会長声明2023.05.10
特定少年の実名公表及び報道を受けての会長声明
2023年(令和5年)5月10日
広島弁護士会 会長 坂下宗生
第1 声明の趣旨
当会は、次の通り抗議するとともに、遺憾の意を表明する。
1 広島地方検察庁に対し
広島地方検察庁が行った特定少年の実名公表に対して強く抗議を行う。
2 報道機関に対し
広島地方検察庁による特定少年の実名公表を受けて、推知報道を行った一部報道機関に対して遺憾の意を表明すると共に、少年の更生や社会復帰を阻害する推知報道がインターネット上に残ることがないように、記事の削除等、速やかに対応されることを要請する。
第2 声明の理由
2022年(令和4年)4月1日から「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号。以下「本改正法」という。)が施行され、18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について氏名、年齢、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)の禁止が、一部解除された。
推知報道は、インターネット社会においては半永久的に特定少年の情報を閲覧でき際限なく少年のプライバシーを侵害し、少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きい。このような懸念を考慮して、少年法改正に際して、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。」との内容の附帯決議が両院で付されている(令和3年4月16日付衆議院法務委員会附帯決議及び同年5月20日付参議院法務委員会附帯決議)。
当会は、これまで少年法改正に伴う推知報道解禁について反対の立場を表明し、本年3月22日にも広島市内で特定少年が起こしたとされた事件につき、横浜家庭裁判所が検察官送致を決定したことから、実名公表を慎重かつ消極的に取り扱うことを検察庁に求め、併せて推知報道の要否を極めて慎重に検討するよう各報道機関に求めていたところであった。
それにもかかわらず2023年(令和5年)3月31日、広島地方検察庁は、上記事件について、同日公判請求をすると共に、当該特定少年の実名を公表し、一部の報道機関が、実名を含む推知報道を行った。その際の報道によれば、上記事件が「重大な事案であり、地域社会に与える影響も深刻」であることを理由に実名公表に踏み切ったとのことのようである。
しかし、上記事件では特定少年の役割、関与の度合いも不明であって公判の開始前に実名公表を行う必要性は考えにくく、慎重かつ十分な配慮がなされたものとは言い難い。また、特定少年であっても、少年法55条の適用により、審理の結果、裁判所が少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは決定をもって事件を家庭裁判所に移送しなければならないこととされているのであるから、公判請求された段階で直ちに実名公表を行うことは許されないというべきである。
したがって、このような広島地方検察庁の実名公表について、当会は強い抗議を行う。
また、推知報道に至った一部報道機関に対しては、推知報道の危険性を十分に認識されていないものとして遺憾の意を表せざるを得ない。その一方で、広島地方検察庁の実名公表があったにもかかわらず、事件の内容や少年法の理念などを踏まえて、報道機関としての主体的な判断により推知報道を行わなかった報道機関が見られたことは報道機関の責任ある判断を示したものとして高く評価したい。
そして、推知報道を行った報道機関は、インターネット上に推知報道が残るようなことがないように記事の削除等、速やかに対応されるよう要請するものである。
以上
2023年(令和5年)5月10日
広島弁護士会 会長 坂下宗生
第1 声明の趣旨
当会は、次の通り抗議するとともに、遺憾の意を表明する。
1 広島地方検察庁に対し
広島地方検察庁が行った特定少年の実名公表に対して強く抗議を行う。
2 報道機関に対し
広島地方検察庁による特定少年の実名公表を受けて、推知報道を行った一部報道機関に対して遺憾の意を表明すると共に、少年の更生や社会復帰を阻害する推知報道がインターネット上に残ることがないように、記事の削除等、速やかに対応されることを要請する。
第2 声明の理由
2022年(令和4年)4月1日から「少年法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第47号。以下「本改正法」という。)が施行され、18歳又は19歳の少年(以下「特定少年」という。)について氏名、年齢、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載すること(以下「推知報道」という。)の禁止が、一部解除された。
推知報道は、インターネット社会においては半永久的に特定少年の情報を閲覧でき際限なく少年のプライバシーを侵害し、少年の成長発達を妨げ、その更生や社会復帰、社会への適応を阻害するおそれが大きい。このような懸念を考慮して、少年法改正に際して、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならないことの周知に努めること。」との内容の附帯決議が両院で付されている(令和3年4月16日付衆議院法務委員会附帯決議及び同年5月20日付参議院法務委員会附帯決議)。
当会は、これまで少年法改正に伴う推知報道解禁について反対の立場を表明し、本年3月22日にも広島市内で特定少年が起こしたとされた事件につき、横浜家庭裁判所が検察官送致を決定したことから、実名公表を慎重かつ消極的に取り扱うことを検察庁に求め、併せて推知報道の要否を極めて慎重に検討するよう各報道機関に求めていたところであった。
それにもかかわらず2023年(令和5年)3月31日、広島地方検察庁は、上記事件について、同日公判請求をすると共に、当該特定少年の実名を公表し、一部の報道機関が、実名を含む推知報道を行った。その際の報道によれば、上記事件が「重大な事案であり、地域社会に与える影響も深刻」であることを理由に実名公表に踏み切ったとのことのようである。
しかし、上記事件では特定少年の役割、関与の度合いも不明であって公判の開始前に実名公表を行う必要性は考えにくく、慎重かつ十分な配慮がなされたものとは言い難い。また、特定少年であっても、少年法55条の適用により、審理の結果、裁判所が少年の被告人を保護処分に付するのが相当であると認めるときは決定をもって事件を家庭裁判所に移送しなければならないこととされているのであるから、公判請求された段階で直ちに実名公表を行うことは許されないというべきである。
したがって、このような広島地方検察庁の実名公表について、当会は強い抗議を行う。
また、推知報道に至った一部報道機関に対しては、推知報道の危険性を十分に認識されていないものとして遺憾の意を表せざるを得ない。その一方で、広島地方検察庁の実名公表があったにもかかわらず、事件の内容や少年法の理念などを踏まえて、報道機関としての主体的な判断により推知報道を行わなかった報道機関が見られたことは報道機関の責任ある判断を示したものとして高く評価したい。
そして、推知報道を行った報道機関は、インターネット上に推知報道が残るようなことがないように記事の削除等、速やかに対応されるよう要請するものである。
以上