会長声明2013.11.13
特定秘密保護法案の廃案を求める会長声明
広島弁護士会
会長 小野裕伸
10月25日,政府は,特定秘密保護法案を衆議院に上程した。
特定秘密保護法案には,①そもそも立法事実が存在しないこと,②「特定秘密」の対象となる事項の範囲が広範かつ不明確であり,指定の有効期間5年を延長し続ければ指定が恒久化することも可能なことから,「特定秘密」の指定が行政機関の長により恣意的になされうること,③適性評価制度によりプライバシー権や思想・信条の自由が侵害されること,④国会への特定秘密の提供が行政機関の裁量に委ねられ,国会議員も処罰の対象となることから,国会軽視,ひいては国権の最高機関であるとする憲法41条に反すること,⑤内部告発や取材等行為についての処罰範囲が広く,厳罰に処するものであるため,表現の自由及び報道の自由や知る権利等憲法上の権利が侵害されること等の問題を指摘し,当会はこれまで複数回にわたり同法案に強く反対する旨の意見を表明してきた。
募集期間わずか15日という法案概要に対するパブリックコメントにおいても,9万件もの意見が寄せられ,その約8割が反対意見であった。このような反対意見に配慮してか,閣議決定された法案では,次のとおり内容が変更されているが,いずれも問題を解消するに至っていない。
すなわち第一に,閣議決定された法案では,秘密指定に関して「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し,統一的な運用を図るための基準を定めるものと」し(18条1項),その「基準を定め,又はこれを変更しようとするときは,(中略)優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない。」(同条2項)とされた。
しかし,「優れた識見を有する者」の意見を聴いて決められるのは抽象的な運用基準でしかなく,実際に行われる個々の秘密指定を行政機関の長が行うことは従前の法案と変わりはない。しかも,統一的な運用基準も,非公開となることが予想される。したがって,秘密指定に関しては,相変わらず何らのチェック機能も働かず,恣意的な秘密指定がなされ得ることに変わりはない。
第二に,有効期間の延長に関して,「指定の有効期間が通じて30年を超えることとなるときは,(中略)内閣の承認を得なければならない。」(4条3項)とされた。
しかし,指定期間が30年を超えれば内閣の承認が必要であるとしても,指定権者と同じ行政側の内閣が承認すれば,指定が恒久化するのは従前と同じである。
第三に,知る権利等に関して,「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」(21条1項)とされ,「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については,専ら公益を図る目的を有し,かつ,法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは,これを正当な業務による行為とするものとする。」(21条2項)こととされた。
しかし,1項の規定は,抽象的な訓示規定に過ぎず,これにより報道又は取材の自由が担保される保障は何もない。
また,2項の「専ら公益を図る目的」という主観的要件は,秘密の指定側が判断することであって,どのようにも解釈可能である。しかも,「著しく不当な方法」という要件自体が非常に抽象的なものであることから,どのような行為が「著しく不当な方法」と評価されるのか事前に予測することが困難である上,やはり恣意的な解釈が可能である。したがって,訴追された場合に最終的に「専ら公益を図る目的」があり,「著しく不当な方法によるものとは認められない」と認定されたとしても,恣意的な解釈・運用によって報道機関が捜査対象となることに変わりはなく,それだけで取材に対する萎縮効果は測り知れない。
さらに,「出版又は報道の業務に従事」しない者である一般市民や市民運動家,市民ジャーナリスト等には適用されず,不合理な差別となっている。
以上のとおり,これらの規定等の追加によっても特定秘密保護法案の危険性は何ら変わっていない。
当会は,政府が,国民の権利を侵害する特定秘密保護法案を拙速に国会に上程したことに強く抗議し,同法案の廃案を求める。
以上
広島弁護士会
会長 小野裕伸
10月25日,政府は,特定秘密保護法案を衆議院に上程した。
特定秘密保護法案には,①そもそも立法事実が存在しないこと,②「特定秘密」の対象となる事項の範囲が広範かつ不明確であり,指定の有効期間5年を延長し続ければ指定が恒久化することも可能なことから,「特定秘密」の指定が行政機関の長により恣意的になされうること,③適性評価制度によりプライバシー権や思想・信条の自由が侵害されること,④国会への特定秘密の提供が行政機関の裁量に委ねられ,国会議員も処罰の対象となることから,国会軽視,ひいては国権の最高機関であるとする憲法41条に反すること,⑤内部告発や取材等行為についての処罰範囲が広く,厳罰に処するものであるため,表現の自由及び報道の自由や知る権利等憲法上の権利が侵害されること等の問題を指摘し,当会はこれまで複数回にわたり同法案に強く反対する旨の意見を表明してきた。
募集期間わずか15日という法案概要に対するパブリックコメントにおいても,9万件もの意見が寄せられ,その約8割が反対意見であった。このような反対意見に配慮してか,閣議決定された法案では,次のとおり内容が変更されているが,いずれも問題を解消するに至っていない。
すなわち第一に,閣議決定された法案では,秘密指定に関して「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し,統一的な運用を図るための基準を定めるものと」し(18条1項),その「基準を定め,又はこれを変更しようとするときは,(中略)優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない。」(同条2項)とされた。
しかし,「優れた識見を有する者」の意見を聴いて決められるのは抽象的な運用基準でしかなく,実際に行われる個々の秘密指定を行政機関の長が行うことは従前の法案と変わりはない。しかも,統一的な運用基準も,非公開となることが予想される。したがって,秘密指定に関しては,相変わらず何らのチェック機能も働かず,恣意的な秘密指定がなされ得ることに変わりはない。
第二に,有効期間の延長に関して,「指定の有効期間が通じて30年を超えることとなるときは,(中略)内閣の承認を得なければならない。」(4条3項)とされた。
しかし,指定期間が30年を超えれば内閣の承認が必要であるとしても,指定権者と同じ行政側の内閣が承認すれば,指定が恒久化するのは従前と同じである。
第三に,知る権利等に関して,「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」(21条1項)とされ,「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については,専ら公益を図る目的を有し,かつ,法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは,これを正当な業務による行為とするものとする。」(21条2項)こととされた。
しかし,1項の規定は,抽象的な訓示規定に過ぎず,これにより報道又は取材の自由が担保される保障は何もない。
また,2項の「専ら公益を図る目的」という主観的要件は,秘密の指定側が判断することであって,どのようにも解釈可能である。しかも,「著しく不当な方法」という要件自体が非常に抽象的なものであることから,どのような行為が「著しく不当な方法」と評価されるのか事前に予測することが困難である上,やはり恣意的な解釈が可能である。したがって,訴追された場合に最終的に「専ら公益を図る目的」があり,「著しく不当な方法によるものとは認められない」と認定されたとしても,恣意的な解釈・運用によって報道機関が捜査対象となることに変わりはなく,それだけで取材に対する萎縮効果は測り知れない。
さらに,「出版又は報道の業務に従事」しない者である一般市民や市民運動家,市民ジャーナリスト等には適用されず,不合理な差別となっている。
以上のとおり,これらの規定等の追加によっても特定秘密保護法案の危険性は何ら変わっていない。
当会は,政府が,国民の権利を侵害する特定秘密保護法案を拙速に国会に上程したことに強く抗議し,同法案の廃案を求める。
以上