声明・決議・意見書

会長声明2023.03.24

生活保護基準の見直しを求める会長声明

2023年(令和5年)3月22日
広島弁護士会 会長 久 笠 信 雄

 

2013年(平成25年)5月16日、厚生労働大臣は生活保護基準を3年間かけて約670億円削減することを内容とする告示を出し、これに基づき、同年8月、2014年(平成26年)4月、2015年(平成27年)4月に生活保護基準の引き下げ(以下「本引き下げ」という。)が実施された。

本引き下げにともなう保護費減額決定処分については、これまでに1000名近くの原告が全国29の地方裁判所に処分取消し等を求める訴訟を提起しているところ、これまでに、大阪地方裁判所判決(2021年(令和3年)2月22日)、熊本地方裁判所(2022年(令和4年)5月25日)、東京地方裁判所(同年6月24日)、横浜地方裁判所(同年10月19日)、宮崎地方裁判所(2023年(令和5年)2月10日)が、減額決定処分の取消しを認めた。

横浜地方裁判所判決は、生活保護基準は生活保護法8条2項所定の事項を遵守して定められる必要があるところ、本引き下げは、統計等の客観的数値等との合理的関連性を欠き、専門的知見との整合性を有しないとした上で、本引き下げの影響は保護利用世帯のおよそ96%に広く及ぶもので、かつ減額幅も大きいことに照らし結果も重大であるから、厚生労働大臣の判断過程には過誤、欠落があり、本引き下げ全体について裁量権の逸脱・濫用があったと結論づけた。

他の判決も横浜地方裁判所判決とほぼ同趣旨であり、今後も各地の裁判所で本引き下げが違法であるとの判決が出されると予想される。

いうまでもなく、生活保護基準は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であり、最低賃金、就学援助の給付対象基準、介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準等の労働・教育・福祉・税制など、国の発表でも47の制度と連動している。生活保護基準の引き下げは、生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに、生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすのである。新型コロナウイルス感染症の拡大は、現在の社会保障制度の脆弱さを浮き彫りにするとともに、最後のセーフティネットとしての生活保護の重要性を明らかにした。

さらに、昨今、消費者物価指数の上昇は著しく、中でも電気代などのエネルギーや食料など家計に直結する品目の上昇率が高く、生活保護利用者を含む低所得者の生活に深刻な影響を与えている。

当会は、2018年(平成31年)1月10日生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明 | 広島弁護士会 (hiroben.or.jp)

2021年(令和3年)3月24日生活保護基準引下げの見直しを求める会長声明 | 広島弁護士会 (hiroben.or.jp)と、生活保護基準の引き下げに反対する会長声明を繰り返し発出してきたが、あらためて、政府に対し、裁量権の範囲を逸脱・濫用してなされた本引き下げを見直し、少なくとも2013年(平成25年)8月以前の生活保護基準に早急に戻すことを強く求めるものである。

以上