声明・決議・意見書

会長声明2013.04.17

小野市福祉給付適正化条例に反対する会長声明

広島弁護士会
会長 小野裕伸

1  貴市は、今般「小野市福祉給付適正化条例」(以下「本条例」という)を3月市議会において可決し、4月1日より施行した。しかしながら、本条例は生活保護受給者その他経済的困窮者の人権侵害を招きかねないものであり、当会はこれに強く反対する。
2  本条例は、生活保護法、児童扶養手当法、その他福祉制度に基づく公的な金銭給付の「受給者」が、偽りその他不正な手段により給付を受けたり、給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消し、その後の生活の維持、安定向上ができなくなるような事態を防ぐため、市民に「市及び関係機関の調査、指導等の業務」への積極的な協力、情報提供の責務を定めるとともに、適正化協議会ならびに適正化推進員を設置し、調査活動等にあたらせるという内容になっている。
さらに、同条例の「受給者」は、現に生活保護法、児童扶養手当法、その他福祉制度に基づく公的な金銭給付を受給している者に限らず、「受給しようとする者」まで含むとされているから、およそ全ての福祉受給制度の利用者、利用しようとする者が含まれることになる。
3  例えば生活保護制度についてみると、これを利用し得る人のうち実際の利用者の割合(捕捉率)が2割程度にとどまり、残り8割は生活保護基準以下での生活を強いられているという我が国の現状がある。このような現状に照らすと、自己の生活が市民、適正化協議会、適正化推進員の監視にさらされることへの危惧から、要保護者らが、生活保護制度をはじめとするさまざまな社会福祉・社会保障制度の利用を躊躇することは必至であり、その結果、要保護者らの生活状況をさらに悪化させ、事態を深刻にしてしまうおそれがある。
また、市民等に受給者の行動について監視する責任を負わせることは、受給者に対する差別や偏見を助長させることになる上、受給者に対し、できるだけ外出を控えさせるなど市民生活を萎縮させることにもなりかねない。これはひいては、社会的・経済的弱者全体や生活保護等の福祉制度そのものに対する差別・偏見を助長させ、憲法25条による「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を空洞化させることとなる。
4  日弁連は、生存権保障のため、福祉事務所窓口における生活保護申請書の備え置き、生活保護申請権保障の徹底、違法な運用が行われない体制の早急な整備を求めてきた(2006年10月 貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議、2013年2月 生活保護窓口における違法な運用の是正を求める会長談話)が、本条例は生活保護等の申請を躊躇させ、これに真っ向から反するものである。
5  このように生存権保障の空洞化をもたらす本条例は、単に貴市のみの問題にとどまらないことから、当会は本条例の廃止を求める。

以上