会長声明2022.07.14
入管法改正案の再提出に反対し国際基準に沿った適正な難民保護制度の確立を求める会長声明
2022年(令和4年)7月13日
広島弁護士会 会長 久笠 信雄
ロシアによるウクライナ侵攻により、ウクライナ市民に多数の犠牲者や退避者が発生している。こうした情勢を受け、日本政府は、ウクライナからの退避者保護について十分とは言えないまでも対応している。
広島県にも、本年7月10日現在38名の退避者がおり、今後、日本での長期的な生活の道筋を立てるための支援や庇護へのアクセス確保を進めることが求められる。
他方、岸田総理大臣は、4月13日の参議院本会議において、ウクライナからの退避者を想定し、法務省で難民に準じて保護する仕組みである補完的保護制度(報道等では「準難民」とも称される。)の検討を進めている旨答弁した。また、古川法務大臣は、ウクライナからの退避者を保護するため、収容送還制度との一体的見直しが必要であるとし、昨年の通常国会に提出され廃案となった出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)改正の法案(以下「改正法案」という。)の再提出に意欲を示した(同月19日の法務大臣会見における説明など)。
しかしながら、改正法案は収容期間の上限設置や収容に対する司法審査の導入を見送り、一方で支援者等に本来の役割と相容れない義務を課す監理措置制度、ノン・ルフールマン原則に反するおそれのある難民申請者に対する送還停止効の一部解除、刑事罰で強制する退去命令制度の創設等、多くの問題点を有していることから、当会は反対を表明する2021年(令和3年)3月25日付け「出入国管理及び難民認定法改正案に対する意見書」を公表した。
そもそも、ウクライナ人居住地域の包囲作戦やライフライン途絶など住民の生命が危機に晒される武力攻撃がなされ、また米国大統領が言及しているようにジェドサイドが疑われる状況では、ウクライナからの退避者の多くが難民と認められ得るはずである。また、政府も、難民と認められない場合も現行入管法の規定に基づく人道配慮措置(第61条の2の2第2項等)によって、退避者の保護は可能であるとしている(3月15日の法務大臣会見における説明など)。
他方、難民申請者が迫害主体から殊更に標的にされたのでなければ「迫害のおそれ」がないとする国際基準から乖離した出入国在留管理庁の解釈を前提とする限り、ウクライナからの退避者の多くは、同じく「迫害のおそれ」を要件とする補完的保護の対象にならないものと懸念される。現行の人道配慮措置を廃止して補完的保護制度を導入しようとする改正法案は、出入国在留管理庁が上記解釈を変えない限り、むしろ有害となる可能性が高い。
出入国在留管理庁は、2021年(令和3年)の難民認定者数等を公表したが、難民認定申請者数は2413人、審査請求数は4046人、難民と認定されたのは74人であり、世界でも類を見ない極めて少ない認定数、認定率が続いていることは事実である。
ひるがえって、国際法を遵守した適正な難民保護制度を確立し、庇護すべき人を庇護することが、悲惨な経験をされて日本に逃れてきたウクライナからの人々を安定的に保護していくことにもつながるのであり、当会は、改めて改正法案の再提出に反対し、国際基準に沿った適正な難民保護制度の確立を求める。
以上
2022年(令和4年)7月13日
広島弁護士会 会長 久笠 信雄
ロシアによるウクライナ侵攻により、ウクライナ市民に多数の犠牲者や退避者が発生している。こうした情勢を受け、日本政府は、ウクライナからの退避者保護について十分とは言えないまでも対応している。
広島県にも、本年7月10日現在38名の退避者がおり、今後、日本での長期的な生活の道筋を立てるための支援や庇護へのアクセス確保を進めることが求められる。
他方、岸田総理大臣は、4月13日の参議院本会議において、ウクライナからの退避者を想定し、法務省で難民に準じて保護する仕組みである補完的保護制度(報道等では「準難民」とも称される。)の検討を進めている旨答弁した。また、古川法務大臣は、ウクライナからの退避者を保護するため、収容送還制度との一体的見直しが必要であるとし、昨年の通常国会に提出され廃案となった出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)改正の法案(以下「改正法案」という。)の再提出に意欲を示した(同月19日の法務大臣会見における説明など)。
しかしながら、改正法案は収容期間の上限設置や収容に対する司法審査の導入を見送り、一方で支援者等に本来の役割と相容れない義務を課す監理措置制度、ノン・ルフールマン原則に反するおそれのある難民申請者に対する送還停止効の一部解除、刑事罰で強制する退去命令制度の創設等、多くの問題点を有していることから、当会は反対を表明する2021年(令和3年)3月25日付け「出入国管理及び難民認定法改正案に対する意見書」を公表した。
そもそも、ウクライナ人居住地域の包囲作戦やライフライン途絶など住民の生命が危機に晒される武力攻撃がなされ、また米国大統領が言及しているようにジェドサイドが疑われる状況では、ウクライナからの退避者の多くが難民と認められ得るはずである。また、政府も、難民と認められない場合も現行入管法の規定に基づく人道配慮措置(第61条の2の2第2項等)によって、退避者の保護は可能であるとしている(3月15日の法務大臣会見における説明など)。
他方、難民申請者が迫害主体から殊更に標的にされたのでなければ「迫害のおそれ」がないとする国際基準から乖離した出入国在留管理庁の解釈を前提とする限り、ウクライナからの退避者の多くは、同じく「迫害のおそれ」を要件とする補完的保護の対象にならないものと懸念される。現行の人道配慮措置を廃止して補完的保護制度を導入しようとする改正法案は、出入国在留管理庁が上記解釈を変えない限り、むしろ有害となる可能性が高い。
出入国在留管理庁は、2021年(令和3年)の難民認定者数等を公表したが、難民認定申請者数は2413人、審査請求数は4046人、難民と認定されたのは74人であり、世界でも類を見ない極めて少ない認定数、認定率が続いていることは事実である。
ひるがえって、国際法を遵守した適正な難民保護制度を確立し、庇護すべき人を庇護することが、悲惨な経験をされて日本に逃れてきたウクライナからの人々を安定的に保護していくことにもつながるのであり、当会は、改めて改正法案の再提出に反対し、国際基準に沿った適正な難民保護制度の確立を求める。
以上