声明・決議・意見書

会長声明2024.06.12

最低賃金額の引上げを求める会長声明

2024年(令和6年)6月12日
広島弁護士会 会長 大植 伸

第1 声明の趣旨

1 当会は、中央最低賃金審議会に対し、2024年度(令和6年度)地域別最低賃金額改定の目安についての答申において、目安を引き上げることによって地域別最低賃金額の引上げを促すことを求める。

2 当会は、広島地方最低賃金審議会に対し、主体的に2024年度(令和6年度)地域別最低賃金額の引上げを図ることを求める。

 

第2 声明の理由

1 中央最低賃金審議会は、近々、厚生労働大臣に対し、地域別最低賃金額改定の目安についての答申をする予定である。その後、中央最低賃金審査会の答申を受けて、各都道府県地方最低賃金審議会においても、調査・審議を経て賃金額改定の答申がされ、これを踏まえ各都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定することとなる。

2 中央最低賃金審議会は、2020年度(令和2年度)を除き毎年、地域別最低賃金額の引上げ額の目安を答申し、2023年度(令和5年度)においては全国加重平均43円の引上げ額が示され、過去最高額を続けて更新した。

これを受けて、広島県においても、2023年度(令和5年度)には40円の引上げがなされ、その結果最低賃金額は時給970円とされた。

もっとも、増額された上記金額では、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約16万8000円、年収で約201万円にしかならない。加えて、近年の国際的な燃料費等の高騰や円安の進行による消費者物価の大幅な上昇が続いていて、実質賃金は、本年3月時点で24か月連続減少という調査が出ていて、給与の上昇が物価高に追いついていない状態が続いているとされる。低所得者層ほど消費者物価の状況の影響を受けやすいことをみれば、この最低賃金額では、労働者が賃金だけで人間らしい生活を持続的に営むことはできておらず、すべての労働者を低廉な賃金から保護する安全網(セーフティネット)としての最低賃金制度の目的を果たしているとは言い難いものであるから、最低賃金額をさらに引き上げ、最低賃金制度を真に実効的に機能させることが必要不可欠である。

政府においても、2023年(令和5年)8月に開催された第21回新しい資本主義実現会議において、2030年代半ばまでに全国加重平均が1500円になることを目指すと表明しているところ、近年の消費者物価の大幅な上昇に鑑みると、可及的速やかに実現される必要がある。

3 2023年度(令和5年度)の最低賃金額の引上げ額は全国加重平均43円であったが、引上げ後も都市部ほど最低賃金額が高いことに未だ変わりはなく、労働者が高い賃金を求めて都市部に流出し、地方において労働力不足する傾向にあることも変わっていない。

とりわけ、広島県は、総務省公表の人口移動報告において、転出超過者数が3年連続で全国最多となっており、人口流出対策が喫緊の課題となっている。転出超過の要因は様々なものがあるといわれているが、転出超過者数を年齢層別でみると20歳代が最多となっていて、進学・就職の機会に県外に転出しているとみられることから、首都圏等との賃金の差が少なからず影響していることは否定し難いものと思料する。

そうすると、広島県において最低賃金額をさらに引き上げることによって、首都圏等の格差を解消することは、地域経済の活性化の観点からも必要と理解されるものである。

4 他方で、最低賃金の引上げにあたっては、賃金を支給する事業者、特に中小企業・小規模事業者への支援も必要である。各種助成金、補助金の支給、加点等の施策が講じられていて、これらも支援策はさらに充実されるべきである。また、大企業に比して交渉力が弱い中小企業・小規模事業者が適正な代金の支払を得て、賃金の引上げに充てることが可能となるように、公正な取引環境が確保されるようなさらなる行政上、立法上の措置が講じられることも必要であって、こうした取り組みへの働きかけも付言されるのが相当である。

5 よって、当会は、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び国民経済の健全な発展への寄与という最低賃金法の目的を達するため、改めて、中央最低賃金審議会に対し、今回の答申において目安を引き上げることによって地域別最低賃金額の引上げを促すことを求めるとともに、広島地方最低賃金審議会に対し、主体的に地域別最低賃金額の引上げを図ることを求める。

以上