声明・決議・意見書

会長声明2022.02.09

「オンライン接見」の実現に向けた議論を求める会長声明

2022年(令和4年)2月9日

広島弁護士会会長 池上 忍

1 現在,刑事手続のIT化の議論が,法務省の検討会(「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」。以下,単に「検討会」という。)で進められている。検討会では,刑事手続について情報通信技術を活用する方策に関し,現行法上の法的課題を抽出・整理した上で,その在り方が検討されている。

2 検討会における論点項目として,「書類の電子データ化,発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が挙げられており,この中で,「被疑者・被告人との接見」も掲げられている。そして,その中では,「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で,映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(以下「オンライン接見」という。)を行うことが検討対象となっている。

3 現在,日本弁護士連合会では,できる限り早期に被疑者の権利の保護をするため,逮捕段階における公的弁護制度の創設が議論されている。この逮捕段階における公的弁護制度が法制化した際に,早期の被疑者の権利保護をするために,逮捕直後における迅速な接見を行う必要がある。

そして,逮捕直後における迅速な接見を行うために,オンライン接見が有用な手段となる可能性は高いと考えられる。

4 検討会では,オンライン接見について,①成りすまし,部外者の同席,部外者に漏洩する機器の持ち込み等により,刑事収容施設の規律・秩序維持に支障が生じるおそれがある,②新たな人的・物的設備の整備の負担がある等の理由で,その導入に慎重な意見が見られる。また,導入するとしても,刑事収容施設とビデオリンク方式でつながっている特定の場所(アクセスポイント)に限るべきであるという意見もある。

5 しかし,現在,刑事事件において,弁護人が接見に行くまでの間に被疑者・被告人が,捜査機関の言うことを信じて,供述する必要がないのに供述を行ったり,不必要な調書を作成されているのが現状としてある。そのため,弁護人には,できる限り早急に被疑者・被告人に接見し,少なくとも取調べへの対応方針を伝えることが求められている。

また,諸外国においては,被疑者・被告人が電話で弁護人の助言を受けることが一般的に行われている。

このような状況のもとでは,殊に初回の接見時においては,弁護人は自分の保有する電子機器から即時にオンライン接見を行って,黙秘や署名押印拒否などの取調べへの対応方針を伝えることができることとすべきである。そして,オンライン接見については,刑事収容施設職員が立ち会わない秘密接見とするべきではあるが,取り急ぎ刑事収容施設職員が立ち会う「面会接見」を認めることも検討すべきである。

6 そして,上記4のような意見のうち,①については,あらかじめ刑事収容施設に弁護人の連絡先を登録することにより,成りすましは回避できるし,いわゆるアクセスポイントに限定することも不要といえる。また,部外者の同席,部外者に漏洩する機器の持ち込み等による刑事施設における規律・秩序維持が損なわれる可能性については,抽象的なものにとどまり,弁護人が懲戒処分等を受ける危険を冒してまで規律・秩序維持を損なうような事態を想定するのは合理的でないし,仮にそのような弁護人を想定するのであれば,対面の秘密接見でも想定されるものであるから,オンライン接見のみ規制する実益に乏しい。

そして,刑事収容施設職員が立ち会う「面会接見」と同様に,オンライン接見においても,刑事収容施設の秩序維持のために刑事収容施設の職員の立会をつけ,接見をする者が弁護人であることを確認させた場合には,上記4のような意見の問題点はより生じにくいと考えられる。

また,②については,刑事手続のIT化において捜査上の利便性・効率性を高めるものも整備するのであれば,これと同様に被疑者・被告人が弁護人の援助を受ける権利実現のためのものも整備されるべきことは当然である。実際,取調べの可視化の際にも同種の問題がある旨指摘されたが,実際には人的・物的体制の整備に支障はなかったという実例もある。

7 以上のとおり,オンライン接見に関する議論は,現に被疑者・被告人が何を必要としているかということを念頭に置いた上で,簡易迅速な手続とすることも含め,検討会において具体的な議論が尽くされることを期待する。

以上