声明・決議・意見書

会長声明2021.12.21

死刑執行に関する会長声明

内閣総理大臣 岸田 文雄  殿

法務大臣   古川 禎久 殿

 

2021年(令和3年)12月21日

広島弁護士会

会長 池 上  忍

1 本日、東京拘置所の死刑囚2名、大阪拘置所の死刑囚1名に対し死刑が執行された。今回の死刑執行は、2019年12月26日以来の執行であり、2021年10月に岸田内閣が発足し、古川法務大臣就任後、初めての執行である。極めて遺憾であり、死刑執行について強く抗議する。

2 生命はあらゆる自由や権利の基盤にあるものであり、生命を奪われない権利である生命権は最も重要な人権である。

そのことは、日本国憲法が、その第13条において「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」として、生命の尊重を規定し、国際人権(自由権)規約第6条も、第1項で「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も、恣意的にその生命を奪われない。」として、生命に対する固有の権利の保障、恣意的に生命を奪われないことを規定していることからも裏付けられる。

死刑は、この生命を剥奪する刑罰であるから、重大かつ究極的な人権制限であり、死刑の宣告・執行はこのような生命の価値を否定し、国家が生きる価値のない生命であることを宣言することにほかならない。

3 ところが、こうした死刑を科す刑事司法制度は人が作り、人が運用する制度であって、誤判・冤罪の可能性が常に存在する。特に死刑については、誤った判断に基づく執行がなされた場合、権利回復を図ることは不可能であり、絶対に回避されなければならない。日本においても、4件の死刑確定事件において再審無罪が確定しており、冤罪による死刑執行という死刑制度がはらむ重大な問題が現実のものとして浮き彫りになっているのである。

4 また、死刑廃止は国際的な趨勢であり、2020年末現在、死刑廃止国及び死刑が10年以上執行されていない事実上の廃止国は合計144か国に上り、死刑存置国は55か国に過ぎない。OECD(経済協力開発機構)加盟国38か国で見ると、死刑を存置しているのは、日本、米国、韓国の3か国だけであるが、韓国は事実上の死刑廃止国であり、米国でも多くの州で死刑廃止ないし死刑の執行停止が宣言されていることからすれば、OECD加盟国38か国中、死刑を国家として統一的に執行しているのは日本だけである。

そして、国際人権(自由権)規約委員会は、日本政府に対し、2008年10月、総括所見において「締約国は、世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」等の勧告をし、2014年7月23日、「死刑の廃止を十分に考慮すること」等の勧告をしている。さらに、2020年12月16日、国連総会は、123か国の賛成多数で、全ての死刑存置国に対し、死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議を採択している。

以上のような国際的な趨勢や国連関係機関からの死刑執行の停止・死刑制度廃止に向けた措置を検討する旨の勧告にもかかわらず、死刑制度を存置し、かつ死刑の執行を繰り返す日本政府の姿勢は際立っている。

5 日本弁護士連合会においても、2016年10月7日には、福井市で開催された第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択した。同宣言は、犯罪により生命を奪われた被害者遺族の支援拡充を求めるとともに、人権を尊重する民主主義社会における刑罰制度は、犯罪への応報にとどまらず、社会復帰の達成に資するものでなければならないという観点から、日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度廃止を含む刑罰制度全体の抜本的見直しを要請した。

また、当会を含む中国地方弁護士会連合会では、2019年11月1日、中国地方弁護士大会において、「国に対し、死刑の執行を直ちに停止し、速やかに死刑制度を廃止することを求める」決議をし、当会も、2020年10月23日、「国に対し、死刑の執行を直ちに停止し、速やかに死刑制度を廃止することを求める」決議をした。

6 当会は、このような死刑制度の問題や国際的な趨勢、国連関係機関の決議等を無視してなされた今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、日本政府が速やかに死刑の執行を停止し、早急に死刑制度廃止を含む刑罰制度全体の見直しに着手することを求める。

以上