声明・決議・意見書

会長声明2025.03.26

日本原水爆被害者団体協議会のノーベル平和賞受賞を歓迎し改めて核兵器禁止条約の署名・批准等を求める会長声明  

2025年(令和7年)3月26日

広島弁護士会会長 大植 伸

 

第1 声明の趣旨

当会は、日本原水爆被害者団体協議会(以下「日本被団協」という。)のノーベル平和賞受賞を歓迎するとともに、日本被団協の受賞による核兵器廃絶の機運の高まりを受け、日本政府に対し、速やかに核兵器禁止条約に署名・批准すること、また、たとえ未署名であったとしても、今後の核兵器禁止条約の締約国会議に、核保有国との橋渡しのためオブザーバーとして参加し、核兵器廃絶に向けて積極的に働きかけるよう求める。

 

第2 声明の理由

1 日本被団協のノーベル平和賞受賞

日本被団協が、2024年(令和6年)のノーベル平和賞を受賞した。「核兵器のない世界を実現するための努力と核兵器が二度と使用されてはならないことを証言によって示してきたこと」等が評価されての受賞である。

受賞式典において、日本被団協代表委員の田中熙巳氏は、これまでの日本被団協の運動で掲げてきた基本要求は2つあり、①日本政府の「戦争の被害は国民が受忍しなければならない」との主張に抗い原爆被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならないという要求と、②核兵器は極めて非人道的な殺りく兵器であり人類とは共存させてはならず、すみやかに廃絶しなければならないという要求の2つであると述べた。

田中熙巳氏は、上記の2つの要求に関する運動の歴史を述べた上で、核兵器は人類と共存できない、共存させてはならないという信念のもと2017年(平成29年)に国連総会で採択された核兵器禁止条約につき、さらなる普遍化を目指す必要があると述べた。

当会は、被爆地広島の弁護士会として、日本被団協のこれまでのたゆまぬ努力に敬意を表するとともに、ノーベル平和賞受賞について歓迎する。

2 核抑止論は日本国憲法と相容れない

一方、日本政府は、核兵器禁止条約については、「日米同盟の下で核兵器を有する米国の抑止力を維持することが必要である」などとして核抑止の重要性を強調し、現時点において署名・批准をしていない。また、核兵器禁止条約の締結国会議へのオブザーバー参加にも消極的であり、これまで開催された2回の会議にも不参加で、今年3月に開かれた第3回会議についても、日本被団協によるオブザーバー参加の要請を受けてもなお、参加していない。

しかし、日本国憲法は、前文において、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意し」、第9条において、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と規定する。核兵器使用の脅威により敵対国の軍事攻撃を思いとどまらせるという核抑止論は、特に、「武力による威嚇」を放棄している日本国憲法の理念とは相容れない。核抑止論は、核兵器の使用を前提とする議論であり、その抑止力が働かず敵対国より攻撃を受けた場合、核兵器が使用され、人類が滅亡する危険性を有する。また、意図的ではなくとも、人為的ミスや誤作動により核兵器が使用される可能性もあり、これまでも実際に、核攻撃があったと誤認した装置の作動により核戦争の勃発寸前に至ったこともある。

これに対し、核兵器禁止条約は、核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法は、核兵器を完全に廃絶することにあるとするものであって、上記した日本国憲法の理念と合致する。

3 核兵器の廃絶を目指すことは被爆国の責務である

日本は、広島と長崎への原子爆弾の投下をされた唯一の戦争被爆国であり、ビキニ環礁における核実験による船舶乗組員の被爆を経験した。核兵器は、熱線、衝撃波及び爆風により一瞬で数多くの人々の命を奪うばかりではなく、核分裂により放出される放射線は、長期間にわたって被爆した生存者の人体に影響をもたらす。戦後80年が経過しようとする現在においても、未だ多くの被爆者が苦しんでいる。日本被団協が今日まで被爆者救済のための運動を続けてきたのは、このように核兵器が非人道的な特質を有するがゆえである。

日本政府は、こうした被爆者の被害から目を背けることなく、二度と同様の経験を人類に与えることのないようにと願う被爆者の思いに応え、核兵器の廃絶に向けた行動を取るべき責務がある。そして、今こそ日本国憲法の理念に立ち返り、その理念に合致する核兵器禁止条約に署名・批准して、核兵器廃絶に向けて積極的に取り組むべきである。また、仮に核兵器禁止条約に未署名であっても、日本政府は、締約国会議にオブザーバー参加し、核保有国との橋渡しを行い、核兵器廃絶のため積極的に関与するべきである。実際、過去の締約国会議では北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるドイツやオランダがオブザーバー参加しており、アメリカとの同盟関係があったとしてもオブザーバー参加の障壁にはならないはずである。

4 結論

当会はこれまで「核兵器禁止条約が発効したことについての会長談話(2021年(令和3年)1月26日)」、「G7広島サミットに際し核兵器禁止条約への署名・批准等を求める会長声明(2023年(令和5年)3月23日)」、「核兵器禁止条約発効3年を機に、改めて核兵器の廃絶の推進を求める会長声明(2024年(令和6年)1月22日)」を発出しており、核兵器禁止条約の発効を歓迎するとともに、被爆による悲劇が繰り返されないために日本政府に核兵器廃絶に向けた積極的な働きかけを求めてきた。日本被団協がノーベル平和賞を受賞した今こそ、日本政府が核廃絶に向けて積極的に行動を起こすためのまたとない機会である。

当会は、この度の日本被団協のノーベル平和賞受賞に際し、日本政府に対し、この核兵器廃絶のための絶好の機会をとらえ、核兵器禁止条約に速やかに署名・批准するよう求める。また同条約の締約国会議が開催されるときは、たとえ未署名であったとしても、核兵器廃絶のためにこれに参加し積極的に関与するとともに、日本政府が、参加国に対し、核兵器廃絶に向けて積極的に働きかけることを求める。

 

<執行先>

内閣総理大臣、外務大臣

 

<参考送付先>

広島県選出の国会議員、広島県、広島市、広島県議会、広島市議会、日弁連、各単位会、各弁護士会連合会、司法記者クラブ、日本被団協

以上