声明・決議・意見書

会長声明2022.05.11

旧優生保護法による全ての被害者に対し一刻も早い被害回復等を求める会長声明

2022年(令和4年)5月11日

                   広島弁護士会 会長 久笠 信雄

 

1 旧優生保護法下において優生思想に基づき優生手術等を受けた被害者らが、全国の裁判所に提訴し、その被害回復を求めているところ、2022年(令和4年)2月22日、大阪高等裁判所は、全国で初めて、国に対して損害賠償を命ずる判決(以下「大阪高裁判決」という。)を言い渡した。次いで、同年3月11日、東京高等裁判所も、国に対して損害賠償を命ずる判決(以下「東京高裁判決」という。)を言い渡した。

全国に係属している裁判では、旧優生保護法が違憲であるか否かが争点となる他、除斥期間の適用制限も争点の1つとなっており、大阪高裁判決及び東京高裁判決では、旧優生保護法が違憲であることを明確にした他、それぞれの原審で除斥期間を適用していたのに対し、除斥期間の適用制限を示して国に対して損害賠償を命じた。

すなわち、大阪高裁判決では、「旧優生保護法の本件各規定による人権侵害が強度である上、憲法の趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあった被控訴人が、上記立法・施策によって障害者等に対する差別・偏見を正当化・固定化、更に助長してきたとみられ、これに起因して、控訴人らにおいて訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことに照らすと、控訴人らについて、除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反するというべきであり、権利行使を不能又は著しく困難とする事由がある場合に、その事由が解消されてから6か月を経過するまでの間、時効の完成を延期する時効停上の規定 (民法158~160条)の法意に照らし、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過するまでの間、除斥期間の適用が制限されるものと解するのが相当」とし、東京高裁判決では、被害の内容に着目した他、加害者側の事情、憲法違反の法律に基づく施策によって生じた被害の救済を、憲法より下位規範である民法724条後段を無条件に適用することによって拒絶することは慎重であるべきこと等を指摘し、「本件においては、優生手術を受けたことを認識できたとしても、優生手術が国策によるものであること、しかもそれが違憲な優生条項に基づくものであることについて、被控訴人の作為又は不作為により構造的に理解しにくくされている状況下で、被害者において、これが被控訴人による不法行為を構成するものであると明確に認識して権利行使することは、平成31年に一時金支給法(注:「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」)が制定される頃までは極めて困難ないし事実上不可能であったといえるから、このような場合に、不法行為時(本件優生手術実施時)から20年の経過をもって被害者の損害賠償請求権が消滅することを許容することは、著しく正義・公平の理念に反する」とし、「一時金支給法の施行日である平成31年4月24日から5年間が経過するまでは、民法724条後段の効果は生じないものと解するのが相当である」としたのである。

この点、国からの重大な人権侵害についての損害賠償を除斥期間という制度によって救済の道を閉ざさなかった点について評価できる。

国は、上記両判決に対して不服として上告したが、報道によれば、一時金支給法の改正等の議論が始まったとのことである。

2 旧優生保護法は、国の施策として、被害者が「特定の疾病又は障害を有することをもって、「不良」な子孫をもつことが防止されるべき存在として、優生手術の対象者として選定されるという差別を受けた上で、その意に反して、強度の侵襲を伴う不妊手術を受けさせられ、その生殖機能を回復不可能な状態にさせられたものであり、二重、三重にも及び精神的・肉体的苦痛を与えた」(東京高裁判決)もので、重大な人権を侵害する法律であった。

これに対しては、国は、2019年(平成31年)に一時金支給法を制定し、被害者に対して一時金の支給による救済を始めたが、上記両判決は、法が定める一時金の金額を大幅に上回る損害賠償の支払いを命じており、一時金支給法に基づく被害救済内容が十分とはいえないものであることについても明らかとなった。

国は、上記両判決で指摘された内容を真摯に受け入れ、特に、旧優生保護法によって過酷な被害をもたらしたことを真摯に反省し、上告を取り下げるとともに、旧優生保護法による全ての被害者に対する早急な全面解決をすべきである。旧優生保護法による被害者は高齢となっており、その観点からも一刻も早い被害回復が求められる他、被害者が容易に救済手続きにアクセスできるようにする必要もある。加えて、二度とこのような人権侵害が起きないよう問題の真相を究明した上でそれを公表し、また、恒久対策について検討を行うべきである。

3 当会は、旧優生保護法による被害者に対する支援として、その被害実態を国に伝え、全ての被害者が救済されるよう今後も活動していくとともに、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命としていることを改めて自覚し、疾病や障がいを有することによって差別的な取り扱いが行われないような社会の実現を目指して活動していくことをここに誓う。

以上