声明・決議・意見書

会長声明2020.06.12

いわゆる「谷間世代」に貸与された修習専念資金について、返還猶予を求める会長声明

2020年(令和2年)6月12日

広島弁護士会会長 足 立 修 一

 

第1 声明の趣旨

当会は,最高裁判所に対し,新第65期から第70期までの司法修習生であった者に貸与された修習専念資金については,昨今の新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言による社会混乱等の情勢に鑑み,その返還を猶予する措置を講じることを求める。

 

第2 声明の理由

1 2017年(平成29年)4月19日,第71期以降の司法修習生に対し,修習給付金を支給することを内容とする裁判所法改正がなされたが,遡及適用はされず,その結果,新第65期から第70期までの司法修習生であった者(以下,「谷間世代」という。)に貸与された修習専念資金の返還義務が取り残されることとなった。

しかし,司法は,三権の一翼として,法の支配を実現し国民の権利を守るための重要な社会的インフラであり,法曹(弁護士,裁判官,検察官)は,この司法の担い手であるから,本来,国には公費をもって法曹を養成する責務がある。

そこで,当会はこれまで,総会決議や会長声明を通じて国に対し,谷間世代が被っている不公平・不平等の是正措置を講じるよう,繰り返し求めてきた。また、当会をはじめ各弁護士会においては,弁護士会費の減額制度等を創設し,日本弁護士連合会においても申請のあった者に対し20万円を給付するという対内施策を講じてきたところである。

それにもかかわらず,法曹養成について本来的な責務のある国において,谷間世代に対する是正措置を何ら実現していないことは,誠に遺憾である。

2 ところで,昨今,新型コロナウイルス感染拡大のため,各種イベントが中止となり,多くの飲食店や総合百貨店等が休業を余儀なくされたほか,各一般企業においても,在宅勤務や外出自粛策を講じており,経済混乱が生じている。

それは司法の関係機関においても例外ではなく,裁判所が民事事件・刑事事件・家事事件の各裁判期日を延期したり,広島県内においても,弁護士会が法律相談センターを閉鎖し,日本司法支援センターが面談での法律相談を中止するなど,混乱が生じている。

そのため,現在,多くの弁護士においても,収入が減少することが相当程度見込まれる状況にある。

3 そのような中で,本年7月末には,新第65期,第66期,第67期の司法修習生であった者に貸与された修習専念資金の年に1回の返還が迫っている。

しかし,本年7月末に返還義務を負う世代は弁護士登録から6年ないし8年目の若手であり,経済的基盤が盤石ではない者が大多数を占めている。そのような者に対して,硬直的な運用のまま,本年度も修習専念資金の返還を求めることは,生活と事業の基盤を脅かすことにもなりかねない。

また,新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,労働者の働く権利や,子どもの学習権等の人権が真っ先に切り捨てられることの無いよう,法曹の果たすべき社会的役割はますます重要なものとなっている。その役割を果たすためにも,修習専念資金の返還により,生活と事業の基盤が脅かされる法曹が発生することは極力避けるべきである。

したがって,当会は,本年度については,谷間世代に対し貸与された修習専念資金の返還を一律猶予すべきものと考える。

4 この返還の猶予については,2017年(平成29年)改正前の裁判所法第67条の2第3項が「災害,傷病その他やむを得ない理由により修習資金を返還することが困難となったとき,又は修習資金の貸与を受けた者について修習資金を返還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるときは,その返還の期限を猶予することができる」と定められているところ,今般の新型コロナウイルスの感染拡大による社会経済の混乱は,「災害」又は「その他やむを得ない理由」に該当するものであり,法曹の多くを占める弁護士の多数の業務に支障が出ていることは明らかで,「修習資金を返還することが困難」な状況にある。また,業務に支障が生じた結果,若手弁護士の多くに収入の減少が生じることは必至であるから,返還義務を有する者に「修習資金を返還することが経済的に困難である事由」があることからも,最高裁判所の決定により,返還義務者からの猶予の申し出の有無に関わらず,本年度以降の各返還期限を一年ずつ延期する等の方法で,一律に猶予の措置を講じるべきである。

5 よって,当会は,最高裁判所に対し,谷間世代に貸与された修習専念資金については,昨今の新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言による社会混乱等の情勢に鑑み,その返還を猶予する措置を講じることを求める。

 

以上