声明・決議・意見書

会長声明2011.07.19

布川事件の再審無罪判決確定に関する会長声明

平成23年5月24日,水戸地方裁判所土浦支部は,いわゆる布川事件の再審公判において,櫻井昌司氏と杉山卓男氏に対して,無罪判決を言い渡した。そして,この無罪判決は,検察側の控訴断念により,確定した。

布川事件とは,昭和42年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件である。捜査機関は,両氏を逮捕後,密室の取調室で,偽計や脅迫を用いた取調べを行い,強引に両氏の虚偽自白調書を作成するとともに,両氏に有利な証拠を隠し続けた。当時の裁判所も,虚偽自白調書を安易に信用し,両氏に有罪判決を下したものであり,布川事件は明白なえん罪事件である。

この度の無罪判決の確定は,両氏,弁護団及び関係者の長年に渡る並々ならぬ活動の成果であり,当会は両氏らの活動に改めて 深く敬意を表する。また,両氏に対し,筆舌に尽くしがたい苦しみを負わせてきた警察,検察及び裁判所に対し,深い反省を求める。

この度の無罪判決は,これまでのえん罪事件と同様,客観的な証拠が何らないにもかかわらず,長期間代用監獄に身体拘束し偽計・脅迫等により虚偽自白に追い込んでいく密室での取調べの危険性を改めて明らかにした。また,布川事件の上告審(確定審)である最高裁判所は,取調べの最終段階で録音されたテープの内容から両氏が具体的に整然と供述している等として自白の任意性・信用性を認めたところ,このことは,一部の録音録画ではかえって裁判所の認定を誤らせる危険が大きいことを明らかにした。さらに,布川事件では,両氏が無罪であることを示す証拠が第二次再審公判になって初めて開示されたが,このことは,「公益の代表者」として公正な裁判の実現に努める責務を負っているはずの検察官が,時に,自らにとって不利な証拠を隠し続ける実態をも明らかにした。

当会が2008年(平成20年)11月30日に開催した「密室での取調べを信用できますか? ~裁判員裁判を目前にして取調べの必要性を考える~」と題するシンポジウムにおいて,布川事件について報告された両氏は,密室での取調べがえん罪の温床になっていることを指摘し,えん罪防止のためには取調べの可視化が不可欠であることを強く述べておられたが,今後,両氏のようなえん罪事件を繰り返さないためには,取調べの可視化(取調べの全過程の録画)のみならず,代用監獄(代用刑事施設)の廃止,検察官手持ち証拠の全面開示の実現など,えん罪を防止するための刑事司法改革を早急に実現する必要があることはより明らかとなったといえよう。

特に,取調べの可視化については,本年3月に出された検察の在り方検討会議提言を受けて,本年5月以後,取調べの全過程の録画が試行として行われる事案も出てきているが,布川事件を初めとする数々の冤罪事件の存在で虚偽の自白が行われていることに鑑みれば,一刻も早く法改正を行い,取調べの可視化を捜査機関に義務付けるべきである。

当会は,今後一層,取調べの可視化(取調べ全過程の録画)を初めとして,代用監獄(代用刑事施設)の廃止,検察官手持ち証拠の全面開示など,えん罪を防止するための刑事司法制度の改革のために,全力を尽くす決意である。

以上