会長声明2019.02.27
法科大学院在学中の卒業見込みの資格で司法試験の受験を認める制度へ変更する案についての会長声明
広島弁護士会
会長 前川 秀雅
第1 声明の趣旨
法科大学院在学中に司法試験の受験を認める制度変更について審議するに際しては,「プロセス」としての法曹養成制度を保持し,かつ,地方の法科大学院の実情を考慮にいれた上で,会議体を設置して慎重な検討を行うべきである。
第2 声明の理由
1 現在,法務省・文部科学省を中心に,「法曹志望者の時間的・経済的負担軽減を図り,もって法曹志望者を増加させること」を目的として,法科大学院生が在学中に,法科大学院の卒業見込みの資格で司法試験の受験を認める制度へ変更する法案が,本国会中に提出される動きがある。
2 現行の法科大学院制度は,法科大学院,司法試験,司法修習を実務家教育のための「プロセス」と捉え,法科大学院では実務との架橋として体系的な法実務教育を実施するという観点から導入されたものであり,司法試験も法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替えたものとされている。すなわち,法科大学院の教育では,現在行われている実務を単に理解し,実践させるのではなく,法律学に関する体系的知識の基礎となる原理を理解した上で法曹となり,そのような体系的知識に基づいて既存の基準に従うのみならず,基準自体を見直して改善する能力をも併せて育てることを目標としているのである。
そのため,この「プロセス」の途中,すなわち,法科大学院在学中に司法試験を受験可能とする制度に変更するためには,「当該実施時期までに法科大学院において受けるべき教育内容が全て履修できるようなカリキュラムを編成することが可能か」「そのカリキュラムの内容を損なわないように司法試験を実施するとした場合の実施時期をいつにすべきか」「在学中に司法試験を実施するとした場合における,適切な司法試験の問題はどのようにあるべきか」など,検討すべき点が多く存在する。
3 特に,地方の法科大学院においては,法学未修者や地方の大学に多い複合学部(いわゆる法学以外の学問も併設している学部)において必ずしも手厚い法学教育を受けていない法学既修者に対して法曹への道を開く教育が求められていることを受けて,それに応じた教育プログラムを開設している。そして,現在,併せて検討されている法学部と法科大学院の法曹養成連携協定に基づく「法曹コース」の開設が実施された場合には、複合学部では連携上の必要とされる履修科目が開設されていないため「法曹コース」の設置ができない等の事情により、「法曹コース」が設置された法学部と比べて学部における法実務教育を充実させることができず、これら複合学部からの出身者をかかえる地方法科大学院では、そのような事情を踏まえた、より充実した法実務教育が必要とされることになる。そのような中で在学中の司法試験受験が行われることになれば,法科大学院における教育期間を実質的に短縮することになり,上記のような事情を抱えた地方の法科大学院では,短縮された教育期間で司法試験合格率を維持するために,司法試験の受験に対応することに重点を置いた教育を進めざるを得ないことになりかねない。
このような事態は,上記の法学未修者や複合学部出身者の希望を閉ざすことになりかねないものであり,そもそも,上記で述べた体系的に法実務教育を行うために「プロセス」の中で法曹を養成していく制度とは明らかに矛盾したものとなる。
4 以上のとおりであるから,第1の声明の趣旨のとおり法科大学院在学中に司法試験の受験を認める制度変更について審議するに際しては,「プロセス」としての法曹養成制度を保持し,かつ,地方の法科大学院の実情を考慮にいれた上で,会議体を設置して慎重な検討を行うよう求める。
以上
広島弁護士会
会長 前川 秀雅
第1 声明の趣旨
法科大学院在学中に司法試験の受験を認める制度変更について審議するに際しては,「プロセス」としての法曹養成制度を保持し,かつ,地方の法科大学院の実情を考慮にいれた上で,会議体を設置して慎重な検討を行うべきである。
第2 声明の理由
1 現在,法務省・文部科学省を中心に,「法曹志望者の時間的・経済的負担軽減を図り,もって法曹志望者を増加させること」を目的として,法科大学院生が在学中に,法科大学院の卒業見込みの資格で司法試験の受験を認める制度へ変更する法案が,本国会中に提出される動きがある。
2 現行の法科大学院制度は,法科大学院,司法試験,司法修習を実務家教育のための「プロセス」と捉え,法科大学院では実務との架橋として体系的な法実務教育を実施するという観点から導入されたものであり,司法試験も法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替えたものとされている。すなわち,法科大学院の教育では,現在行われている実務を単に理解し,実践させるのではなく,法律学に関する体系的知識の基礎となる原理を理解した上で法曹となり,そのような体系的知識に基づいて既存の基準に従うのみならず,基準自体を見直して改善する能力をも併せて育てることを目標としているのである。
そのため,この「プロセス」の途中,すなわち,法科大学院在学中に司法試験を受験可能とする制度に変更するためには,「当該実施時期までに法科大学院において受けるべき教育内容が全て履修できるようなカリキュラムを編成することが可能か」「そのカリキュラムの内容を損なわないように司法試験を実施するとした場合の実施時期をいつにすべきか」「在学中に司法試験を実施するとした場合における,適切な司法試験の問題はどのようにあるべきか」など,検討すべき点が多く存在する。
3 特に,地方の法科大学院においては,法学未修者や地方の大学に多い複合学部(いわゆる法学以外の学問も併設している学部)において必ずしも手厚い法学教育を受けていない法学既修者に対して法曹への道を開く教育が求められていることを受けて,それに応じた教育プログラムを開設している。そして,現在,併せて検討されている法学部と法科大学院の法曹養成連携協定に基づく「法曹コース」の開設が実施された場合には、複合学部では連携上の必要とされる履修科目が開設されていないため「法曹コース」の設置ができない等の事情により、「法曹コース」が設置された法学部と比べて学部における法実務教育を充実させることができず、これら複合学部からの出身者をかかえる地方法科大学院では、そのような事情を踏まえた、より充実した法実務教育が必要とされることになる。そのような中で在学中の司法試験受験が行われることになれば,法科大学院における教育期間を実質的に短縮することになり,上記のような事情を抱えた地方の法科大学院では,短縮された教育期間で司法試験合格率を維持するために,司法試験の受験に対応することに重点を置いた教育を進めざるを得ないことになりかねない。
このような事態は,上記の法学未修者や複合学部出身者の希望を閉ざすことになりかねないものであり,そもそも,上記で述べた体系的に法実務教育を行うために「プロセス」の中で法曹を養成していく制度とは明らかに矛盾したものとなる。
4 以上のとおりであるから,第1の声明の趣旨のとおり法科大学院在学中に司法試験の受験を認める制度変更について審議するに際しては,「プロセス」としての法曹養成制度を保持し,かつ,地方の法科大学院の実情を考慮にいれた上で,会議体を設置して慎重な検討を行うよう求める。
以上