会長声明2013.05.29
要保護者の保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を 求める会長声明
広島弁護士会
会長 小野裕伸
1. 政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。しかし、同改正案は、いわゆる「水際作戦」を合法化し、さらには、要保護者をより一層委縮させることにより、保護申請自体を抑制する効果を与え、憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を空洞化させるものであり、当会はこれに強く反対する。
2. 改正案第24条1項は、生活保護の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書の提出をもってしなければならないとし、さらに同条2項は、申請書には「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」と要否判定に必要な書類の添付を必須の要件としている。
しかし、現行生活保護法(以下「現行法」という。)は、保護の申請について書面によることを要求しておらず、申請意思が客観的に明白であれば口頭による申請も有効であるとするのが確立した裁判例であり、また、申請の際に、要否判定に必要な書類の提出も義務付けてはいない。
にもかかわらず、実際には、全国の福祉事務所の窓口において、要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書を交付しなかったり、疎明資料の提出を求めて申請書の受理を拒否するという違法な運用(いわゆる「水際作戦」)が少なからず見受けられ、今回さらにこのような改正がなされると、添付書類の不備等を理由として申請を受け付けない取り扱い、つまり、これまで違法とされてきた「水際作戦」が合法化されることになる。
3. 次に、改正案第24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。
しかし、現行法下においても、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知によって生じうる親族間のあつれき等を恐れ、申請を断念することも珍しくない。したがって、改正案によって扶養義務者に対する通知が義務化されれば、要保護者が保護申請を躊躇することは必至であり、その結果、要保護者の生活状況を更に悪化させ、事態を深刻にしてしまう恐れがある。
4. 厚生労働省は、こうした改正案に対する批判の高まりを受けて、「必要な場合は口頭申請も認める」、「書類の提出は保護決定まででよい」、「扶養義務者への通知は極めて限定的な場合に限る」などとして、従来の取扱いを変更するものではないとの弁明をし始めている。
しかし、改正案の法律文言上そのような解釈は困難であるし、仮に、そうした取り扱いを法律の下位規範である省令等をもって定めるならば、それは改正案の内容に正当性がないことを自ら自認することに他ならない。
5. 日弁連は、生存権保障のため、福祉事務所窓口における生活保護申請書の備え置き、生活保護申請権保障の徹底、違法な運用が行われない体制の早急な整備を求めてきており(2006年10月 貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議、2013年2月 生活保護窓口における違法な運用の是正を求める会長談話)、また、当会も2011年4月15日から生活保護電話相談窓口を設置し、「水際作戦」の根絶に力を尽くしてきた。しかし、改正案は、こうした尽力を根本から否定し、生活保護法の根底にある憲法第25条の精神そのものを踏みにじるものであり、到底容認できない。
よって、当会は改正案の廃案を強く求める。
以上
広島弁護士会
会長 小野裕伸
1. 政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。しかし、同改正案は、いわゆる「水際作戦」を合法化し、さらには、要保護者をより一層委縮させることにより、保護申請自体を抑制する効果を与え、憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を空洞化させるものであり、当会はこれに強く反対する。
2. 改正案第24条1項は、生活保護の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書の提出をもってしなければならないとし、さらに同条2項は、申請書には「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」と要否判定に必要な書類の添付を必須の要件としている。
しかし、現行生活保護法(以下「現行法」という。)は、保護の申請について書面によることを要求しておらず、申請意思が客観的に明白であれば口頭による申請も有効であるとするのが確立した裁判例であり、また、申請の際に、要否判定に必要な書類の提出も義務付けてはいない。
にもかかわらず、実際には、全国の福祉事務所の窓口において、要保護者が生活保護の申請意思を表明しても申請書を交付しなかったり、疎明資料の提出を求めて申請書の受理を拒否するという違法な運用(いわゆる「水際作戦」)が少なからず見受けられ、今回さらにこのような改正がなされると、添付書類の不備等を理由として申請を受け付けない取り扱い、つまり、これまで違法とされてきた「水際作戦」が合法化されることになる。
3. 次に、改正案第24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。
しかし、現行法下においても、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知によって生じうる親族間のあつれき等を恐れ、申請を断念することも珍しくない。したがって、改正案によって扶養義務者に対する通知が義務化されれば、要保護者が保護申請を躊躇することは必至であり、その結果、要保護者の生活状況を更に悪化させ、事態を深刻にしてしまう恐れがある。
4. 厚生労働省は、こうした改正案に対する批判の高まりを受けて、「必要な場合は口頭申請も認める」、「書類の提出は保護決定まででよい」、「扶養義務者への通知は極めて限定的な場合に限る」などとして、従来の取扱いを変更するものではないとの弁明をし始めている。
しかし、改正案の法律文言上そのような解釈は困難であるし、仮に、そうした取り扱いを法律の下位規範である省令等をもって定めるならば、それは改正案の内容に正当性がないことを自ら自認することに他ならない。
5. 日弁連は、生存権保障のため、福祉事務所窓口における生活保護申請書の備え置き、生活保護申請権保障の徹底、違法な運用が行われない体制の早急な整備を求めてきており(2006年10月 貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議、2013年2月 生活保護窓口における違法な運用の是正を求める会長談話)、また、当会も2011年4月15日から生活保護電話相談窓口を設置し、「水際作戦」の根絶に力を尽くしてきた。しかし、改正案は、こうした尽力を根本から否定し、生活保護法の根底にある憲法第25条の精神そのものを踏みにじるものであり、到底容認できない。
よって、当会は改正案の廃案を強く求める。
以上