会長声明2023.03.23
特定少年の実名等の公表及び推知報道を慎重に検討するよう求める会長声明
2023年(令和5年)3月22日
広島弁護士会 会長 久笠信雄
第1 声明の趣旨
当会は、少年法第68条に基づく特定少年の実名等の公表及び推知報道に関して、関係機関に対し、次のとおり強く要請する。
1 検察庁に対し
推知報道禁止の一部解除は、当該特定少年の更生可能性を著しく妨げ、ひいては再犯可能性を高めることになりかねないことから、検察庁は、実名等の公表について、慎重かつ消極的に取り扱うように求める。
2 報道機関に対し
報道機関は、推知報道が少年の改善更生や社会復帰を阻害する危険性を有することに鑑み、公判請求後に検察庁による特定少年の実名等の公表にかかわらず、推知報道の要否を極めて慎重に検討されるように求める。
第2 声明の理由
1 2022年(令和4年)4月1日から「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年 法律47号)(以下「本改正法」という。)が施行され、18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について氏名、年齢、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)の禁止が、一部解除された。
そして、2023年(令和5年)3月22日、広島県内で特定少年が起こしたとされる事件について、横浜家庭裁判所が検察官送致を決定したことから、今後、広島地方裁判所に公判請求(起訴)される可能性が高く、その場合、本改正法に基づき、特定少年の推知報道が可能となる。
当会は、2021年(令和3年)2月10日付け「少年法改正に反対する会長声明」を発出し推知報道解禁について反対の立場を表明し、同年7月14日付け「少年法改正に関する会長声明」では、少年法の目的及び理念に則った推知報道の適切な運用・対応を関係機関に求めた。
実際、本改正法については、参議院の法務委員会において、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。」との附帯決議がなされており、衆議院の法務委員会でも同様の附帯決議がなされている。
2 推知報道は、際限なく少年のプライバシーを侵害し、少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きく、いかに重大な罪を犯した少年であってもその後の長い人生にわたって、社会復帰、社会参加のために重大な致命的不利益を、合理的な理由もなく少年やその家族に与えるものを言わざるを得ない。それは少年の適切な社会適応を妨げることにより、ひいては再非行への社会的不安を増大させる悪循環に陥るおそれがあり、社会公共の利益にも反する。
3 そうであれば、検察庁による特定少年に関する実名等の公表は、本改正法の下でも、極めて慎重かつ消極的に取り扱われなければならないことは言うまでもない。
そうしたところ、最高検察庁は2022年(令和4年)2月8日付けで「少年法等の一部を改正する法律の施行に伴う事件広報について(事務連絡)」を発出し、公判請求時の事件広報に際しては、衆参両議院の法務委員会に付された付帯決議の趣旨を踏まえた対応が必要となる旨を、各検察庁に対して周知している。検察庁には、裁判員制度対象事件であるか否かにかかわらず少年の将来にわたって健全育成する利益を犠牲にしてまで、少年の実名等を公表するべき必要か否か、極めて慎重な検討が求められる。
また、報道機関には、少年法の理念及び目的が十分理解され、報道によって少年の健全育成及び立ち直りが妨げられることがないよう、実名公表された場合であっても、いったん公判請求(起訴)された少年について刑事処分ではなく保護処分が相当とされた場合には少年法55条に基づいて再び家庭裁判所に送致されることもあるのであるから、事件報道の内容や在り方について、十分に検討することが求められる。
4 よって、当会は、検察庁に対して特定少年に関する事件広報において、少年の健全育成及び更生に対する影響の大きさから実名等の公表は極めて慎重かつ消極的に取り扱われるよう求めるとともに、報道機関に対して公判請求後に検察庁による特定少年の実名公表にかかわらず、推知報道の要否を極めて慎重に検討されるよう求めるものである。
以上
2023年(令和5年)3月22日
広島弁護士会 会長 久笠信雄
第1 声明の趣旨
当会は、少年法第68条に基づく特定少年の実名等の公表及び推知報道に関して、関係機関に対し、次のとおり強く要請する。
1 検察庁に対し
推知報道禁止の一部解除は、当該特定少年の更生可能性を著しく妨げ、ひいては再犯可能性を高めることになりかねないことから、検察庁は、実名等の公表について、慎重かつ消極的に取り扱うように求める。
2 報道機関に対し
報道機関は、推知報道が少年の改善更生や社会復帰を阻害する危険性を有することに鑑み、公判請求後に検察庁による特定少年の実名等の公表にかかわらず、推知報道の要否を極めて慎重に検討されるように求める。
第2 声明の理由
1 2022年(令和4年)4月1日から「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年 法律47号)(以下「本改正法」という。)が施行され、18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について氏名、年齢、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)の禁止が、一部解除された。
そして、2023年(令和5年)3月22日、広島県内で特定少年が起こしたとされる事件について、横浜家庭裁判所が検察官送致を決定したことから、今後、広島地方裁判所に公判請求(起訴)される可能性が高く、その場合、本改正法に基づき、特定少年の推知報道が可能となる。
当会は、2021年(令和3年)2月10日付け「少年法改正に反対する会長声明」を発出し推知報道解禁について反対の立場を表明し、同年7月14日付け「少年法改正に関する会長声明」では、少年法の目的及び理念に則った推知報道の適切な運用・対応を関係機関に求めた。
実際、本改正法については、参議院の法務委員会において、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。」との附帯決議がなされており、衆議院の法務委員会でも同様の附帯決議がなされている。
2 推知報道は、際限なく少年のプライバシーを侵害し、少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きく、いかに重大な罪を犯した少年であってもその後の長い人生にわたって、社会復帰、社会参加のために重大な致命的不利益を、合理的な理由もなく少年やその家族に与えるものを言わざるを得ない。それは少年の適切な社会適応を妨げることにより、ひいては再非行への社会的不安を増大させる悪循環に陥るおそれがあり、社会公共の利益にも反する。
3 そうであれば、検察庁による特定少年に関する実名等の公表は、本改正法の下でも、極めて慎重かつ消極的に取り扱われなければならないことは言うまでもない。
そうしたところ、最高検察庁は2022年(令和4年)2月8日付けで「少年法等の一部を改正する法律の施行に伴う事件広報について(事務連絡)」を発出し、公判請求時の事件広報に際しては、衆参両議院の法務委員会に付された付帯決議の趣旨を踏まえた対応が必要となる旨を、各検察庁に対して周知している。検察庁には、裁判員制度対象事件であるか否かにかかわらず少年の将来にわたって健全育成する利益を犠牲にしてまで、少年の実名等を公表するべき必要か否か、極めて慎重な検討が求められる。
また、報道機関には、少年法の理念及び目的が十分理解され、報道によって少年の健全育成及び立ち直りが妨げられることがないよう、実名公表された場合であっても、いったん公判請求(起訴)された少年について刑事処分ではなく保護処分が相当とされた場合には少年法55条に基づいて再び家庭裁判所に送致されることもあるのであるから、事件報道の内容や在り方について、十分に検討することが求められる。
4 よって、当会は、検察庁に対して特定少年に関する事件広報において、少年の健全育成及び更生に対する影響の大きさから実名等の公表は極めて慎重かつ消極的に取り扱われるよう求めるとともに、報道機関に対して公判請求後に検察庁による特定少年の実名公表にかかわらず、推知報道の要否を極めて慎重に検討されるよう求めるものである。
以上