会長声明2021.10.20
未成年後見における職務代行者の報酬等の補助施策の実施を求める会長声明
2021年(令和3年)10月20日
広島弁護士会 会長 池上 忍
第1 声明の趣旨
当会は、
1 厚生労働省に対し、児童虐待防止対策支援事業実施要綱中、未成年後見人支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示すること
2 広島県及び広島市に対し、厚生労働省が上記のとおり実施要項を改訂するまでの間、独自施策として、職務代行者に対する報酬等の補助を行うこと
を求める。
第2 声明の理由
1 未成年後見人支援事業の内容
厚生労働省では、児童虐待防止対策支援事業実施要綱(以下「本実施要綱」という)を制定し、都道府県、指定都市、児童相談所設置市(以下「都道府県等」という)に対して、児童虐待防止対策支援事業の実施を求めている。同事業は、未成年後見人支援事業を含む、合計19の事業からなり、地域の実情に応じて選択して実施するものとされている。
未成年後見人支援事業は、未成年後見人の報酬等の全部または一部を支援することにより、未成年後見人が選任されることを担保し、これにより、子ども等の日常生活の支援や福祉の向上に資することを目的として、児童相談所が必要と認め、家庭裁判所より選任された未成年後見人に対して、①被後見人から受け取るべき報酬額の全部または一部の補助、②被後見人である未成年者及び後見人の損害賠償保険料の全部の補助を行うこととしている(以下、両者を併せて「報酬等の補助」という)。
各自治体は、本実施要綱を受け、未成年後見人支援事業に関して、未年後見人支援事業実施要綱を制定し、報酬等の補助を実施している。
2 未成年後見人の役割の重要性と未成年後見人支援事業の必要性
親権者から虐待を受けた未成年者に関しては、家庭裁判所の審判による親権喪失や親権停止がなされた上で、専門職である弁護士等が未成年後見人として選任されることが多い。
未成年後見人は、親権を行う者のいない未成年者の財産管理、契約等の法律行為を行うだけでなく、監護あるいは教育を行う権利義務を負っており、子どもの権利擁護を図る上で重要な役割を担っているところ、未成年後見人支援事業により、未成年後見人が必要とする報酬等の補助がなされることで、専門職である未成年後見人の確保が容易となり、ひいては子ども等の日常生活の支援や福祉の向上に資する結果となっている。
3 職務代行者の役割が重要かつ負担が大きいにもかかわらず報酬等の補助の対象外であること
この点、医療同意等の親権行使が必要となる場面において、親権者が適切に親権行使を行わないため、未成年者の生命・身体が急迫の危険にさらされている事案(いわゆる医療ネグレクト)が存在する。
このような医療ネグレクトの場合、緊急性が高いことから、親権者に対する親権喪失あるいは親権停止の申立てを本案として、本案についての審判の効力が生じて未成年後見人が選任されるまでの間、親権者の職務の執行を一時的に停止し、その職務代行者を選任するため、審判前の保全処分の申立てを行う(家事事件手続法第174条第1項)のが通例であり、職務代行者は、未成年後見人が選任されるまでの間に、親権者に代わって、未成年者の福祉の確保のために適切に親権を行使することとなる。
このように、職務代行者は、未成年者の生命・身体の急迫の危険を回避するため、緊急の対応が求められる一方で、親権者からの相当な反発の中で職務に当たらなければならないことが多く、職務代行者の負担は非常に大きいものとなる。
以上のとおり、職務代行者の役割が重要かつ負担が大きいにもかかわらず、職務代行者の報酬等の援助については、本実施要綱に規定されていない。その結果、職務代行者の職務に関する損害賠償への備えや報酬等の補助がなされないという事態が生じている。
当会では、これまでも、児童相談所が申し立てた審判前の保全処分に関し、裁判所等からの推薦依頼に対応してきたが、上記のとおり、役割が重要かつ職務負担が大きいにも関わらず、報酬が見込まれないだけでなく、経費の負担をも余儀なくされるケースが多いため、職務代行者のなり手を確保することに困難を生じており、このままでは推薦自体が難しい事態が生じかねない。また、仮に職務代行者を推薦しても、職務代行者は、多くのケースにおいて、無報酬かつ経費の負担を余儀なくされる活動を強いられる結果となっている。特に、医療ネグレクトの場合、医療同意により急迫の危険を回避することができれば足りるケースが多数を占めており、そのような事案では職務代行者選任後に医療同意がなされれば、申立ての目的が達せられるため、本案の申立てを取り下げることになる。そのため、未成年後見人の選任まで至らず、未成年後見人に選任されれば見込まれる報酬等の援助が全く受けられない結果となる。
このように、職務代行者の役割が重要かつ負担が大きいにもかかわらず報酬等の補助の対象外であることにより、本実施要綱の目的である児童虐待に関する対応機能強化を全うできないことになりかねない。
4 結語
よって、当会は、声明の趣旨記載のとおり、厚生労働省に対し、本実施要綱中、未成年後見人支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示することを求めるとともに、広島県及び広島市に対し、厚生労働省が本実施要綱を改訂するまでの間、独自施策として報酬等の補助を行うよう求めるものである。
以上
2021年(令和3年)10月20日
広島弁護士会 会長 池上 忍
第1 声明の趣旨
当会は、
1 厚生労働省に対し、児童虐待防止対策支援事業実施要綱中、未成年後見人支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示すること
2 広島県及び広島市に対し、厚生労働省が上記のとおり実施要項を改訂するまでの間、独自施策として、職務代行者に対する報酬等の補助を行うこと
を求める。
第2 声明の理由
1 未成年後見人支援事業の内容
厚生労働省では、児童虐待防止対策支援事業実施要綱(以下「本実施要綱」という)を制定し、都道府県、指定都市、児童相談所設置市(以下「都道府県等」という)に対して、児童虐待防止対策支援事業の実施を求めている。同事業は、未成年後見人支援事業を含む、合計19の事業からなり、地域の実情に応じて選択して実施するものとされている。
未成年後見人支援事業は、未成年後見人の報酬等の全部または一部を支援することにより、未成年後見人が選任されることを担保し、これにより、子ども等の日常生活の支援や福祉の向上に資することを目的として、児童相談所が必要と認め、家庭裁判所より選任された未成年後見人に対して、①被後見人から受け取るべき報酬額の全部または一部の補助、②被後見人である未成年者及び後見人の損害賠償保険料の全部の補助を行うこととしている(以下、両者を併せて「報酬等の補助」という)。
各自治体は、本実施要綱を受け、未成年後見人支援事業に関して、未年後見人支援事業実施要綱を制定し、報酬等の補助を実施している。
2 未成年後見人の役割の重要性と未成年後見人支援事業の必要性
親権者から虐待を受けた未成年者に関しては、家庭裁判所の審判による親権喪失や親権停止がなされた上で、専門職である弁護士等が未成年後見人として選任されることが多い。
未成年後見人は、親権を行う者のいない未成年者の財産管理、契約等の法律行為を行うだけでなく、監護あるいは教育を行う権利義務を負っており、子どもの権利擁護を図る上で重要な役割を担っているところ、未成年後見人支援事業により、未成年後見人が必要とする報酬等の補助がなされることで、専門職である未成年後見人の確保が容易となり、ひいては子ども等の日常生活の支援や福祉の向上に資する結果となっている。
3 職務代行者の役割が重要かつ負担が大きいにもかかわらず報酬等の補助の対象外であること
この点、医療同意等の親権行使が必要となる場面において、親権者が適切に親権行使を行わないため、未成年者の生命・身体が急迫の危険にさらされている事案(いわゆる医療ネグレクト)が存在する。
このような医療ネグレクトの場合、緊急性が高いことから、親権者に対する親権喪失あるいは親権停止の申立てを本案として、本案についての審判の効力が生じて未成年後見人が選任されるまでの間、親権者の職務の執行を一時的に停止し、その職務代行者を選任するため、審判前の保全処分の申立てを行う(家事事件手続法第174条第1項)のが通例であり、職務代行者は、未成年後見人が選任されるまでの間に、親権者に代わって、未成年者の福祉の確保のために適切に親権を行使することとなる。
このように、職務代行者は、未成年者の生命・身体の急迫の危険を回避するため、緊急の対応が求められる一方で、親権者からの相当な反発の中で職務に当たらなければならないことが多く、職務代行者の負担は非常に大きいものとなる。
以上のとおり、職務代行者の役割が重要かつ負担が大きいにもかかわらず、職務代行者の報酬等の援助については、本実施要綱に規定されていない。その結果、職務代行者の職務に関する損害賠償への備えや報酬等の補助がなされないという事態が生じている。
当会では、これまでも、児童相談所が申し立てた審判前の保全処分に関し、裁判所等からの推薦依頼に対応してきたが、上記のとおり、役割が重要かつ職務負担が大きいにも関わらず、報酬が見込まれないだけでなく、経費の負担をも余儀なくされるケースが多いため、職務代行者のなり手を確保することに困難を生じており、このままでは推薦自体が難しい事態が生じかねない。また、仮に職務代行者を推薦しても、職務代行者は、多くのケースにおいて、無報酬かつ経費の負担を余儀なくされる活動を強いられる結果となっている。特に、医療ネグレクトの場合、医療同意により急迫の危険を回避することができれば足りるケースが多数を占めており、そのような事案では職務代行者選任後に医療同意がなされれば、申立ての目的が達せられるため、本案の申立てを取り下げることになる。そのため、未成年後見人の選任まで至らず、未成年後見人に選任されれば見込まれる報酬等の援助が全く受けられない結果となる。
このように、職務代行者の役割が重要かつ負担が大きいにもかかわらず報酬等の補助の対象外であることにより、本実施要綱の目的である児童虐待に関する対応機能強化を全うできないことになりかねない。
4 結語
よって、当会は、声明の趣旨記載のとおり、厚生労働省に対し、本実施要綱中、未成年後見人支援事業の一部ないし独立項目として、職務代行者に対する報酬等の補助を明示することを求めるとともに、広島県及び広島市に対し、厚生労働省が本実施要綱を改訂するまでの間、独自施策として報酬等の補助を行うよう求めるものである。
以上