会長声明2023.09.21
参議院議員選挙広島選挙区での公職選挙法違反事件捜査で行われた司法取引に関する会長声明
2023(令和5)年9月13日
広島弁護士会
会 長 坂 下 宗 生
1 報道によれば、2019年に実施された参議院議員選挙に関する公職選挙法違反事件(いわゆる「河井事件」)に関し、東京地方検察庁特別捜査部の検察官らが、元法務大臣から受領した現金が買収資金であるとの認識を否定する供述をしていた元市議会議員における取調べにおいて、①否認しなければ不起訴にすることを示唆して、買収目的を認めるよう促していたこと、②元法務大臣が被告人となっている刑事事件の公判において、同市議会議員が証人として出るための「証人テスト」において、証言を誘導し、口止めをするような発言を行っていたとされている。
2 ①について、元市議は当初、検察官に対し、「受け取ったものが現金だという認識はなかった」などと故意を否認してたが、検察官は、「議員を続けていただきたいので否認というふうにしたくない」などと不起訴にすることを示唆するような発言をしたうえ、現金が買収目的だったと認めるよう促していたとのことである。また、検事は「なんとか処分を不起訴であったりなるべく軽い処分に」などとも発言していたとのことであった。
このような検察官の取調べ方法は、刑事訴訟法において定められている合意制度(いわゆる「司法取引制度」)では適用されない罪について、法に基づかない司法取引を持ちかけているものであって、明らかに刑事訴訟法に違反するものである。
3 ②について、検察官は、元市議が2019年4月に金銭を受領したことに関して、元市議に対し、「(2019年)6月に(金銭を)受領した」と記載される調書に署名したことについて、市議に対し、「検事が言っているから思わず署名したが、すぐに訂正したというニュアンスを伝えてほしい」と、証言内容を指示した。また、検察官は、証人尋問において、元法相側の弁護人が、元市議に対して「なぜ4月に受領したことを最初から認めなかったのか」と質問した場合に備え、市議に対し、「4月だと今更言い出しづらい、ぐらいは全然OK」として、供述内容を誘導するような発言を行った。さらに、元市議が「2019年4月時点における現金受領を違法だと思っていない」という発言にならないように、「『4月のことが頭になかった』と言っちゃうとおかしい」と注意を与えたとのことである。
このような検察官の証人テストの方法は、証人本人の主観的な記憶と反することを証言するよう誘導するものであり、偽証罪の共同正犯となりうる違法な行為である。
4 上記事実や、2021年に無罪判決が確定したプレサンス事件における検察官による違法行為などに鑑みれば、2010年に無罪判決が確定した郵便不正・厚生労働省元局長事件(村木事件)に端を発し、検察庁が主導して行った「基本規程(検察の理念)」に基づく「検察改革」は全く意味を有していなかったと言わざるをない。この事実は、現在取調べの可視化が法定されている裁判員裁判事件のみならず、在宅事件を含む全事件について、取調べの可視化が必要であることを強く示唆するものである。また、検察官による違法な取調べを防ぐために、弁護人による取調べの立会いの必要性があることを十分に示している。
したがって、検察官による違法行為を抑止するためには、直ちに全ての取調べの録音・録画、及び弁護人による取調べへの立会いを法定し、「証人テスト」についても客観的に記録されること、及び弁護人による取調べの立会も法定しなければならない。
以上
2023(令和5)年9月13日
広島弁護士会
会 長 坂 下 宗 生
1 報道によれば、2019年に実施された参議院議員選挙に関する公職選挙法違反事件(いわゆる「河井事件」)に関し、東京地方検察庁特別捜査部の検察官らが、元法務大臣から受領した現金が買収資金であるとの認識を否定する供述をしていた元市議会議員における取調べにおいて、①否認しなければ不起訴にすることを示唆して、買収目的を認めるよう促していたこと、②元法務大臣が被告人となっている刑事事件の公判において、同市議会議員が証人として出るための「証人テスト」において、証言を誘導し、口止めをするような発言を行っていたとされている。
2 ①について、元市議は当初、検察官に対し、「受け取ったものが現金だという認識はなかった」などと故意を否認してたが、検察官は、「議員を続けていただきたいので否認というふうにしたくない」などと不起訴にすることを示唆するような発言をしたうえ、現金が買収目的だったと認めるよう促していたとのことである。また、検事は「なんとか処分を不起訴であったりなるべく軽い処分に」などとも発言していたとのことであった。
このような検察官の取調べ方法は、刑事訴訟法において定められている合意制度(いわゆる「司法取引制度」)では適用されない罪について、法に基づかない司法取引を持ちかけているものであって、明らかに刑事訴訟法に違反するものである。
3 ②について、検察官は、元市議が2019年4月に金銭を受領したことに関して、元市議に対し、「(2019年)6月に(金銭を)受領した」と記載される調書に署名したことについて、市議に対し、「検事が言っているから思わず署名したが、すぐに訂正したというニュアンスを伝えてほしい」と、証言内容を指示した。また、検察官は、証人尋問において、元法相側の弁護人が、元市議に対して「なぜ4月に受領したことを最初から認めなかったのか」と質問した場合に備え、市議に対し、「4月だと今更言い出しづらい、ぐらいは全然OK」として、供述内容を誘導するような発言を行った。さらに、元市議が「2019年4月時点における現金受領を違法だと思っていない」という発言にならないように、「『4月のことが頭になかった』と言っちゃうとおかしい」と注意を与えたとのことである。
このような検察官の証人テストの方法は、証人本人の主観的な記憶と反することを証言するよう誘導するものであり、偽証罪の共同正犯となりうる違法な行為である。
4 上記事実や、2021年に無罪判決が確定したプレサンス事件における検察官による違法行為などに鑑みれば、2010年に無罪判決が確定した郵便不正・厚生労働省元局長事件(村木事件)に端を発し、検察庁が主導して行った「基本規程(検察の理念)」に基づく「検察改革」は全く意味を有していなかったと言わざるをない。この事実は、現在取調べの可視化が法定されている裁判員裁判事件のみならず、在宅事件を含む全事件について、取調べの可視化が必要であることを強く示唆するものである。また、検察官による違法な取調べを防ぐために、弁護人による取調べの立会いの必要性があることを十分に示している。
したがって、検察官による違法行為を抑止するためには、直ちに全ての取調べの録音・録画、及び弁護人による取調べへの立会いを法定し、「証人テスト」についても客観的に記録されること、及び弁護人による取調べの立会も法定しなければならない。
以上