声明・決議・意見書

会長声明2013.02.06

法テラスの国選弁護報酬等算定基準につき報酬額増額及び実費分支給増額の改訂を求める会長声明

広島弁護士会
会長 小田清和

1 国選弁護人に対する報酬及び費用の算定は、国の委託を受けた法テラスが、法務大臣の認可を受けた国選弁護人契約約款に定められている報酬及び費用の算定基準(以下「国選弁護報酬等算定基準」という。)に基づいて行われている。
2 この国選弁護人に対する報酬の算定に関して、先般、国選弁護事件を担当した当会所属の弁護士(以下「担当弁護人」という)が、免訴判決を得る成果を挙げたにもかかわらず(以下「本件免訴事案」という)、特別成果加算の対象外であるとして、成果が報酬に反映されなかったという事例があった。
本件免訴事案の公訴事実は、事件当時少年であった被告人が自動車を共犯者の運転する別の自動車に衝突させて交通事故を作出したことにより、共犯者とともに保険金詐欺を行ったとして詐欺罪が成立し、検察官から懲役1年6月の求刑がされていたというものであった。
これに対して、担当弁護人は、被告人の行為を本件詐欺罪で処罰することは、被告人が少年事件で既に審判を経ている自動車運転過失傷害との二重処罰となるため刑事訴訟法337条1号により免訴とすべき旨指摘したのに対し、裁判所は、概ね担当弁護人の指摘を容れ免訴判決をしたという事案であった。
3 このように免訴判決が言渡されたのは、担当弁護人が免訴判決事由を具体的に指摘した弁護活動を行った成果であるのは明らかである。本件免訴事案は、法律の専門家である検察官においてさえ、解釈・適用を誤った主張をしていたもので、弁護人の有する専門的な法的知見による弁護活動が功を奏した事案と言えるのである。
そして、本件免訴事案については、担当弁護人の前記弁護活動によって免訴判決が下されたことで、当該被告人は無罪判決と同様の効果を得て、二重処罰の危険から免れて不当な人権侵害が防止されたばかりでなく、誤った先例が形成されることを未然に防止したものでもあり、刑事司法の適正が維持された面もある。
したがって本件免訴事案の担当弁護人について、報酬においても弁護活動の成果が評価されるべきであり、無罪判決と同様の特別成果加算がなされるべきである。
4 国選弁護制度は、憲法37条3項に規定された憲法上の要請に基づく制度であり、制度が適切に運用されるよう体制を整備することは国の責務である。また、総合法律支援法の下、国民が弁護士等のサービスを受けられるように、弁護士の職務の特性に配慮した総合的な体制を整備することは法テラスの責務である。これら体制を整備する責務には適切な国選弁護報酬等算定基準を定めることも含まれている。
当会は、法テラスの業務開始直前に、2005年(平成17年)6月8日付け「国選弁護報酬の増額を求める会長声明」、2006年(平成18年)8月9日付け「国選弁護士報酬の度重なる引き下げに抗議するとともに、増額を再度求める会長声明」を発表してきた。
その後、国選弁護報酬等算定基準は、法テラス業務開始当初加算対象とはされていなかった無罪判決について特別成果加算の対象とするなど、一定の改善もなされているが、依然として多くの問題を抱えており、本件免訴判決事案はまさにその一例である。
そもそも、国選弁護報酬全般についてみると、相変わらず基礎報酬自体が低廉なままである。弁護活動の労力の負担は、被疑事実・公訴事実を争う否認事件はもちろんのこと、被疑事実・公訴事実そのものは認めている自白事件においても多大なものとなる。具体的には、裁判に向けた方針を打ち合わせるための多数回に及ぶ接見、被疑者被告人の親族等関係者との折衝、被害者との示談交渉その他必ずしも外部には明らかとはならない多大な労力を必要とするものである。にもかかわらず、弁護活動の労力負担と成果の報酬への反映はごく一部にとどまっているのが現状である。のみならず、現在においても、弁護人が立替負担した実費である裁判記録の謄写費用は必ずしも全額が法テラスから支払われず、鑑定費用は全く支払われないままである。このように、国選弁護報酬等基準は、大半の事件において、刑事弁護活動の実態や職務の重要性・特性に相応したものになっているとはいえず、国選弁護制度は、国選弁護活動を担っている弁護士の責務に対する義務感と犠牲において運営されているとの従前からの問題は、残念ながら現在においても解決されていない。
この問題を解決するためは、まず、謄写費用、鑑定費用等の被告人の防御のために必要な実費を、弁護人に自己負担させることなく、法テラスが全額支払うべきである。そして、弁護人の努力により成果が得られた場合に成果と労力が十分反映されるよう報酬額を加算する類型的基準をきちんと整備することが必要である。それとともに、本件免訴事案の場合のように個別に加算対象となっていない弁護活動によっても国選弁護体制が支えられていることに鑑み、基礎報酬額そのものを大幅に引き上げるなど、国選弁護報酬等算定基準全体を見直されなければならない。
5 よって、当会は、法務大臣及び法テラスに対し、国選弁護報酬等算定基準について、基礎報酬額を引き上げたうえで、弁護活動の成果、労力に見合った加算報酬項目及び加算報酬額をきちんと整備し、さらに被告人の防御のために必要な実費を全額支払うよう改訂することを求めるとともに、財務大臣に対し、これに見合う予算措置を講ずることを求めるものである。

以上