会長声明2021.02.12
「広島市平和の推進に関する条例(仮称)」に関する会長声明
2021年(令和3年)2月12日
広島弁護士会
会長 足 立 修 一
第1 声明の趣旨
当会は,広島市に対し,「広島市平和の推進に関する条例(仮称)」のうち,市民の役割(第5条)に関する「本市の平和の推進に関する施策に協力するとともに,」との文言及び平和記念式典の実施(第6条第2項)に関する「市民の理解と協力の下に,厳粛の中で」との文言を改めるなどして,本条例案の制定によって,市民の表現の自由を制約しないよう求める。
第2 声明の理由
1 広島市議会は,現在,平和の推進に関する広島市の責務並びに市民及び市議会の役割を定めた「広島市平和の推進に関する条例(仮称)」の素案(以下,「本条例案」という。)を策定しており,2021年(令和3年)2月市議会での提案を目指している。
本条例案の策定に先立ち,広島市議会は,2019年(令和元年)6月25日に「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式が厳粛の中で挙行されるよう協力を求める決議」をした。同決議を機に,広島市は,広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式(以下,「平和記念式典」という。)の挙行中にデモ行進で使用される拡声器の音量を問題視し,一部の市民団体に対し,「平和記念式典の挙行に適した環境」或いは「静ひつな環境」を確保するという名目のもと,拡声機の使用を控える,その音量を下げる又はデモ行進のルートを変更する措置を要請し,いずれかに応じない場合には条例による拡声器の音量規制も辞さない姿勢を示した。
このような広島市の姿勢については,市民団体のみならず,有識者や被爆者団体等からも,憲法第21条第1項で保障された表現の自由との抵触を懸念し,話し合いによる解決を図るよう求める声が多数上がり,当会も,2020年(令和2年)年1月31日,「平和記念式典中の静粛の確保について,条例による規制ではなく話し合いによる解決を図るよう求める会長声明」を発出した。結局,広島市は,拡声器の音量を規制する条例の制定を見送った。
このような経緯があるにもかかわらず,本条例案は,「市民の役割」として,「本市の平和の推進に関する施策に協力するとともに,」と定めて広島市が実施する平和の推進に関する施策に協力する義務を市民に課し(第5条),広島市が平和記念式典を「市民の理解と協力の下に,厳粛の中で」実施する旨を定めている(第6条第2項)。当会は,これらの文言を用いることについては賛同できない。
2 当会は,本条例案において,広島市が,核兵器廃絶及び世界恒久平和の実現のために,平和の推進に関する施策を策定・実施をする同市の責務を定めることについては,特に異論があるものではない。
しかしながら,いかに平和の推進に関するものであっても,広島市の施策について市民に協力する責任や義務を課すことは別である。このような施策のあり方については,市民の中には,わが国や諸外国の政治情勢や核兵器廃絶に関する対応等について,多様な思想信条を背景とした様々な意見や表現方法があり,特に,核兵器禁止条約へのわが国の政府や広島市の対応のありようについてもそうである。
3 これまでの拡声器の音量を規制する条例を制定しようとした経緯に鑑みれば,本条例案第5条は,罰則等を伴わない責務規定であるとしても,広島市が実施する平和の推進に関する施策について協力要請があった場合には,市民は,その意見等にかかわらず全面的にこれに応じなければならないかのようにも解し得,規制の根拠規定とされる懸念がある。
更に,広島市が,本条例案第6条2項の規定,あるいは同第5条及び平和の推進に関する施策を定めた規定(同第7条各号)をも根拠に,会場周辺で意見表明等を行う市民に対し,平和記念式典中の「厳粛」のために,拡声器の使用や音量について,あたかも条例上の義務であるかのように「理解」と「協力」を求めつつ,事実上の拡声器の使用禁止を迫ることすら懸念される。
このことによる市民の表現行為に与える委縮効果は大きなものとなり,市民の表現の自由が制約されるおそれがある。
4 以上の理由により,当会は,広島市に対し,本条例案のうち,市民の役割(第5条)に関する「本市の平和の推進に関する施策に協力するとともに,」との文言及び平和記念式典の実施(第6条第2項)に関する「市民の理解と協力の下に,厳粛の中で」との文言を改めるなどし,本条例案の制定によって,市民の表現の自由を制約しないよう求めるものである。
以上
2021年(令和3年)2月12日
広島弁護士会
会長 足 立 修 一
第1 声明の趣旨
当会は,広島市に対し,「広島市平和の推進に関する条例(仮称)」のうち,市民の役割(第5条)に関する「本市の平和の推進に関する施策に協力するとともに,」との文言及び平和記念式典の実施(第6条第2項)に関する「市民の理解と協力の下に,厳粛の中で」との文言を改めるなどして,本条例案の制定によって,市民の表現の自由を制約しないよう求める。
第2 声明の理由
1 広島市議会は,現在,平和の推進に関する広島市の責務並びに市民及び市議会の役割を定めた「広島市平和の推進に関する条例(仮称)」の素案(以下,「本条例案」という。)を策定しており,2021年(令和3年)2月市議会での提案を目指している。
本条例案の策定に先立ち,広島市議会は,2019年(令和元年)6月25日に「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式が厳粛の中で挙行されるよう協力を求める決議」をした。同決議を機に,広島市は,広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式(以下,「平和記念式典」という。)の挙行中にデモ行進で使用される拡声器の音量を問題視し,一部の市民団体に対し,「平和記念式典の挙行に適した環境」或いは「静ひつな環境」を確保するという名目のもと,拡声機の使用を控える,その音量を下げる又はデモ行進のルートを変更する措置を要請し,いずれかに応じない場合には条例による拡声器の音量規制も辞さない姿勢を示した。
このような広島市の姿勢については,市民団体のみならず,有識者や被爆者団体等からも,憲法第21条第1項で保障された表現の自由との抵触を懸念し,話し合いによる解決を図るよう求める声が多数上がり,当会も,2020年(令和2年)年1月31日,「平和記念式典中の静粛の確保について,条例による規制ではなく話し合いによる解決を図るよう求める会長声明」を発出した。結局,広島市は,拡声器の音量を規制する条例の制定を見送った。
このような経緯があるにもかかわらず,本条例案は,「市民の役割」として,「本市の平和の推進に関する施策に協力するとともに,」と定めて広島市が実施する平和の推進に関する施策に協力する義務を市民に課し(第5条),広島市が平和記念式典を「市民の理解と協力の下に,厳粛の中で」実施する旨を定めている(第6条第2項)。当会は,これらの文言を用いることについては賛同できない。
2 当会は,本条例案において,広島市が,核兵器廃絶及び世界恒久平和の実現のために,平和の推進に関する施策を策定・実施をする同市の責務を定めることについては,特に異論があるものではない。
しかしながら,いかに平和の推進に関するものであっても,広島市の施策について市民に協力する責任や義務を課すことは別である。このような施策のあり方については,市民の中には,わが国や諸外国の政治情勢や核兵器廃絶に関する対応等について,多様な思想信条を背景とした様々な意見や表現方法があり,特に,核兵器禁止条約へのわが国の政府や広島市の対応のありようについてもそうである。
3 これまでの拡声器の音量を規制する条例を制定しようとした経緯に鑑みれば,本条例案第5条は,罰則等を伴わない責務規定であるとしても,広島市が実施する平和の推進に関する施策について協力要請があった場合には,市民は,その意見等にかかわらず全面的にこれに応じなければならないかのようにも解し得,規制の根拠規定とされる懸念がある。
更に,広島市が,本条例案第6条2項の規定,あるいは同第5条及び平和の推進に関する施策を定めた規定(同第7条各号)をも根拠に,会場周辺で意見表明等を行う市民に対し,平和記念式典中の「厳粛」のために,拡声器の使用や音量について,あたかも条例上の義務であるかのように「理解」と「協力」を求めつつ,事実上の拡声器の使用禁止を迫ることすら懸念される。
このことによる市民の表現行為に与える委縮効果は大きなものとなり,市民の表現の自由が制約されるおそれがある。
4 以上の理由により,当会は,広島市に対し,本条例案のうち,市民の役割(第5条)に関する「本市の平和の推進に関する施策に協力するとともに,」との文言及び平和記念式典の実施(第6条第2項)に関する「市民の理解と協力の下に,厳粛の中で」との文言を改めるなどし,本条例案の制定によって,市民の表現の自由を制約しないよう求めるものである。
以上