会長声明2023.10.13
緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する会長声明
2023(令和5)年10月11日
広島弁護士会
会長 坂下宗生
第1 声明の趣旨
当会は、緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する。
第2 声明の理由
1 はじめに
現在、衆議院憲法審査会では、大規模災害や戦争等の緊急事態時においても国会の権能を維持するためとして、国会議員の任期の延長を可能とする憲法改正を求める意見が出されている。
しかしながら、上記の憲法改正は、以下に述べるとおり、憲法上、緊急時にも国会の権能が維持できる制度が存在するためその必要性が認められないばかりか、国民主権を侵害し、国家権力の濫用の危険性を有する内容であり、到底、是認できない。
2 緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正をすることの問題点
(1)国民主権を侵害すること
緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正は、憲法の基本原理の一つである国民主権を侵害するものである。
憲法は、公務員の選定罷免権を国民固有の権利であると規定し(憲法15条1項)、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め(同43条1項)、両議院の議員はそれぞれ任期を定められ(同45条、46条)、国民主権の中心的内容として、主権者である国民に対して、両議院の任期を限った議員の選定罷免権を保障している。これらの制度により、国民主権のもと、国会議員に対する国民による民主的統制を確保しているのである。
しかしながら、選挙に基づかない国会議員の任期延長を認める憲法改正がなされた場合は、任期が延長された期間における国会議員による権力行使は、憲法前文が明記するところの国政の権威は国民に由来するという国民主権の正当性とは相容れず、国民主権を侵害する危険性がある。
(2)安易に任期延長がなされ国家権力が濫用されるおそれがあること
国会で議論されている任期延長の要件は、①武力攻撃、②内乱・テロ、③災害、④感染症、⑤その他これらに匹敵する事態が生ずること、及び選挙の適正な実施が困難な場合、とされている(日本維新の会、国民民主党、有志による案)。しかし、これらの要件は曖昧かつ抽象的であるといわざるを得ない。
前記のように、憲法で国会議員の任期を明確に定めた趣旨は、国会議員が国民から国家権力行使の権限を付託される期間を明確にして制限することにより、国家権力の濫用を防止する点にある。上記のような曖昧かつ抽象的な要件のもと、任期延長が認められるとすれば、かかる憲法の趣旨を没却し、内閣、多数党の専断を許すなど国家権力の濫用の可能性を惹起するという大きな弊害をもたらすことになる。
(3)任期延長の必要性が認められないこと
衆議院憲法審査会では、衆議院が解散もしくは任期満了時において大規模災害や戦争等の緊急事態となり選挙が実施できない場合、国会議員が不在となるため、国会議員の任期延長を認める必要がある旨の議論がなされている。
しかし、2011年(平成23年)東日本大震災という未曾有の大災害が生じた時も、一部被災地を除き統一地方選挙は予定通り実施され、また、新型コロナウイルス感染症が拡大(COVID‐19)した2020年(令和2年)ないし2022年(令和4年)の間も衆議院総選挙、参議院選挙、及び各地の首長選挙が予定通り実施されており、緊急事態時、全国的に選挙が出来ないとの前提そのものに根拠がない。
また、憲法は、参議院議員の任期を6年として3年ごとに議員の半数を改選すると定めて(同46条)、国会議員が不在になることを防いでおり、会議の定足数も確保することができる(同56条1項)。加えて、衆議院解散時において、緊急の必要があるときには参議院の緊急集会により国会の権能を維持する一方で(同54条2項)、選挙実施後の国会で衆議院の同意を得なければその効力を失うとして民主的正当性も確保している(同54条3項)。
このように、緊急時においては、憲法上、一定の民主的正当性を確保した上で、国会の権能が失われないための制度が設けられていることから、任期延長のために憲法改正を行う必要性は認められない。
3 結論
以上から、当会は、緊急事態時に国会の権能を維持できない、緊急事態時には選挙ができないとの前提に立ち国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する。
以上
2023(令和5)年10月11日
広島弁護士会
会長 坂下宗生
第1 声明の趣旨
当会は、緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する。
第2 声明の理由
1 はじめに
現在、衆議院憲法審査会では、大規模災害や戦争等の緊急事態時においても国会の権能を維持するためとして、国会議員の任期の延長を可能とする憲法改正を求める意見が出されている。
しかしながら、上記の憲法改正は、以下に述べるとおり、憲法上、緊急時にも国会の権能が維持できる制度が存在するためその必要性が認められないばかりか、国民主権を侵害し、国家権力の濫用の危険性を有する内容であり、到底、是認できない。
2 緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正をすることの問題点
(1)国民主権を侵害すること
緊急事態時に国会議員の任期延長を認める憲法改正は、憲法の基本原理の一つである国民主権を侵害するものである。
憲法は、公務員の選定罷免権を国民固有の権利であると規定し(憲法15条1項)、国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め(同43条1項)、両議院の議員はそれぞれ任期を定められ(同45条、46条)、国民主権の中心的内容として、主権者である国民に対して、両議院の任期を限った議員の選定罷免権を保障している。これらの制度により、国民主権のもと、国会議員に対する国民による民主的統制を確保しているのである。
しかしながら、選挙に基づかない国会議員の任期延長を認める憲法改正がなされた場合は、任期が延長された期間における国会議員による権力行使は、憲法前文が明記するところの国政の権威は国民に由来するという国民主権の正当性とは相容れず、国民主権を侵害する危険性がある。
(2)安易に任期延長がなされ国家権力が濫用されるおそれがあること
国会で議論されている任期延長の要件は、①武力攻撃、②内乱・テロ、③災害、④感染症、⑤その他これらに匹敵する事態が生ずること、及び選挙の適正な実施が困難な場合、とされている(日本維新の会、国民民主党、有志による案)。しかし、これらの要件は曖昧かつ抽象的であるといわざるを得ない。
前記のように、憲法で国会議員の任期を明確に定めた趣旨は、国会議員が国民から国家権力行使の権限を付託される期間を明確にして制限することにより、国家権力の濫用を防止する点にある。上記のような曖昧かつ抽象的な要件のもと、任期延長が認められるとすれば、かかる憲法の趣旨を没却し、内閣、多数党の専断を許すなど国家権力の濫用の可能性を惹起するという大きな弊害をもたらすことになる。
(3)任期延長の必要性が認められないこと
衆議院憲法審査会では、衆議院が解散もしくは任期満了時において大規模災害や戦争等の緊急事態となり選挙が実施できない場合、国会議員が不在となるため、国会議員の任期延長を認める必要がある旨の議論がなされている。
しかし、2011年(平成23年)東日本大震災という未曾有の大災害が生じた時も、一部被災地を除き統一地方選挙は予定通り実施され、また、新型コロナウイルス感染症が拡大(COVID‐19)した2020年(令和2年)ないし2022年(令和4年)の間も衆議院総選挙、参議院選挙、及び各地の首長選挙が予定通り実施されており、緊急事態時、全国的に選挙が出来ないとの前提そのものに根拠がない。
また、憲法は、参議院議員の任期を6年として3年ごとに議員の半数を改選すると定めて(同46条)、国会議員が不在になることを防いでおり、会議の定足数も確保することができる(同56条1項)。加えて、衆議院解散時において、緊急の必要があるときには参議院の緊急集会により国会の権能を維持する一方で(同54条2項)、選挙実施後の国会で衆議院の同意を得なければその効力を失うとして民主的正当性も確保している(同54条3項)。
このように、緊急時においては、憲法上、一定の民主的正当性を確保した上で、国会の権能が失われないための制度が設けられていることから、任期延長のために憲法改正を行う必要性は認められない。
3 結論
以上から、当会は、緊急事態時に国会の権能を維持できない、緊急事態時には選挙ができないとの前提に立ち国会議員の任期延長を認める憲法改正に反対する。
以上