声明・決議・意見書

意見書2023.09.19

罹災証明書発行申請において、被害住家の写真の提出を求める等の取扱いの是正を求める意見書

 

令和5年9月19日

広島弁護士会 会長 坂下 宗生

第1 意見の趣旨

住家の被害に関する罹災証明書発行の申請に当たり、

① 市町は、自己判定方式ではない場合に、被災住家の写真を必要としない取扱いを行うこと、

② 市町は、被災住家の修理見積書や自治会長等の証明を必要としない取扱を行うこと、

③ 市町は、上記①及び②の取扱いについて、住民に広報を行うこと、

④ 国及び広島県は広島県内の市町に対し①、②及び③の取扱を実施するよう助言、監督すること、

を求める。

 

第2 意見の理由

1 罹災証明書申請にあたっての全国各市町村の取扱いの現状

近年、全国各地で災害が相次いでいるところ、住家の被害に関する罹災証明書申請にあたって、①被災住家の写真や修繕の見積書を申請の必要書類とする、あるいは②自治会長や第三者(以下「自治会長等」という)の証明(以下被災住家の写真、見積書、自治会長等の証明を合わせて「写真等」という)を求める市町村が多くあり、各市町村のホームページにも同様の案内がなされている

2 上記取扱いの問題点

(1)罹災証明書は、災害対策基本法90条の2において、市町村長は災害の被災 者から申請があったときは、遅滞なく住家の被害を調査し、当該災害による被害の程度を証明する書類(以下「罹災証明書」という)を交付しなければならないと定められており、必要書類などの詳細については定めがない。

(2)また、令和5年3月内閣府発行「災害に係る住家被害認定業務実施体制の手引き」(以下「手引き」という)においても、罹災証明申請書に関して、どこにも被災住家の写真や見積書、自治会長等の証明を確認することは記載されていない。

(3)むしろ、令和2年7月6日内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(被災者生活再建担当)発出「令和2年7月豪雨における住家の被害認定調査業務の効率化・迅速化に係る留意事項について」(以下「令和2年7月6日付事務連絡」という)においては、「※被災者が自己判定方式による申請を希望した場合には、被災住家の写真の添付が必要となりますが、それ以外の場合には、申請時に写真の添付は必須ではありませんので、念のため申し添えます。被災者に必要以上の負担をかけないようにする観点から、自己判定方式による申請ではないにもかかわらず、罹災証明書の申請にあたり写真の添付や提示を必須とすることがないようご留意ください」とされ、重ねて手引きにおいても「自己判定方式を実施する場合には、その申請にあたって(中略)写真等の添付書類が必須となりますが、自己判定方式を実施しない場合には、同様の添付書類を必須とする必要はありません。被災者負担の観点からも添付書類を必須としないよう留意してください。」と明記されている(51頁)。

(4)以上のとおり自己判定方式を実施する場合を除き、写真等の添付書類が必須とされる理由はないにもかかわらず、多くの自治体のホームページには自己判定方式についての言及はなく、一律に罹災証明書申請の必要書類として写真等を挙げている。このような記載では、被災者が罹災証明書の発行を申請するには写真等が必要であると誤信することは容易に想像でき、被災者の負担を必要以上に強いていることとなっている。

(5)実態的にも、被災者の住宅が災害によって浸水、倒壊等の被害を受けた場合、被災者は撮影機器を喪失したり、あるいは印刷機器を喪失していることもある。仮に、写真撮影を行えたとしても、自家用車の浸水や道路の通行止め、公共交通機関の未復旧などの理由により印刷可能な場所への交通手段がない等、被災者が写真を早急に用意できないケースは容易に想定される。そうであるにも拘らず、市町村が本来必要ない書類を添付書類として求めることは、①申請に余計な時間がかかってしまうことで被災者支援に遅れが出てしまうこと、②被災者が罹災証明書の申請を諦めることや適切な認定を受けることを断念することにつながりかねないこと、③これらの事態は各市町村においても適切な被災状況の把握を困難にするリスクがあること、④各市町村において手続格差が生じるなどの弊害となってしまう。

3 広島県内市町における取扱いについて

(1)広島県は平成26年、平成30年と大規模な被災を経験しており、またいつ大規模な災害に見舞われても不思議ではない状態にある。このような中、広島県内の各市町についても、そのホームページの記載を確認したところ、罹災証明書の発行申請にあたって写真等を求めている市町が存在している。

(2)罹災証明書の発行手続きについては被災者支援の出発点となる重要なものであり、このままでは上記で記載したような弊害が広島県内においても生じかねない。一方で、災害発生後の混乱状況下において、慌てて罹災証明書の発行手続きの取り扱いを変更することは現実的ではないことから、事前準備として平時において、適切な罹災証明書の発行手続きが行われるように是正をしておくべきであり、これは被災者支援にとって重要な事項である。

4 以上のような理由から、罹災証明書の交付申請にあたって、①広島県内の市町は、自己判定方式ではない場合に、被災住家の写真を必要としない取扱いを行うこと、②市町は、被災住家の修理見積書や自治会長等の証明を必要としない取扱を行うこと、③市町は、上記①及び②の取扱いについて、住民に広報を行うこと、④国及び広島県は広島県内の市町に対し①、②及び③の取扱を実施するよう助言、監督することを求める。

 

以上