声明・決議・意見書

会長声明2023.06.14

最低賃金額の引上げを求める会長声明

2023年(令和5年)6月14日
広島弁護士会 会長 坂下 宗生

第1 声明の趣旨

1 当会は、中央最低賃金審議会に対し、2023年度(令和5年度)地域別最低賃金額改定の目安についての答申において、目安を引き上げることによって地域別最低賃金額の引上げを促すことを求める。

2 当会は、広島地方最低賃金審議会に対し、主体的に2023年度(令和5年度)地域別最低賃金額の引上げを図ることを求める。

 

第2 声明の理由

1 中央最低賃金審議会は、近々、厚生労働大臣に対し、地域別最低賃金額改定の目安についての答申をする予定である。その後、中央最低賃金審査会の答申を受けて、各都道府県地方最低賃金審議会においても、調査・審議を経て賃金額改定の答申がされ、これを踏まえ各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することとなる。

2 中央最低賃金審議会は、2020年度(令和2年度)を除き毎年、地域別最低賃金額の引上げ額の目安を答申し、とりわけ2022年度(令和4年度)においては全国加重平均31円(過去最高額)の引上げ額が示された。

これを受けて、広島県においても、2022年度(令和4年度)には31円の引上げがなされ、その結果最低賃金額は時給930円とされた。

もっとも、増額された上記金額でさえも、1日8時間、週40時間働いたとしても月収約16万3680円、年収で約196万円にしかならない。これでは労働者が賃金だけで人間らしい生活を持続的に営むことはできないばかりか、すべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網(セーフティネット)としての最低賃金制度の目的を果たしていない。

3 最低賃金法は、第1条において「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障すること」によって「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」に資することを目的とする旨を明示しているところ、このような現状を踏まえれば、最低賃金額をさらに引き上げ、最低賃金制度をすべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網(セーフティネット)として真に実効的に機能させることが必要不可欠である。

さらに、ロシアによるウクライナ侵攻の影響もあり、物価が急上昇している。全ての労働者の生活を守り、経済を活性化させるためにも、さらなる最低賃金額の引上げが必要であり、最低賃金額の引上げの実施は、労働者やその家族の命に関わる重要な課題である。

4 この点、岸田文雄内閣総理大臣は、自身の経済政策である「新しい資本主義」の最重要の核として「人への投資」を掲げ、賃金の引上げを強調している。さらに、2022年(令和4年)6月7日、新しい資本主義実現会議での答申を経て「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が閣議決定され、上記実行計画推進のため策定された工程表には、最低賃金について「できる限り早期に全国加重平均が1000円以上となることを目指す」旨が明記されている。

他方、最低賃金の引上げにあたっては、財政的な裏付けが乏しい中小企業を支援する方策が必要となるところ、2022年(令和4年)4月1日以降の事業年度について、給与等を増額させた場合にその一部を法人税等から税額控除できる賃上げ促進税制が開始され、また、ものづくり補助金や持続化補助金においても賃上げをした中小企業への補助率を引き上げる特別枠が設けられているほか、政府調達においても賃上げをした中小零細企業に対し加点が行われる等されている。

国民経済の健全な発展には、中小企業への支援策を充実させると同時に最低賃金額の引上げを図ることが肝要であり、上記の実行計画は、まさにこの点を意識した内容となっているものであり、このような中小企業への支援策はさらに充実されるべきである。

5 よって、当会は、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び国民経済の健全な発展への寄与という最低賃金法の目的を達するため、改めて、中央最低賃金審議会に対し、今回の答申において目安を引き上げることによって地域別最低賃金額の引上げを促すことを求めるとともに、広島地方最低賃金審議会に対し、主体的に地域別最低賃金額の引上げを図ることを求める。

以上