野裕伸
勧告書
当会は,貴本部に対して以下のとおり勧告する。
第1 勧告の趣旨
広島地方検察庁本庁内(広島法務総合庁舎内)の接見室のような仕切り室において,被疑者又は被告人とその弁護人又は弁護人となろうとする者が接見する際に,押送警察官が被疑者又は被告人に対し捕縄や手錠を使用して同人の着席する椅子に固定し身体拘束をしたままの状態にしたことは明らかに違法であるから,今後貴本部管内の警察官がこのようなことをしないよう勧告する。
第2 勧告の理由
1 当会は,当会会員から,広島地方検察庁本庁内(広島法務総合庁舎内)の接見室(以下「本件接見室」という)における弁護人と被疑者との秘密接見に関し,以下のような報告を受けた。
被疑者国選弁護人であった当会会員が,平成25年5月23日午後1時ころ,安佐北警察署に勾留中の被疑者と本件接見室で接見したところ,被疑者は捕縄で拘束され,さらに捕縄の先端に連結した手錠はパイプ椅子に固定されていて,立ち上がることができない状態にあった。
同日午後1時30分ころ,接見を終えた当会会員は,被疑者を移動させるためパイプ椅子に固定された手錠や捕縄を解いていた担当警察職員に対し,「いつもそうやっているのか。」と確認したところ,その職員は,「そうです。」と回答した。
その後の午後2時45分ころ,貴本部留置係担当者2名が当会会員Bの事務所を訪ね,本件接見室での接見の際に,被疑者を捕縄で拘束し,さらに捕縄の先端に連結した手錠はパイプ椅子に固定していたこと,担当警察職員がいつも拘束している旨の発言をしたこと自体は認めたが,警察署として実際に本件接見室内でいつも被疑者を拘束していることはないと弁明した。
2 上記報告内容は,貴本部留置係担当者の回答とも一致するので,上記のとおりの事実があったものと認定できる。
3(1) 留置担当者の被疑者又は被告人(以下「被疑者等」という)に対する捕縄及び手錠の使用要件については,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という)213条1項において規定されているところ,その趣旨は,捕縄及び手錠という被疑者等の身体を直接拘束する器具(拘束具)の使用は,器具を用いて被疑者等の身体を,直接,ある程度の間,拘束する点においては自由の侵害性が高く,また,被疑者等の心身に与える影響が大きくなることもあり得ることから,拘束具を使用し得る法的根拠を明確に定めるとともに,拘束具の使用によって被疑者等の人権が不当に侵害されることがないようにする点にある。
そのため,刑事収容施設法213条1項の要件に該当する場合でない限りは,被疑者等に対して捕縄及び手錠を使用してはならない。
刑事収容施設法213条1項は「被留置者を護送する場合」の捕縄及び手錠の使用を認めているところ,その趣旨は,留置施設内にいるときに比べて戒護力が弱くなるからという点にある。
しかし,本件接見室は,被疑者等の留置施設の面会室と同様に,被疑者等と面会の相手方たる弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という)との間を仕切る設備を有する室(仕切り室)となっているところ,仕切り室は,被疑者等の逃走や金品(信書を含む)の直接の授受などを防止する観点から戒護力を確保するために設置されている部屋であるから,被疑者等が本件接見室のような仕切り室内にいる場合に戒護力が弱くなることはない。
ゆえに,被疑者等が本件接見室のような仕切り室内にいるときには,被疑者等に対して捕縄及び手錠を使用する法的根拠はないから,それにもかかわらず,被疑者等に対して捕縄及び手錠を使用した場合には,不当に被疑者等の人権を侵害するものといわなければならない。
(2) 加えて,被疑者等とその弁護人等には,憲法34条前段の弁護人依頼権に由来する秘密接見交通権が刑事訴訟法39条1項により保障されるところ,その趣旨は,被疑者等にとって,捜査機関等の国家機関の持つ強大な権限と実力に対抗するには,あまりにも弱い存在であるから,その唯一の援助者は,弁護人だけであり,それとの自由な面会,書類等の授受がその防御のために極めて重要だから,という点にある。
しかし,弁護人等との秘密接見の際に,捜査機関側が被疑者等の身体を拘束することは,被疑者の心理面に影響を及ぼし,防御活動の制約となりうるものであるから(刑事訴訟法287条が公判廷における被告人の身体不拘束を規定する趣旨も,「当事者の一方である被告人には自由な防御活動が保障されなければならないが,被告人の身体が拘束されることは,被告人の心理面に影響を及ぼし,右の防御活動の制約となることがあり得る」という点にある),憲法34条前段に由来し刑事訴訟法39条1項により保障される秘密接見交通権を侵害するものというべきである。 また,弁護人等との接見の際、被疑者等が捕縄や手錠で身体拘束された状態では、事件当時の再現などの被疑者等の動作による表現が大幅に制約され,被疑者等から弁護人等への十分かつ円滑な意思伝達や情報提供が困難となる弊害も生じる。
4 以上のように,本件接見室のような仕切り室において被疑者等が,弁護人等と接見する際,被疑者等に対し捕縄や手錠を使用することは,不当な人権侵害であり,刑事訴訟法39条1項にも反することは明らかである。
よって,当会は,貴本部に対して,勧告の趣旨記載のとおりの勧告に及ぶものである。
以上