声明・決議・意見書

会長声明2021.03.24

生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明

2021年(令和3年)3月24日

広島弁護士会 会長 足 立 修 一

 

第1 声明の趣旨

当会は、国に対し、早急に現在の生活保護基準を見直し、少なくとも2013年(平成25年)8月以前の生活保護基準に戻すことを求める。

第2 声明の理由

2021年(令和3年)2月22日、大阪地方裁判所は、2013年(平成25年)8月から3回に分けて国が実施した生活保護基準の引下げは生存権を保障した憲法25条に反するなどとして、大阪府内の生活保護利用者らが、生活保護費を減額した決定の取消しなどを求めた訴訟において、厚生労働大臣の判断には「最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続に過誤、欠落があり、裁量権の範囲の逸脱または濫用がある」として、生活保護費の減額決定を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。

本判決は、①1年だけ石油製品、食料品等の特異な物価上昇が起こった2008年(平成20年)を起点にするとその後の物価の下落率が大きくなることが減額決定時には分かっていたにもかかわらずあえて2008年(平成20年)を下落率比較の起点にした点、②厚生労働大臣がデフレ調整の物価下落率算出のために採用した生活扶助相当CPIという独自の物価指数の下落率(-4.78%)が、テレビ・ビデオレコーダー・パソコンなど被保護世帯での支出割合が相当低い教養娯楽耐久材の物価の大幅下落で増幅され、総務省が作成・公表している消費者物価指数の下落率(-2.35%)より著しく大きいのに漫然と採用した点で、厚生労働大臣の判断がいずれも統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いていると指摘している。

当会は、かねてより、「生活保護制度は、憲法25条が保障する『健康で文化的な最低限度の生活』を保障するものであり、その基準は、最低限度の生活を保障するものでなければならない。それだけでなく、生活保護基準は、最低賃金、就学援助の給付対象基準、介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準等の労働・教育・福祉・税制などの多様な施策の適用基準と連動している。生活保護基準の引下げは、生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすだけでなく、生活保護を利用していない市民全般にも多大な影響を及ぼすのである。」として、生活保護基準の引下げに強く反対してきた(2018年(平成30年)1月10日「生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明」)。

さらに、昨年以来、新型コロナウィルス感染症の影響の深刻化、長期化により、生活に困窮する市民が増え続ける中、セーフティネットである生活保護制度の重要性が改めて見直されている。

よって、当会は、国に対し、本判決をふまえて、声明の趣旨のとおり早急に現在の生活保護基準を見直すことを求めるとともに、当会としても、生活保護制度の改善と充実のための提言活動、生活困窮者等に対する相談活動を今後とも積極的に行っていく決意を、ここに改めて表明する。

以上