声明・決議・意見書

会長声明2021.12.09

少年の「推知報道」に対する会長声明

2021年(令和3年)12月8日

広島弁護士会 会長 池上 忍

 

第1 声明の趣旨

1 当会は、株式会社新潮社に対し、同社が発行する週刊新潮に少年法第61条に違反する記事を掲載したことについて、強く抗議する。

2 当会は、全ての報道機関に対し、少年法の少年の健全育成という理念についての理解を深め、推知報道が少年の改善更生や社会復帰を阻害する危険性があることをあらためて認識するよう強く要請する。

 

第2 声明の理由

1 「週刊新潮」の記事

「週刊新潮」2021年(令和3年)10月28日号は、同月12日に山梨県甲府市で発生した放火・殺人事件について、被疑者とされた19歳の少年の実名、顔写真、在学する学校名を掲載した(以下「本件記事」という。)。

2 本件記事の掲載は推知報道の禁止に反すること

少年法第61条は、家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者について、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)を禁じているところ、本件記事の掲載は、同条に明らかに違反するものであり、決して許されるものではない。

少年法は、少年が成長途中の未成熟な存在であることに鑑み、少年の健全な育成を目的としており、このような見地から推知報道に関しては、少年の更生や社会復帰を阻害するおそれが大きいため、事件の重大性等を問わず一律に禁止している。

特に、今日のインターネット社会では報道された情報が半永久的に残り、誰でも検索さえすれば過去の犯罪事実を把握できる。そうすると、少年が就労や住居の賃借など必要最低限度の生活基盤を整えようとしても、推知報道の存在により著しく困難となり、その立ち直りが大きく阻害されかねない。そのため、インターネット社会においては推知報道の禁止は従来にも増して厳格に守られなければならない。

また、本件記事でも触れられているとおり、2021年(令和3年)5月21日に成立した少年法等の一部を改正する法律(2022年(令和4年)4月1日施行予定。以下「改正少年法」という。)では、18歳及び19歳(以下「特定少年」という。)のときに罪を犯した場合において推知報道禁止が一部解除されたが、それはあくまでも家庭裁判所が検察官送致した後であって、検察官が公判請求をした場合に限定している。したがって、捜査段階における本件記事は、施行予定の改正少年法下においても違法となるものである。

3 改正少年法下における推知報道の禁止

前記のとおり、改正少年法下においては、家庭裁判所が検察官送致した後、検察官が公判請求をした場合には、推知報道は禁止されないことになるが、報道機関においては、事件の報道をする際、推知報道を行うか否かについて慎重な判断が求められている。

このことは、改正少年法の審議に際し衆議院及び参議院各法務委員会の附帯決議においても、明確に示された。附帯決議では、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されるべきである旨述べている。

このように、改正少年法下においても、推知報道が可能な場面は限られていることはもちろんのこととして、法律上禁じられていない場面であっても、報道機関においては、少年の健全育成及び更生の妨げとならないための配慮が求められているのである。

4 結語

以上から、当会は、株式会社新潮社に対し、本件記事が少年法に違反していることについて、強く抗議をするとともに、全ての報道機関に対し、少年法の少年の健全育成という理念についての理解を深め、推知報道が少年の改善更生や社会復帰を阻害する危険性があることをあらためて認識するよう強く要請する。

以上