声明・決議・意見書

会長声明2005.10.20

共謀罪の新設に反対する会長声明

広島弁護士会
会長  山田延廣

1  「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(国連国際組織犯罪条約)の国内法化として,「共謀罪」の新設が規定されている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案(以下「同法律案」という)」については,現在のところ,今国会での成立は見送られ,継続審議の方針と伝えられている。
しかし,同法律案は,先の衆議院解散によって廃案となった法律案と同様の内容のもので,以下のとおり,思想信条の自由等の基本的人権の侵害をもたらし、また捜査権限の濫用等の適正手続違反を生ずる蓋然性が極めて高いものであるため,当会は,同罪の新設に対して断固反対するものである。
2  そもそも,共謀罪は,意思形成の段階に過ぎない共謀それ自体を処罰しようとするもので,「犯罪を行う意思」だけでは処罰の対象としないという刑法の人権保障機能の大原則に反することとなる。また,行為を伴わない純粋な共謀を処罰することは,憲法が保障する思想信条の自由を侵害する危険性が極めて高く,しかも,共謀という概念自体が極めてあいまい,かつ,不明確であることからして,表現の自由に対する重大な脅威ともなる。
3  さらに,「意思の連絡」を処罰する共謀罪の捜査は,室内会話,電話,携帯電話,FAX,電子メールなど,プライバシーに密接にかかわるものを対象とせざるを得ない。しかも,その捜査にあっては,自白に依存し,あるいは,会話自体の証拠化のための盗聴が一般的な捜査方法となってしまう。
そして,共謀罪の対象犯罪が615にも上り,捜査活動の相当程度が共謀罪に関する捜査活動で占められるようになることを考えると,共謀罪の新設は,自白偏重の捜査,盗聴による捜査を一般化させ,これまでの捜査方法を根本的に変更させてしまうおそれがある。しかも,現在,取調の可視化が実現していないため,取調の事後チェックも不可能に近い。
したがって,共謀罪の新設は,治安維持が前面に出た捜査を常態化させるなど,捜査権の濫用を招き,適正手続違反をもたらすおそれがきわめて強い。
4  同法律案の前提とされている国連国際組織犯罪条約第3条1項は,条約の適用範囲を,「性質上国際的(越境的)なものであり,かつ,組織的な犯罪集団が関与するもの」と明記しているにもかかわらず,この共謀罪では,「国際的な犯罪」との要件による絞りが外され,「組織的な犯罪集団」という限定も存在しない。
このため,共謀罪は,国連国際組織犯罪条約の範囲を超えて,政党,NPOなどの市民団体,労働組合,企業等,広く団体一般の活動をも処罰対象としてしまうことから,集会結社の自由を侵害するおそれがある。
5  なお,現在,与党により,(1)共謀罪の適用対象を組織的犯罪集団に限定し,(2)客観的な準備行為の存在を構成要件に加えること等の修正案が検討されているとのことである。
しかし,(1)については,「犯罪組織としての継続性」も要件にされなければならない。つまり,例えば,マンション建設に反対する住民組織が,建設阻止のための座り込み等を行った場合,現在の支配的な解釈見解によれば,当該座り込みが正当な行為として違法性阻却されない限り,犯罪(威力業務妨害罪)は成立するされることから,もし,「犯罪組織としての継続性」を要件としないことになれば,当該住民組織が組織内で座り込み等の検討を行ったものの,実行行為まで至らなかった場合であっても,当該組織が「一時的に」組織的犯罪集団化したとして,犯罪主体とされ,「組織的な威力業務妨害共謀罪」に問われるおそれがある。また,(2)についても,単に「準備行為」を要件に付け加えるだけでは,日常的に行われる正当な行為も「準備行為」に含められてしまう可能性が拭いきれない。
いずれにしても,集会結社の自由,思想信条の自由等の侵害の危険は,依然として,残るといわざるを得ない。
6  以上のとおり,共謀罪は,刑法の人権保障機能の大原則に反し,基本的人権の侵害,さらには,適正手続き違反のおそれが強いなど,極めて問題の多いものである。
当会は,共謀罪の新設について,これまでにも会長声明等によって反対の意思を表明してきたが,再度,断固反対する。

以上