声明・決議・意見書

会長声明2010.02.12

「布川事件」の再審開始決定確定に際し取調べの可視化実現を求める会長声明

広島弁護士会
会長 山下哲夫

平成21年12月14日、最高裁判所第2小法廷は、請求人櫻井昌司氏及び同杉山卓男氏に係る再審請求事件(いわゆる「布川事件」)について、平成20年7月14日に東京高等裁判所がした即時抗告棄却決定に対する検察官の特別抗告を棄却した。これによって平成17年9月21日水戸地方裁判所土浦支部がした再審開始決定が確定したことになる。
布川事件とは、昭和42年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件である。請求人らは、布川事件の被疑者として逮捕され、捜査段階で一旦は自白したものの、第1審公判開始以来一貫して無実を主張し続け、無期懲役判決確定後も、2度にわたる再審請求を行っていた。
この度の再審開始決定の確定は、請求人ら、弁護団及びそれらの関係者の長年にわたる並々ならぬ活動の成果であり、当会は請求人らの活動に深く敬意を表するものである。
そして、当会としては、布川事件の再審決定の確定は、我が国の刑事司法が長年抱えている危険性の存在、具体的には、
① 代用監獄に被疑者を長期間勾留することによって、虚偽自白が発生する危険性
② 取調べの可視化(全過程の録画)がされていないことによって、裁判所が虚偽自白の任意性・信用性をたやすく肯定してしまう危険性
③ 捜査機関が被告人に有利な証拠を開示しないことによって、冤罪が生まれる危険性
などの存在を改めて明らかにしたものと考える。
政府は、いわゆる足利事件、布川事件と連続して再審決定が確定したことを受けて、上記の危険性を解消するために刑事司法の抜本的改革を一刻も早く実現すべきである。
ところが、政府は、最近になって、現在開会中の通常国会では取調べの可視化実現法案(刑事訴訟法改正法案)を提出しないことを明らかにした。現在の政権与党である民主党及び社会民主党は、平成19年12月及び平成21年4月に取調べの可視化実現法案を国会へ提出(いずれも参議院で可決)しており、平成21年8月に実施された衆議院選挙のマニュフェストでも取調べの可視化実現を達成目標として挙げていた。それにもかかわらず、本通常国会において取調べの可視化実現法案の提出を見送る合理的な理由は何ら見出しがたい。
当会は、政府が刑事司法の抜本的改革の第一歩として、取調べの可視化法案を本通常国会に一刻も早く提出し、国会は本通常国会で同法案を可決成立させ 、取調べの可視化を実現するよう強く要望するものである。

以上