会長声明2021.06.09
国民投票法改正案に対する会長声明
2021年(令和3年)6月9日
広島弁護士会 会長 池上 忍
第1 声明の趣旨
当会は,国会に対し,日本国憲法の改正手続に関する法律の改正案を今国会で成立させることなく,同法が抱える重大な問題点について十分な議論を尽くした上で,次期以降の国会で抜本的に改正することを求める。
第2 声明の理由
1 2021年(令和3年)5月11日,日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「国民投票法」という。)の改正案(以下「改正案」という。)が衆議院本会議で可決され,今国会で成立する見通しとの報道がなされているところである。
2 当会は,2005年(平成17年)12月4日,2007年(平成19年)4月11日及び同年5月24日発出の会長声明で国民投票法の問題点を指摘し,日本弁護士連合会も継続して国民投票法の抜本的改正を求めて来た。
具体的には,現行の国民投票法には,以下のような多くの改善すべき問題点がある。
- 公務員・教員の国民投票運動(憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為)を不当に制限する規定が存在すること(103条),
⑵国民投票期日前は放送事業者の放送設備の利用による広告放送を禁止しているが(105条),その期間が14日間と非常に短い期間であること,また,制限方法について一定期間禁止する方法ではなく,放送回数や資金上限額を等しくするといった方法によるべきではないかとの指摘もあるところ,この点についての議論が不十分であること,
⑶国会による憲法改正の発議から国民投票まで最短で60日とされており(2条1項),国民に十分な検討期間が保障されているとはいえないこと,
⑷国民投票の承認の要件となる過半数の基礎票(分母)に白票,誤記載等の無効票を含めておらず(98条2項),また,最低投票率について規定が置かれていないため,一部の少数の国民の賛成のみで改正がなされ,改正憲法の正当性・信頼性に疑義が生じること,
⑸国民投票無効訴訟の提訴期間が,投票結果の告示の日から30日以内と極めて短期であり(127条),国民投票の問題点に関する司法による事後的な監視機能が十分に発揮できない可能性があること
3 ところが,改正案は,これらの国民投票法が抱える多くの問題点について何ら改善されていない。衆議院において,有料広告規制等については法施行後3年を目途に必要な法制上の措置を講ずる旨の付則が加えられたが,問題の棚上げにすぎず,国民投票法が抱える問題点が解消される保障はない。
上記の問題点を解消しないままに国民投票を実施した場合には,公務員などの一部の国民の国民投票運動が不正に規制された状態で憲法改正が行われてしまう(上記⑴に対応する問題点),資金力を背景に特定の政党による過度な宣伝行為が行われかねない(上記⑵に対応する問題点),国民が発議から十分な検討期間を置かないままでの投票をしなければならない(上記⑶に対応する問題点),投票率が低い状態での憲法改正により一部の有権者の意向により憲法改正が実現されるおそれがある(上記⑷に対応する問題点),憲法改正の無効を求めるための準備期間も不十分(上記⑸に対応)という問題が,現実のものとなってしまうであろう。これらは,いずれも,民主主義の根幹にかかわる重大な問題である。
4 よって,当会は,国会に対し,改正案を今国会で成立させないこと,また,今後国民投票法が抱える多くの重大な問題点について十分な議論を尽くして抜本的に改正することを強く求めるものである。
国民投票は,主権者たる国民が国の在り方を規定する最高法規としての憲法について,その政治的意思を表明するという国民主権の原理を体現し,また,最高法規としての憲法の民主的正当化の要請を確保する点においてあらゆる選挙(投票)の中で最も重要なものであるということをいま一度確認し,その手続法である国民投票法が「真の国民意思」の反映を保障できるものとなるよう当会は本声明を発するものである。
以上
2021年(令和3年)6月9日
広島弁護士会 会長 池上 忍
第1 声明の趣旨
当会は,国会に対し,日本国憲法の改正手続に関する法律の改正案を今国会で成立させることなく,同法が抱える重大な問題点について十分な議論を尽くした上で,次期以降の国会で抜本的に改正することを求める。
第2 声明の理由
1 2021年(令和3年)5月11日,日本国憲法の改正手続に関する法律(以下「国民投票法」という。)の改正案(以下「改正案」という。)が衆議院本会議で可決され,今国会で成立する見通しとの報道がなされているところである。
2 当会は,2005年(平成17年)12月4日,2007年(平成19年)4月11日及び同年5月24日発出の会長声明で国民投票法の問題点を指摘し,日本弁護士連合会も継続して国民投票法の抜本的改正を求めて来た。
具体的には,現行の国民投票法には,以下のような多くの改善すべき問題点がある。
- 公務員・教員の国民投票運動(憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為)を不当に制限する規定が存在すること(103条),
⑵国民投票期日前は放送事業者の放送設備の利用による広告放送を禁止しているが(105条),その期間が14日間と非常に短い期間であること,また,制限方法について一定期間禁止する方法ではなく,放送回数や資金上限額を等しくするといった方法によるべきではないかとの指摘もあるところ,この点についての議論が不十分であること,
⑶国会による憲法改正の発議から国民投票まで最短で60日とされており(2条1項),国民に十分な検討期間が保障されているとはいえないこと,
⑷国民投票の承認の要件となる過半数の基礎票(分母)に白票,誤記載等の無効票を含めておらず(98条2項),また,最低投票率について規定が置かれていないため,一部の少数の国民の賛成のみで改正がなされ,改正憲法の正当性・信頼性に疑義が生じること,
⑸国民投票無効訴訟の提訴期間が,投票結果の告示の日から30日以内と極めて短期であり(127条),国民投票の問題点に関する司法による事後的な監視機能が十分に発揮できない可能性があること
3 ところが,改正案は,これらの国民投票法が抱える多くの問題点について何ら改善されていない。衆議院において,有料広告規制等については法施行後3年を目途に必要な法制上の措置を講ずる旨の付則が加えられたが,問題の棚上げにすぎず,国民投票法が抱える問題点が解消される保障はない。
上記の問題点を解消しないままに国民投票を実施した場合には,公務員などの一部の国民の国民投票運動が不正に規制された状態で憲法改正が行われてしまう(上記⑴に対応する問題点),資金力を背景に特定の政党による過度な宣伝行為が行われかねない(上記⑵に対応する問題点),国民が発議から十分な検討期間を置かないままでの投票をしなければならない(上記⑶に対応する問題点),投票率が低い状態での憲法改正により一部の有権者の意向により憲法改正が実現されるおそれがある(上記⑷に対応する問題点),憲法改正の無効を求めるための準備期間も不十分(上記⑸に対応)という問題が,現実のものとなってしまうであろう。これらは,いずれも,民主主義の根幹にかかわる重大な問題である。
4 よって,当会は,国会に対し,改正案を今国会で成立させないこと,また,今後国民投票法が抱える多くの重大な問題点について十分な議論を尽くして抜本的に改正することを強く求めるものである。
国民投票は,主権者たる国民が国の在り方を規定する最高法規としての憲法について,その政治的意思を表明するという国民主権の原理を体現し,また,最高法規としての憲法の民主的正当化の要請を確保する点においてあらゆる選挙(投票)の中で最も重要なものであるということをいま一度確認し,その手続法である国民投票法が「真の国民意思」の反映を保障できるものとなるよう当会は本声明を発するものである。
以上