会長声明2022.09.14
安倍元首相の国葬に反対する会長声明
広島弁護士会 会長 久笠 信雄
2022年7月8日、安倍元首相は、街頭演説中に銃撃を受けて死亡した。これにつき、岸田首相は、同年7月22日、「安倍元首相は、憲政史上最長の8年8ヶ月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって総理大臣の重責を担い、東日本大震災からの復興や日本経済の再生、日米関係の基軸としての外交の展開などさまざまな分野で実績を残すなどその功績はすばらしいものがある」等として、安倍元首相の葬儀を国葬において行うことを閣議決定した。
しかし、「国葬」を行うことについては、現行法上の法的根拠が存在しないことや、これにつき多くの国民が反対していることから、法治主義や民主主義、財政立憲主義という憲法原理にも反する問題がある。このため、当会は、「国葬」を行うことに強く反対し中止を求めるものである。
1、法的根拠が存在しないこと
現在、「国葬」を行うことにつき定めた法令は存在しない。戦前においては、天皇の勅令である「国葬令」に基づき行われていたが、この国葬令は1947年に失効し、新たな国葬についての規定は制定されていない。
この点、岸田内閣は、内閣府設置法4条3項33号に定められている内閣府の所掌事務である「国の儀式」として内閣が決定すれば実施できるとの見解を示している。しかし、「国葬」の実施は政府が主体となる国事行為であり、「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法的根拠もなく、内閣府設置法は組織規程でしかないため、国葬の実施には、別途明確な法令上の定めを要するが、そのような法令はない。それにもかかわらず岸田内閣は、かかる内閣設置法を根拠に、「国葬」を内閣の決定だけで実施することを決定した。
このような政府の恣意的な解釈を認めれば、政府は内閣府設置法を根拠にいかなる儀式もなし得ることとなり、国会を「最高機関であり唯一の立法機関」(憲法41条)とし「法律による行政の原理」(憲法73条1号)である法治主義にも反することとなる。このような解釈は、到底認められない。
2、国民の思想・良心の自由に反すること
岸田内閣は、冒頭に述べたとおり、安倍元首相の業績を評価したうえで、国全体として弔意を示すべきであると説明する。しかし、後記のとおり、安倍元首相の実績については様々な批判があり、新聞等の調査によっても多数の国民が「国葬」を行うこと自体に反対している状況もある。
そもそも、安倍元首相の実績をどのように評価するかは、国民各自が自由に判断すべきものである。しかし、このような国民の意識の下で政府が「国葬」を行うことは、安倍元首相が行ってきた行為を正当なものと評価したうえ、国民全体に対し、この評価につき同調を求める結果となる。これは、国民の反対意見を事実上抑圧し、思想・良心の自由を侵害することとなる。
なお、岸田内閣は、服喪を強制するものではないとするが、「国葬」を実施する様子がテレビなどで放映されることにより、社会には大きな影響を与えることとなる。現に、既に教育委員会が学校現場において半旗を掲げるよう指導する例も生じている。
以上のことから、この「国葬」の実施は、国民の思想・良心の自由に反するものである。
3、財政立憲主義にも反すること
この「国葬」は、政府が故人の葬儀を主宰し、その費用に国費を持って充てるものである。この「国葬」に要する費用として、岸田内閣は16億6000万円の支出を予定している。
多くの国民が国葬に反対している上、「国葬」を行うべきか否かについて国会ですら議論されていない状況の下で、この費用の支出をすることは、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」(憲法83条)とする財政立憲主義の原則からしても到底、許されないものである。
4、安倍元首相の実績について国民の間で争いがあること
安倍元首相は、在任当時、歴代内閣が堅持してきた憲法解釈を閣議決定によって変更し、集団的自衛権の行使を容認した。そればかりではなく、特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪の制定や、検察庁法の改正などを強行的に成立させる等、多くの国民から強い批判が寄せられるとともに、当会もこれらが憲法の基本理念に違反することから、繰り返し会長声明等で反対意見を表明し、その廃止を求めてきた。
それにもかかわらず、これらを行った安倍元首相の実施してきた政策を実績として評価し、国葬を行うことは、岸田内閣が改めて立憲主義を否定することになりかねず、到底容認できない。
5、結論
以上のことから、当会は、安倍元首相の「国葬」を行うことに憲法原理に反する多大な問題があるため、これに強く反対しその中止を求めるものである。
執行先:内閣総理大臣、衆議院・参議院議長
参考送付先:広島県選出の国会議員、広島県知事、広島県議会議長、日本弁護士連合会、各弁護士会連合会、各弁護士会、マスコミ
以上
広島弁護士会 会長 久笠 信雄
2022年7月8日、安倍元首相は、街頭演説中に銃撃を受けて死亡した。これにつき、岸田首相は、同年7月22日、「安倍元首相は、憲政史上最長の8年8ヶ月にわたり、卓越したリーダーシップと実行力をもって総理大臣の重責を担い、東日本大震災からの復興や日本経済の再生、日米関係の基軸としての外交の展開などさまざまな分野で実績を残すなどその功績はすばらしいものがある」等として、安倍元首相の葬儀を国葬において行うことを閣議決定した。
しかし、「国葬」を行うことについては、現行法上の法的根拠が存在しないことや、これにつき多くの国民が反対していることから、法治主義や民主主義、財政立憲主義という憲法原理にも反する問題がある。このため、当会は、「国葬」を行うことに強く反対し中止を求めるものである。
1、法的根拠が存在しないこと
現在、「国葬」を行うことにつき定めた法令は存在しない。戦前においては、天皇の勅令である「国葬令」に基づき行われていたが、この国葬令は1947年に失効し、新たな国葬についての規定は制定されていない。
この点、岸田内閣は、内閣府設置法4条3項33号に定められている内閣府の所掌事務である「国の儀式」として内閣が決定すれば実施できるとの見解を示している。しかし、「国葬」の実施は政府が主体となる国事行為であり、「国の儀式」に「国葬」が含まれるという法的根拠もなく、内閣府設置法は組織規程でしかないため、国葬の実施には、別途明確な法令上の定めを要するが、そのような法令はない。それにもかかわらず岸田内閣は、かかる内閣設置法を根拠に、「国葬」を内閣の決定だけで実施することを決定した。
このような政府の恣意的な解釈を認めれば、政府は内閣府設置法を根拠にいかなる儀式もなし得ることとなり、国会を「最高機関であり唯一の立法機関」(憲法41条)とし「法律による行政の原理」(憲法73条1号)である法治主義にも反することとなる。このような解釈は、到底認められない。
2、国民の思想・良心の自由に反すること
岸田内閣は、冒頭に述べたとおり、安倍元首相の業績を評価したうえで、国全体として弔意を示すべきであると説明する。しかし、後記のとおり、安倍元首相の実績については様々な批判があり、新聞等の調査によっても多数の国民が「国葬」を行うこと自体に反対している状況もある。
そもそも、安倍元首相の実績をどのように評価するかは、国民各自が自由に判断すべきものである。しかし、このような国民の意識の下で政府が「国葬」を行うことは、安倍元首相が行ってきた行為を正当なものと評価したうえ、国民全体に対し、この評価につき同調を求める結果となる。これは、国民の反対意見を事実上抑圧し、思想・良心の自由を侵害することとなる。
なお、岸田内閣は、服喪を強制するものではないとするが、「国葬」を実施する様子がテレビなどで放映されることにより、社会には大きな影響を与えることとなる。現に、既に教育委員会が学校現場において半旗を掲げるよう指導する例も生じている。
以上のことから、この「国葬」の実施は、国民の思想・良心の自由に反するものである。
3、財政立憲主義にも反すること
この「国葬」は、政府が故人の葬儀を主宰し、その費用に国費を持って充てるものである。この「国葬」に要する費用として、岸田内閣は16億6000万円の支出を予定している。
多くの国民が国葬に反対している上、「国葬」を行うべきか否かについて国会ですら議論されていない状況の下で、この費用の支出をすることは、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」(憲法83条)とする財政立憲主義の原則からしても到底、許されないものである。
4、安倍元首相の実績について国民の間で争いがあること
安倍元首相は、在任当時、歴代内閣が堅持してきた憲法解釈を閣議決定によって変更し、集団的自衛権の行使を容認した。そればかりではなく、特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪の制定や、検察庁法の改正などを強行的に成立させる等、多くの国民から強い批判が寄せられるとともに、当会もこれらが憲法の基本理念に違反することから、繰り返し会長声明等で反対意見を表明し、その廃止を求めてきた。
それにもかかわらず、これらを行った安倍元首相の実施してきた政策を実績として評価し、国葬を行うことは、岸田内閣が改めて立憲主義を否定することになりかねず、到底容認できない。
5、結論
以上のことから、当会は、安倍元首相の「国葬」を行うことに憲法原理に反する多大な問題があるため、これに強く反対しその中止を求めるものである。
執行先:内閣総理大臣、衆議院・参議院議長
参考送付先:広島県選出の国会議員、広島県知事、広島県議会議長、日本弁護士連合会、各弁護士会連合会、各弁護士会、マスコミ
以上