会長声明2005.06.08
NPT再検討会議に関する会長声明
広島弁護士会
会長 山田延廣
当会は、以下のことを強く要望する。
1 すべての核兵器国に対し、誠実な交渉を行って核兵器を廃絶する義務を履行し、2000年NPT再検討会議で採択された最終文書での誓約を果たすこと。
2 日本政府に対し、被爆国政府として、核兵器廃絶に向けて国際社会において一層、積極的に指導力を発揮すること。 理 由
1 2005年核拡散防止条約(NPT)再検討会議(以下、「2005年再検討会議」という)は、本年5月2日から27日まで国連本部で開催されたが何らの合意文書も採択されることなく閉幕した。
当会は、人類最初の被爆地の法律家団体として、2000年NPT再検討会議(以下、「2000年再検討会議」という)の最終文書を発展させて国際社会が核兵器廃絶へ更に大きく前進することを期待していただけに、この事態に強い失望感を禁じ得ない。
2 周知のとおり、2005年再検討会議の役割は、2000年再検討会議で最終文書によって全加盟国が合意した①「保有核兵器の完全廃棄を明確に約束」すること、②包括的核実験停止条約(CTBT)を早期に発効させること、及び③それまで核実験を一時停止することなど13項目の実際的措置に関し、2000年再検討会議以降の5年の間、加盟国がどのような取り組みをしてきたのかについての検証を行い、かつ、2010年に開催予定の再検討会議に向け、核軍縮を一層進めることであった。
このように、2000年再検討会議の最終文書が極めて具体的となったのは、当該文書が1996年7月8日に言い渡された国際司法裁判所(以下「ICJ」という)の勧告的意見を受けて成立したことによる。
すなわち、ICJは、勧告的意見の主文F項で「厳密且つ効果的な国際管理の下における、あらゆる点での核軍縮に導かれる交渉を誠実に遂行し、完結させる義務がある」(全員一致)と判断した。この主文はNPT条約第6条の核軍縮義務を単に核軍縮交渉義務に止まらず、核兵器廃絶義務にまで強化するとともに、当該義務はすべての国家に適用され、NPTに加盟していない核兵器国であるイスラエル・インド・パキスタンへも法的拘束力がある国際法の原則であることを示したものであった。
このように、NPTは単に核不拡散から核兵器廃絶を実現しうる枠組みとなったのである。
3 当会も核兵器が違法であるとのICJの勧告的意見を求める世界法廷運動に関わったことを踏まえ、法律家団体として、主文F項が核兵器を廃絶するための国際法上の大きな前進であったものと認識している。
ところが、米国は、非核兵器国への核先制攻撃を辞さないと宣言したうえ、小型核兵器や強力地中貫通核爆弾など新型核兵器開発を進め、2000年再検討会議以降の「保有核兵器の完全廃棄の明確な約束」及び実際的な軍縮措置に向けた誓約にことごとく反し、核爆発実験の再開を企図するに至った。
しかも、米国は、2005年再検討会議においても、2000年最終文書を過去のものとし、自らは核軍縮義務を果たしたと強弁してCTBTを批准しないことを明確にしておきながら、他方では、イラン・北朝鮮などの核拡散問題に焦点を当てて対立をあおってきた。
また、その他の核兵器国は、2000年最終文書の誓約を履行しようとしなかったうえ、米国に追随して、この最終文書を発展させる合意形成に消極的であり、さらに、日本政府は、再検討会議を成功に導くための合意形成に、被爆国の政府として積極的に指導力を発揮したとはいえなかった。
4 当会は、今回の2005年再検討会議が核軍縮に関して何らの成果をもたらさなかったことに失望し、このような結果になったことの米国をはじめとする核兵器国の責任を強く指摘する。
そして、このような結果にもかかわらず、当会は、2000年NPT再検討会議で採択された最終文書でのNPT加盟国の誓約は現在も意義を失っていないことを確認し、上記のとおり、核兵器国及び日本政府に要望する。
以上
広島弁護士会
会長 山田延廣
当会は、以下のことを強く要望する。
1 すべての核兵器国に対し、誠実な交渉を行って核兵器を廃絶する義務を履行し、2000年NPT再検討会議で採択された最終文書での誓約を果たすこと。
2 日本政府に対し、被爆国政府として、核兵器廃絶に向けて国際社会において一層、積極的に指導力を発揮すること。 理 由
1 2005年核拡散防止条約(NPT)再検討会議(以下、「2005年再検討会議」という)は、本年5月2日から27日まで国連本部で開催されたが何らの合意文書も採択されることなく閉幕した。
当会は、人類最初の被爆地の法律家団体として、2000年NPT再検討会議(以下、「2000年再検討会議」という)の最終文書を発展させて国際社会が核兵器廃絶へ更に大きく前進することを期待していただけに、この事態に強い失望感を禁じ得ない。
2 周知のとおり、2005年再検討会議の役割は、2000年再検討会議で最終文書によって全加盟国が合意した①「保有核兵器の完全廃棄を明確に約束」すること、②包括的核実験停止条約(CTBT)を早期に発効させること、及び③それまで核実験を一時停止することなど13項目の実際的措置に関し、2000年再検討会議以降の5年の間、加盟国がどのような取り組みをしてきたのかについての検証を行い、かつ、2010年に開催予定の再検討会議に向け、核軍縮を一層進めることであった。
このように、2000年再検討会議の最終文書が極めて具体的となったのは、当該文書が1996年7月8日に言い渡された国際司法裁判所(以下「ICJ」という)の勧告的意見を受けて成立したことによる。
すなわち、ICJは、勧告的意見の主文F項で「厳密且つ効果的な国際管理の下における、あらゆる点での核軍縮に導かれる交渉を誠実に遂行し、完結させる義務がある」(全員一致)と判断した。この主文はNPT条約第6条の核軍縮義務を単に核軍縮交渉義務に止まらず、核兵器廃絶義務にまで強化するとともに、当該義務はすべての国家に適用され、NPTに加盟していない核兵器国であるイスラエル・インド・パキスタンへも法的拘束力がある国際法の原則であることを示したものであった。
このように、NPTは単に核不拡散から核兵器廃絶を実現しうる枠組みとなったのである。
3 当会も核兵器が違法であるとのICJの勧告的意見を求める世界法廷運動に関わったことを踏まえ、法律家団体として、主文F項が核兵器を廃絶するための国際法上の大きな前進であったものと認識している。
ところが、米国は、非核兵器国への核先制攻撃を辞さないと宣言したうえ、小型核兵器や強力地中貫通核爆弾など新型核兵器開発を進め、2000年再検討会議以降の「保有核兵器の完全廃棄の明確な約束」及び実際的な軍縮措置に向けた誓約にことごとく反し、核爆発実験の再開を企図するに至った。
しかも、米国は、2005年再検討会議においても、2000年最終文書を過去のものとし、自らは核軍縮義務を果たしたと強弁してCTBTを批准しないことを明確にしておきながら、他方では、イラン・北朝鮮などの核拡散問題に焦点を当てて対立をあおってきた。
また、その他の核兵器国は、2000年最終文書の誓約を履行しようとしなかったうえ、米国に追随して、この最終文書を発展させる合意形成に消極的であり、さらに、日本政府は、再検討会議を成功に導くための合意形成に、被爆国の政府として積極的に指導力を発揮したとはいえなかった。
4 当会は、今回の2005年再検討会議が核軍縮に関して何らの成果をもたらさなかったことに失望し、このような結果になったことの米国をはじめとする核兵器国の責任を強く指摘する。
そして、このような結果にもかかわらず、当会は、2000年NPT再検討会議で採択された最終文書でのNPT加盟国の誓約は現在も意義を失っていないことを確認し、上記のとおり、核兵器国及び日本政府に要望する。
以上