会長声明2023.03.22
公正な裁判を受ける権利が保障されるために判検交流の廃止を求める会長声明
2023年(令和5年)3月22日
広島弁護士会 会長 久笠 信雄
1 裁判官から被告国側代理人への異動問題
2022年9月1日付けで、東京地裁行政部の裁判長が、法務省訟務局長に人事異動した。訟務局長職は、行政訴訟についての国の責任者で、この異動は前日まで行政事件の裁判長であった者が、翌日から同じ行政事件について国側のトップに就いたものである。
従来、裁判官と検察官の間の人事交流、いわゆる判検交流について、司法の独立・裁判の公正さの観点から問題があると指摘されており、刑事分野では2012年に廃止されたが、行政分野では現在も続いている。
過去に東京地裁行政部の部総括経験者が約1年の期間を置いた後に訟務局長になった例がある。裁判が外形的に公正であることはもとより、裁判所の情報が訟務局に取得されたおそれがあることから、裁判の内容が公正であることへの信頼が問題となったが、今回の人事は、直接の異動でありさらにエスカレートしている。
この人事については、行政訴訟に取り組む弁護団、弁護士団体、弁護士が抗議し、2022年10月31日に記者会見を行い、多くのメディアが、今回の人事や判検交流を問題視する事態となっている。
2 被告国側代理人を経験した裁判官の忌避問題
一方、最高裁判所事務総局によって、被告国代理人として原発差止請求訴訟に関与した経験のある裁判官を、2022年9月16日付で、東京高等裁判所の原発差止請求訴訟係属部の部総括に転任させた人事が行われた。事態に気付いた原告側弁護団が回避勧告と忌避申立て予告をしたところ、2023年1月20日、事件が同裁判所の別の部に配点替えされた。
これは、裁判所が、事実上、「裁判の公平を妨げるべき事情」という忌避事由の存在を認めたものと思われる。
同様の事例として、2016年3月31日、金沢地裁に係属した生活保護基準引き下げ違憲訴訟の担当裁判官が、過去にさいたま地裁で同訴訟の国側筆頭代理人だったことから、原告側による忌避申立てが認められている。
3 公正な裁判を受ける権利と判検交流
行政訴訟は、被爆者認定を争ったり、原発設置許可の取消しを争ったり、生活保護基準を争ったり、本国に送還されたら迫害を受けるとして難民不認定処分を争う裁判や、日本で生まれ育った子どもが親に在留資格がなかったが故に親と一緒に一度も行ったことがない国籍国へ強制送還されることなどを争う事件であり、多くの人の命、人生、生活に直接かつ多大な影響を及ぼす訴訟である。したがって、公正な裁判に対する信頼がとりわけ尊重されなければならない分野である。
この点、国会質疑において、法務大臣等は、「法曹は法という客観的な規律に従って活動するものであり、裁判官、検察官、弁護士のいずれの立場においても、その立場に応じて職責を全うするものであり、裁判官の職にあった者を訟務検事に任命する人事交流に、職務上の問題はない。それ自体(判検交流)が直ちに裁判の公正、中立性を害するものとは考えていない。」との答弁に終始している。
しかし、「立場に応じて職責を全うしているか」という、法曹各々の心の中は、外からは見えないものであり、外形的に裁判が公正であることは司法作用の大前提である。さらに、裁判は、その実質においても、裁判所の構成という形式においても公正であることが強く求められるものであって、判検交流はその形式からも裁判の公正さに疑義を抱かせる制度であり、かつ、これによって実質的な公正も損なわれているのではないかとの疑念が払拭できない。
そもそも、司法が市民から信頼される存在であるための根拠は、裁判所が「公正」、「中立」であることだが、判検交流を続ける裁判所は、自らが市民からの信頼を打ち壊していると言わざるをえない。
当会は、公正な裁判を受ける権利(国際人権規約(自由権規約)第14条)が保障されるためにも、行政分野においても判検交流が直ちに廃止されることを求める。
以上
2023年(令和5年)3月22日
広島弁護士会 会長 久笠 信雄
1 裁判官から被告国側代理人への異動問題
2022年9月1日付けで、東京地裁行政部の裁判長が、法務省訟務局長に人事異動した。訟務局長職は、行政訴訟についての国の責任者で、この異動は前日まで行政事件の裁判長であった者が、翌日から同じ行政事件について国側のトップに就いたものである。
従来、裁判官と検察官の間の人事交流、いわゆる判検交流について、司法の独立・裁判の公正さの観点から問題があると指摘されており、刑事分野では2012年に廃止されたが、行政分野では現在も続いている。
過去に東京地裁行政部の部総括経験者が約1年の期間を置いた後に訟務局長になった例がある。裁判が外形的に公正であることはもとより、裁判所の情報が訟務局に取得されたおそれがあることから、裁判の内容が公正であることへの信頼が問題となったが、今回の人事は、直接の異動でありさらにエスカレートしている。
この人事については、行政訴訟に取り組む弁護団、弁護士団体、弁護士が抗議し、2022年10月31日に記者会見を行い、多くのメディアが、今回の人事や判検交流を問題視する事態となっている。
2 被告国側代理人を経験した裁判官の忌避問題
一方、最高裁判所事務総局によって、被告国代理人として原発差止請求訴訟に関与した経験のある裁判官を、2022年9月16日付で、東京高等裁判所の原発差止請求訴訟係属部の部総括に転任させた人事が行われた。事態に気付いた原告側弁護団が回避勧告と忌避申立て予告をしたところ、2023年1月20日、事件が同裁判所の別の部に配点替えされた。
これは、裁判所が、事実上、「裁判の公平を妨げるべき事情」という忌避事由の存在を認めたものと思われる。
同様の事例として、2016年3月31日、金沢地裁に係属した生活保護基準引き下げ違憲訴訟の担当裁判官が、過去にさいたま地裁で同訴訟の国側筆頭代理人だったことから、原告側による忌避申立てが認められている。
3 公正な裁判を受ける権利と判検交流
行政訴訟は、被爆者認定を争ったり、原発設置許可の取消しを争ったり、生活保護基準を争ったり、本国に送還されたら迫害を受けるとして難民不認定処分を争う裁判や、日本で生まれ育った子どもが親に在留資格がなかったが故に親と一緒に一度も行ったことがない国籍国へ強制送還されることなどを争う事件であり、多くの人の命、人生、生活に直接かつ多大な影響を及ぼす訴訟である。したがって、公正な裁判に対する信頼がとりわけ尊重されなければならない分野である。
この点、国会質疑において、法務大臣等は、「法曹は法という客観的な規律に従って活動するものであり、裁判官、検察官、弁護士のいずれの立場においても、その立場に応じて職責を全うするものであり、裁判官の職にあった者を訟務検事に任命する人事交流に、職務上の問題はない。それ自体(判検交流)が直ちに裁判の公正、中立性を害するものとは考えていない。」との答弁に終始している。
しかし、「立場に応じて職責を全うしているか」という、法曹各々の心の中は、外からは見えないものであり、外形的に裁判が公正であることは司法作用の大前提である。さらに、裁判は、その実質においても、裁判所の構成という形式においても公正であることが強く求められるものであって、判検交流はその形式からも裁判の公正さに疑義を抱かせる制度であり、かつ、これによって実質的な公正も損なわれているのではないかとの疑念が払拭できない。
そもそも、司法が市民から信頼される存在であるための根拠は、裁判所が「公正」、「中立」であることだが、判検交流を続ける裁判所は、自らが市民からの信頼を打ち壊していると言わざるをえない。
当会は、公正な裁判を受ける権利(国際人権規約(自由権規約)第14条)が保障されるためにも、行政分野においても判検交流が直ちに廃止されることを求める。
以上