声明・決議・意見書

会長声明2024.09.12

マイナ保険証への一本化に反対し現行の健康保険証の発行を存続させることを求める会長声明

2024年(令和6年)9月11日
広島弁護士会 会長 大植 伸

第1 声明の趣旨
当会は、政府に対し、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続させることを求める。

第2 声明の理由
1 はじめに
政府は、2024年(令和6年)12月2日をもって健康保険証の新規発行を停止し、1年間の経過措置をもって、マイナンバーカードに健康保険証機能を持たせたマイナ保険証への移行を進めることを閣議決定した。かかる措置は、2023年(令和5年)6月9日の「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「マイナンバー法」という。)等の一部改正を受けたものである。
しかし、以下に述べるとおり、マイナ保険証に一本化し、現行の健康保険証を廃止することは、市民の医療を受ける権利を不当に制限するおそれ があるため、この方針に対し当会は反対である。

2 マイナ保険証の取得・利用・管理の困難さ
マイナ保険証を取得するためには、その前提としてマイナンバーカードの取得が必要であり、郵送等で写真付きの申請書を提出し、自治体窓口で交付を受け 、その際に数種類の暗証番号の設定を行う必要がある。
そして、マイナ保険証を健康保険証として利用するために、デジタル庁が運営する「マイナポータル」に登録する必要があり、その際にはパソコンやスマートフォンを使い、長文のマイナポータル利用規約 を理解した上で、利用者証明用電子証明書の暗証番号を入力する必要がある。
さらに、電子証明書には、5年間(発行日から5回目の誕生日まで)の有効期限があるため、期限を把握したうえで、 更新手続をとる必要もある。
また、マイナ保険証を利用する際には、カードリーダーによる顔認証が行われるが、顔認証が上手くいかないときには暗証番号を入力する必要があるため、医療機関を受診する際には、暗証番号も正確に把握しておく必要がある。
このようにマイナ保険証は、現行の健康保険証に比べ、取得・利用 のために極めて煩雑な手続を経る必要があるが、高齢者や障害者の中にはこれらの手続を理解することが難しい者もおり、そうした者がマイナ保険証の取得・管理ができず、保険診療を受けられないおそれがある。
また、介護施設等においては、その多くが利用者や入所者の健康保険証を管理しているところ、マイナ保険証に一本化され施設で暗証番号の管理まで行うとなると、多大な負担が生じるため に対応が困難となり、利用者・入所者自身やその家族に管理を委ねざるを得ない事態も生じ得る 。
このように、マイナ保険証への一本化は、マイナ保険証の取得・利用・管理が困難な 高齢者、障害者、介護施設等の負担を考慮しない不合理なものといわざるを得ない。

3 マイナ保険証によるオンライン資格確認の不備
マイナ保険証によるオンライン資格確認では、保険者情報が正しく反映されていない、機器の不具合によりマイナ保険証の読み取りや顔認証ができない等のトラブルが頻発していることが、2023年6月に広島県保険医協会が行った調査 により報告されている。
上記調査によれば、①窓口で資格確認ができない場合、その日に持ち合わせていた健康保険証で資格確認を行うことが多かった、②健康保険証を持ち合わせていない場合、オンライン資格確認のコールセンターに連絡したが、すぐには繋がらず、すぐに対応できなかったことがあった、③最終的に資格確認ができず、いったん10割負担を患者に請求したことがあったとされている。
これに対し、政府は、 マイナ保険証での資格確認ができない場合に、患者に「被保険者資格申立書」を作成させることで対応すると表明しているが、医療機関では、その受付業務が新たな負担となり、また患者との新たなトラブルが生じることが懸念されている。このことから、国も、マイナ保険証とともに、従来の健康保険証を必ず持参することを呼びかけるに至っている。
このように、医療機関では、カードリーダー等の機器の操作補助やトラブルが発生した場合の対応業務に時間や人手がかかり、大きな負担となっているのであるから、国は、このような問題を解消しないまま、一方的にマイナ保険証への一本化を推し進めるべきではない。

4 マイナンバーカードを取得しない人への対応不備
以上のような様々な問題があるため、2023年(令和5年)8月、政府は、資格確認書を、マイナ保険証を取得していない全員に対し、申請を要さずプッシュ型 で交付することを表明した。
しかし、法律上は、資格確認書の交付を受けるためには申請が必要とされており、プッシュ型の交付はあくまで「当分の間」のものに過ぎない。
また、保険者に、マイナ保険証の未取得者を確実に洗い出す負担をかけることになり、現場に過度の負担を押し付けるものである。

5 医療機関の負担増による懸念
マイナ保険証利用の開始により、医療機関の受付では、マイナ保険証、現行の健康保険証、資格確認証、資格確認申立書という複数の資格確認手段が併存することになり 、医療事務の負担が重くなっている。
また、カードリーダー購入費用及び工事費用の一部は補助の対象となるが、光回線の引き込み費用や、セキュリティ対策費用といったランニングコストは補助の対象とはならず、医療機関の負担となる。
このような新たな事務的負担や経済的負担による医療機関の経営への圧迫は、とりわけ過疎地の地域医療を支える小規模医療機関において顕著であり、その負担に耐えられずに廃業 することとなれば、地域医療への深刻な影響も懸念される。

6 結語
以上から、当会は、マイナ保険証への一本化に反対し、現行の健康保険証の発行を存続させることを求める。

 

以上