会長声明2012.02.08
秘密保全法制に関する会長声明
広島弁護士会
会長 水中誠三
声明の趣旨
政府が法案化作業を進めている秘密保全法制は,国民主権原理から要請される知る権利を侵害するなど,憲法上の諸原理と正面から衝突するものであり,立法を必要とする理由もないので,制定に反対であり,法案が国会へ提出されないよう強く求める。
声明の理由
1 2011年8月8日「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」は,秘密保全法制を早急に整備すべきである旨の「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という)を発表した。
その上で,政府における情報保全に関する検討委員会は,2011年10月7日,次期通常国会への提出に向けて法案化作業を進めることを決定した。
しかし,報告書が整備を求める秘密保全法制(以下「本秘密保全法制」という)は,以下に述べるように,国民主権原理から要請される知る権利を侵害するなど,憲法上の諸原理と正面から衝突するものであり,国民の間で議論が十分になされていない状況下で立法化を早急に進めることは,民主主義国家の政府の態度として極めて問題である。
2 まず,仮に国家秘密とされるべきものがあるとしても,秘密保全のために新たな法制を設ける必要性はなく,国家公務員法等の現行法制でも十分に対応できるものであり,立法を必要とする理由を欠くと言わざるを得ない。
3 次に,本秘密保全法制においては,厳格な保全措置の対象となる「特別秘密」の概念が曖昧かつ広範であるため,本来国民が知るべき情報までもが国民の目から隠されてしまう懸念が極めて大きい。
更に,そのような曖昧かつ広範な「特別秘密」の概念をもとに罰則等を課すことにより,国民の知る権利等が侵害される可能性は顕著であるし,処罰範囲を不明確かつ広範にするため,罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾抵触するおそれがある。
4 本秘密保全法制は,禁止行為として,漏洩行為の独立教唆,扇動行為,共謀行為や,「特定取得行為」と称する秘密探知行為についても独立教唆,扇動行為,共謀行為を処罰しようとしているため,単純な取材行為すら処罰対象となりかねない。また,禁止行為の定義が曖昧かつ広範であるため,この点からも罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾する。
現実の場面を考えても,取材及び報道に対する萎縮効果が極めて大きく,国の行政機関,独立行政法人,地方公共団体,一定の場合の民間事業者・大学に対して取材しようとするジャーナリストの取材の自由・報道の自由が侵害されることとなる。
5 報告書では特別秘密を取り扱う者自体の管理に関して,人的管理の必要性を詳細に論じているが,情報システムの管理に対する無関心やルーズさにこそ問題があることを自覚し,見直すべきであって,人的管理の対象者及びその周辺の人々のプライバシ-を空洞化させるような法律を制定することは本末転倒である。
人的管理に偏することなく,むしろ作成・取得から廃棄・移管までの各段階において,情報システムの管理の徹底など個別具体的な保全措置を講ずる物的管理と組み合わせることにより対応すべきである。
6 本秘密保全法制に関わり起訴された者の裁判手続は,憲法に定められた基本的人権である公開の法廷で裁判を受ける権利や弁護を受ける権利を侵害するおそれがある。
なぜなら,国家秘密を漏洩した等の理由で起訴された場合,その国家秘密が公開の法廷で公開されれば,それはたちどころに秘密ではなくなり,国家秘密が非公開なまま裁判が進行すれば,公開原則に違反し,裁判を受ける権利を侵害するからである。
7 以上の理由から、当会は秘密保全法制の制定に反対し、法案を国会へ提出されないよう強く要求する。
以上
広島弁護士会
会長 水中誠三
声明の趣旨
政府が法案化作業を進めている秘密保全法制は,国民主権原理から要請される知る権利を侵害するなど,憲法上の諸原理と正面から衝突するものであり,立法を必要とする理由もないので,制定に反対であり,法案が国会へ提出されないよう強く求める。
声明の理由
1 2011年8月8日「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」は,秘密保全法制を早急に整備すべきである旨の「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「報告書」という)を発表した。
その上で,政府における情報保全に関する検討委員会は,2011年10月7日,次期通常国会への提出に向けて法案化作業を進めることを決定した。
しかし,報告書が整備を求める秘密保全法制(以下「本秘密保全法制」という)は,以下に述べるように,国民主権原理から要請される知る権利を侵害するなど,憲法上の諸原理と正面から衝突するものであり,国民の間で議論が十分になされていない状況下で立法化を早急に進めることは,民主主義国家の政府の態度として極めて問題である。
2 まず,仮に国家秘密とされるべきものがあるとしても,秘密保全のために新たな法制を設ける必要性はなく,国家公務員法等の現行法制でも十分に対応できるものであり,立法を必要とする理由を欠くと言わざるを得ない。
3 次に,本秘密保全法制においては,厳格な保全措置の対象となる「特別秘密」の概念が曖昧かつ広範であるため,本来国民が知るべき情報までもが国民の目から隠されてしまう懸念が極めて大きい。
更に,そのような曖昧かつ広範な「特別秘密」の概念をもとに罰則等を課すことにより,国民の知る権利等が侵害される可能性は顕著であるし,処罰範囲を不明確かつ広範にするため,罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾抵触するおそれがある。
4 本秘密保全法制は,禁止行為として,漏洩行為の独立教唆,扇動行為,共謀行為や,「特定取得行為」と称する秘密探知行為についても独立教唆,扇動行為,共謀行為を処罰しようとしているため,単純な取材行為すら処罰対象となりかねない。また,禁止行為の定義が曖昧かつ広範であるため,この点からも罪刑法定主義等の刑事法上の基本原理と矛盾する。
現実の場面を考えても,取材及び報道に対する萎縮効果が極めて大きく,国の行政機関,独立行政法人,地方公共団体,一定の場合の民間事業者・大学に対して取材しようとするジャーナリストの取材の自由・報道の自由が侵害されることとなる。
5 報告書では特別秘密を取り扱う者自体の管理に関して,人的管理の必要性を詳細に論じているが,情報システムの管理に対する無関心やルーズさにこそ問題があることを自覚し,見直すべきであって,人的管理の対象者及びその周辺の人々のプライバシ-を空洞化させるような法律を制定することは本末転倒である。
人的管理に偏することなく,むしろ作成・取得から廃棄・移管までの各段階において,情報システムの管理の徹底など個別具体的な保全措置を講ずる物的管理と組み合わせることにより対応すべきである。
6 本秘密保全法制に関わり起訴された者の裁判手続は,憲法に定められた基本的人権である公開の法廷で裁判を受ける権利や弁護を受ける権利を侵害するおそれがある。
なぜなら,国家秘密を漏洩した等の理由で起訴された場合,その国家秘密が公開の法廷で公開されれば,それはたちどころに秘密ではなくなり,国家秘密が非公開なまま裁判が進行すれば,公開原則に違反し,裁判を受ける権利を侵害するからである。
7 以上の理由から、当会は秘密保全法制の制定に反対し、法案を国会へ提出されないよう強く要求する。
以上