会長声明2006.08.09
国選弁護士報酬の度重なる引き下げに抗議するとともに、増額を再度求める会長声明
広島弁護士会
会長 大本和則
1 地方裁判所における被告人国選弁護報酬の標準基準額(公判回数3回)は,2000(平成12)年度から8万6400円とされていたが,2003(平成15)年度の政府予算では8万5600円に引き下げられ,2004(平成16)年度には8万5200円に引き下げられ,さらに2005(平成17)年度では8万5100円に引き下げられ,3年連続で引き下げられるに至った。加えて,記録謄写料,交通費,通訳料,翻訳料等,弁護活動に不可欠であり被告人国選弁護報酬と別途に全額支払われるべき実費も,被告人国選弁護報酬に含まれているとして支給されないか,支給されたとしても制限された範囲にとどまる現状に変わりはない。
当会においては,当会会員全員が国選弁護の重要性を認識し,国選弁護を担うことが弁護士の責務であることを自覚していることから,国選弁護担当者名簿に会員全員が登載される運用の下で,国選弁護活動が行われている。しかし,前述のような被告人国選弁護報酬額,及び実費の支給状況の現状は,刑事弁護活動の実態や職務の重要性に相応したものとはいえず,それを担っている弁護士の責務に対する義務感と犠牲において運営されているといっても過言ではない。国選弁護制度は,憲法上要請されている制度であるにもかかわらず,かかる制度が国選弁護人たる弁護士の犠牲において支えられているというのは異常事態というほかない。それにもかかわらず,政府は,国選弁護人報酬を適正化するための改革を怠ったばかりか,3年連続で被告人国選弁護報酬を引き下げるに及んだことは,より一層国選弁護活動をないがしろにするものであり,断じて許すことはできない。
2 2004(平成16)年の刑事訴訟法の改正及び総合法律支援法の成立により,2006(平成18)年10月から被疑者段階における国選弁護制度が実施されることとなり,日本司法支援センターと契約した弁護士が国選弁護事件を担うこととなった。この点につき,当会は,2005(平成17)年6月8日付け「国選弁護報酬の増額を求める会長声明」において,日本司法支援センターから支払われる国選弁護報酬は,被疑者国選及び被告人国選ともに,それぞれ少なくとも1件当たり20万円になるよう報酬基準を定めたうえ,国選弁護報酬とは別に刑事弁護活動に必要な実費が全額支払われる制度を確立することを強く要望した。
しかし,2006(平成18)年5月25日に法務大臣認可を受けた日本司法支援センターの「国選弁護人の事務に関する契約約款」によれば,地方裁判所における被告人国選弁護の基礎報酬(単独事件。公判回数3回)は8万4000円であり,1件当たり20万円になるような報酬基準とは程遠いばかりか,3年連続で引き下げられた2005(平成17)年度の被告人国選弁護報酬額を,更に下回るものである。
また,被疑者国選弁護報酬についても,弁護期間20日に基準回数5回の接見をした場合の基礎報酬は,10万4000円にとどまっている。被疑者段階の弁護活動は,捜査の進展に対応して迅速かつ積極的に行われなければならないものであるうえ,被疑者国選の実施に伴い必要とされる国選弁護人の数が激増すること,及び国選弁護人の犠牲と負担はより一層増大することからすると,1件当たり20万円になるような報酬基準とは程遠い報酬額にとどまることは,およそ不十分であるといわざるをえない。
これらに加えて,報酬金の特別成果加算に無罪・保釈許可が含まれていない点についても不十分であるといわざるをえず,さらに,実費についても,例えば記録謄写料は,記録謄写枚数が200枚以内の場合には,国選弁護報酬に含まれているとして全く支給されないこととされているが,このような取扱いは,国選弁護人に一層の犠牲と負担を強いるものであり,到底容認できない。
3 よって,当会は,政府予算における国選弁護人報酬の度重なる引き下げに強く抗議するとともに,日本司法支援センターの「国選弁護人の事務に関する契約約款」については,被疑者国選及び被告人国選ともに,それぞれ少なくとも1件当たり20万円になるよう報酬基準を定めたうえ,国選弁護報酬とは別に刑事弁護活動に必要な実費を全額支払われる制度とするように改めるとともに,これに見合う予算措置が行われることを,再度強く要望する。
上記声明文は、内閣総理大臣・法務大臣・財務大臣・最高裁判所・日本司法支援センター宛に送付しております。
以上
広島弁護士会
会長 大本和則
1 地方裁判所における被告人国選弁護報酬の標準基準額(公判回数3回)は,2000(平成12)年度から8万6400円とされていたが,2003(平成15)年度の政府予算では8万5600円に引き下げられ,2004(平成16)年度には8万5200円に引き下げられ,さらに2005(平成17)年度では8万5100円に引き下げられ,3年連続で引き下げられるに至った。加えて,記録謄写料,交通費,通訳料,翻訳料等,弁護活動に不可欠であり被告人国選弁護報酬と別途に全額支払われるべき実費も,被告人国選弁護報酬に含まれているとして支給されないか,支給されたとしても制限された範囲にとどまる現状に変わりはない。
当会においては,当会会員全員が国選弁護の重要性を認識し,国選弁護を担うことが弁護士の責務であることを自覚していることから,国選弁護担当者名簿に会員全員が登載される運用の下で,国選弁護活動が行われている。しかし,前述のような被告人国選弁護報酬額,及び実費の支給状況の現状は,刑事弁護活動の実態や職務の重要性に相応したものとはいえず,それを担っている弁護士の責務に対する義務感と犠牲において運営されているといっても過言ではない。国選弁護制度は,憲法上要請されている制度であるにもかかわらず,かかる制度が国選弁護人たる弁護士の犠牲において支えられているというのは異常事態というほかない。それにもかかわらず,政府は,国選弁護人報酬を適正化するための改革を怠ったばかりか,3年連続で被告人国選弁護報酬を引き下げるに及んだことは,より一層国選弁護活動をないがしろにするものであり,断じて許すことはできない。
2 2004(平成16)年の刑事訴訟法の改正及び総合法律支援法の成立により,2006(平成18)年10月から被疑者段階における国選弁護制度が実施されることとなり,日本司法支援センターと契約した弁護士が国選弁護事件を担うこととなった。この点につき,当会は,2005(平成17)年6月8日付け「国選弁護報酬の増額を求める会長声明」において,日本司法支援センターから支払われる国選弁護報酬は,被疑者国選及び被告人国選ともに,それぞれ少なくとも1件当たり20万円になるよう報酬基準を定めたうえ,国選弁護報酬とは別に刑事弁護活動に必要な実費が全額支払われる制度を確立することを強く要望した。
しかし,2006(平成18)年5月25日に法務大臣認可を受けた日本司法支援センターの「国選弁護人の事務に関する契約約款」によれば,地方裁判所における被告人国選弁護の基礎報酬(単独事件。公判回数3回)は8万4000円であり,1件当たり20万円になるような報酬基準とは程遠いばかりか,3年連続で引き下げられた2005(平成17)年度の被告人国選弁護報酬額を,更に下回るものである。
また,被疑者国選弁護報酬についても,弁護期間20日に基準回数5回の接見をした場合の基礎報酬は,10万4000円にとどまっている。被疑者段階の弁護活動は,捜査の進展に対応して迅速かつ積極的に行われなければならないものであるうえ,被疑者国選の実施に伴い必要とされる国選弁護人の数が激増すること,及び国選弁護人の犠牲と負担はより一層増大することからすると,1件当たり20万円になるような報酬基準とは程遠い報酬額にとどまることは,およそ不十分であるといわざるをえない。
これらに加えて,報酬金の特別成果加算に無罪・保釈許可が含まれていない点についても不十分であるといわざるをえず,さらに,実費についても,例えば記録謄写料は,記録謄写枚数が200枚以内の場合には,国選弁護報酬に含まれているとして全く支給されないこととされているが,このような取扱いは,国選弁護人に一層の犠牲と負担を強いるものであり,到底容認できない。
3 よって,当会は,政府予算における国選弁護人報酬の度重なる引き下げに強く抗議するとともに,日本司法支援センターの「国選弁護人の事務に関する契約約款」については,被疑者国選及び被告人国選ともに,それぞれ少なくとも1件当たり20万円になるよう報酬基準を定めたうえ,国選弁護報酬とは別に刑事弁護活動に必要な実費を全額支払われる制度とするように改めるとともに,これに見合う予算措置が行われることを,再度強く要望する。
上記声明文は、内閣総理大臣・法務大臣・財務大臣・最高裁判所・日本司法支援センター宛に送付しております。
以上