会長声明2014.04.21
改正労働者派遣法案に反対する会長声明
広島弁護士会
会長 舩木孝和
第1 声明の趣旨
当会は,2014(平成26)年3月11日に閣議決定された「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律案の一部を改正する法律案」に沿って「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」を改正することに反対するともに,同法について,常用代替防止を維持し,かつ派遣労働者の雇用の安定と適正な労働条件を確保するための改正を行うよう求める。
第2 声明の理由
1 政府は,2014年3月11日,「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律案の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)を閣議決定し,国会に提出した。
2 労働者派遣制度のあり方について
労働者派遣は,間接雇用の一形態であり,労働者の地位を不安定にし,雇用主としての責任を曖昧にするおそれがあることから,直接雇用の原則(民法623条,労働契約法6条)の例外として認められるものであって,これまでの労働者派遣法も「常用(正社員)代替防止」を原則とし,派遣労働は,臨時的一時的な業務に限るとされていた。また,前述のとおり,その就業形態が,派遣労働者の雇用や待遇の不安定を伴うおそれが強いことから,派遣労働者の保護も特に求められ,2012(平成24)年の法改正にあたって,法律名及び,1条の「目的」に,「派遣労働者の保護」が加えられて,派遣労働者の保護が,同法の目的として明確に位置づけられたところである。
このように,労働者派遣制度は,常用代替の防止の要請,及び派遣労働者保護の要請を満たしたものでなければならない。
3 改正案の内容
改正案の内容は,まず,労働者派遣の期間制限の在り方等については,現行の制度(専門業務等からなるいわゆる26業務には期間制限を設けず,この他の業務には原則1年,例外3年の期間制限が設けている)を廃止し,全ての業務について統一の規制を新設するとした上で,① 派遣労働者個人単位の期間制限として,派遣先の同一の組織単位における同一の派遣労働者の継続的な受入は3年を上限とし,② 事業所単位の期間制限として,派遣先の同一の事業所における派遣労働者の継続的な受入は3年を上限とする,但し,受入開始から3年を経過する時までに過半数労働組合等から意見を聴取した場合には,さらに3年間延長可能とし,その後の扱いも同様とする,というものである。
次に,派遣労働者の就業機会,雇用,待遇の安定等については,③ 派遣元事業主は,新たな期間制限の上限に達する派遣労働者に対し,派遣労働者が引き続き就業することを希望する場合は,新たな就業機会(派遣先)の提供等,雇用の安定を図るための措置を講ずることを義務付ける,④ 派遣元事業主と派遣先の双方において,派遣労働者の均衡待遇確保のための取組を強化する。⑤ 派遣元事業主に計画的な教育訓練等の実施を義務付けること等により,派遣労働者のキャリアアップを推進する,というものである。
しかしながら,かかる改正案の内容が,常用代替の防止の要請及び派遣労働者保護の要請に応えたものとは到底いえず,むしろ,派遣労働の固定化,拡大化と,派遣労働者の雇用の不安定化,雇用条件の劣化につながるおそれの強いものであることは以下に述べるとおりである。
4 常用代替の防止について
前記②は,一応,派遣先は,同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないとされてはいるものの,必ずしも,派遣労働者の意見を代弁する立場にあるわけでもない派遣先事業所の過半数労働者代表から意見を聴取さえすれば,その期間を延長して,さらに継続して派遣を受け入れることを可能とする仕組みになっている。しかも,前記①において,派遣から3年を経過した時点で労働者派遣契約で定める「組織単位」さえ変われば,当該派遣労働者は,派遣期間制限の対象外とされることになる。このため,例えば,3年毎に派遣労働者の人事異動の繰り返しながら,期間の更新延長をしていくと,いつまでも同一の事業所で同一の派遣労働者を受け入れることが可能になる。
このように,改正案の内容は,常用代替の歯止めにはならず,むしろ,常用代替を促進し,派遣労働の固定化し,拡大化につながるおそれが強い。
5 派遣労働者の保護について
以上に見たとおり,改正案は,派遣労働の固定化,拡大化を招来するものである一方で,いつ雇止めされるか分からないという不安定な地位に置かれる派遣労働者を保護するための方策には乏しいものとなっている。
すなわち,前記③の派遣元に対する期間制限に達する派遣労働者への派遣先の提供等については,公法上の義務とされ,私法的効力は認められていないため,その実効性は乏しい。
さらに,待遇面においても,派遣元と派遣先に課された措置義務(前記④)は,「均等」待遇ではなく,格差を容認しかねない「均衡」待遇であり,しかも,努力義務にすぎないものとされている。また,派遣元に対する計画的な教育訓練等の実施の義務(前記⑤)も,公法上の義務とされていることから,実効性に乏しい。
このように,改正案では,派遣労働者の雇用や待遇の安定化,適正化を図ることは期待できず,むしろ,雇用の不安定化,不適正な労働条件の固定化を招きかねない。
6 まとめ
以上のとおり,改正案に沿った法改正がなされれば,派遣労働者の保護のための有効な策が講じられないままに,派遣労働の固定化,拡大化が進み,派遣労働者による正規雇用者の代替が進んでいくおそれが強い。
このことは,派遣労働者は勿論,労働者全体にとっても,雇用の不安定化と待遇の低下を引き起こし,格差と貧困の問題をより深刻化させかねない。
当会は,改正案に反対するとともに,登録型派遣の禁止,派遣労働者の均等待遇,派遣業務の専門分野への限定など,人間らしい労働と生活を確保するための抜本的な労働者派遣法改正を行うよう求めるものである。
以上
広島弁護士会
会長 舩木孝和
第1 声明の趣旨
当会は,2014(平成26)年3月11日に閣議決定された「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律案の一部を改正する法律案」に沿って「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」を改正することに反対するともに,同法について,常用代替防止を維持し,かつ派遣労働者の雇用の安定と適正な労働条件を確保するための改正を行うよう求める。
第2 声明の理由
1 政府は,2014年3月11日,「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律案の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)を閣議決定し,国会に提出した。
2 労働者派遣制度のあり方について
労働者派遣は,間接雇用の一形態であり,労働者の地位を不安定にし,雇用主としての責任を曖昧にするおそれがあることから,直接雇用の原則(民法623条,労働契約法6条)の例外として認められるものであって,これまでの労働者派遣法も「常用(正社員)代替防止」を原則とし,派遣労働は,臨時的一時的な業務に限るとされていた。また,前述のとおり,その就業形態が,派遣労働者の雇用や待遇の不安定を伴うおそれが強いことから,派遣労働者の保護も特に求められ,2012(平成24)年の法改正にあたって,法律名及び,1条の「目的」に,「派遣労働者の保護」が加えられて,派遣労働者の保護が,同法の目的として明確に位置づけられたところである。
このように,労働者派遣制度は,常用代替の防止の要請,及び派遣労働者保護の要請を満たしたものでなければならない。
3 改正案の内容
改正案の内容は,まず,労働者派遣の期間制限の在り方等については,現行の制度(専門業務等からなるいわゆる26業務には期間制限を設けず,この他の業務には原則1年,例外3年の期間制限が設けている)を廃止し,全ての業務について統一の規制を新設するとした上で,① 派遣労働者個人単位の期間制限として,派遣先の同一の組織単位における同一の派遣労働者の継続的な受入は3年を上限とし,② 事業所単位の期間制限として,派遣先の同一の事業所における派遣労働者の継続的な受入は3年を上限とする,但し,受入開始から3年を経過する時までに過半数労働組合等から意見を聴取した場合には,さらに3年間延長可能とし,その後の扱いも同様とする,というものである。
次に,派遣労働者の就業機会,雇用,待遇の安定等については,③ 派遣元事業主は,新たな期間制限の上限に達する派遣労働者に対し,派遣労働者が引き続き就業することを希望する場合は,新たな就業機会(派遣先)の提供等,雇用の安定を図るための措置を講ずることを義務付ける,④ 派遣元事業主と派遣先の双方において,派遣労働者の均衡待遇確保のための取組を強化する。⑤ 派遣元事業主に計画的な教育訓練等の実施を義務付けること等により,派遣労働者のキャリアアップを推進する,というものである。
しかしながら,かかる改正案の内容が,常用代替の防止の要請及び派遣労働者保護の要請に応えたものとは到底いえず,むしろ,派遣労働の固定化,拡大化と,派遣労働者の雇用の不安定化,雇用条件の劣化につながるおそれの強いものであることは以下に述べるとおりである。
4 常用代替の防止について
前記②は,一応,派遣先は,同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないとされてはいるものの,必ずしも,派遣労働者の意見を代弁する立場にあるわけでもない派遣先事業所の過半数労働者代表から意見を聴取さえすれば,その期間を延長して,さらに継続して派遣を受け入れることを可能とする仕組みになっている。しかも,前記①において,派遣から3年を経過した時点で労働者派遣契約で定める「組織単位」さえ変われば,当該派遣労働者は,派遣期間制限の対象外とされることになる。このため,例えば,3年毎に派遣労働者の人事異動の繰り返しながら,期間の更新延長をしていくと,いつまでも同一の事業所で同一の派遣労働者を受け入れることが可能になる。
このように,改正案の内容は,常用代替の歯止めにはならず,むしろ,常用代替を促進し,派遣労働の固定化し,拡大化につながるおそれが強い。
5 派遣労働者の保護について
以上に見たとおり,改正案は,派遣労働の固定化,拡大化を招来するものである一方で,いつ雇止めされるか分からないという不安定な地位に置かれる派遣労働者を保護するための方策には乏しいものとなっている。
すなわち,前記③の派遣元に対する期間制限に達する派遣労働者への派遣先の提供等については,公法上の義務とされ,私法的効力は認められていないため,その実効性は乏しい。
さらに,待遇面においても,派遣元と派遣先に課された措置義務(前記④)は,「均等」待遇ではなく,格差を容認しかねない「均衡」待遇であり,しかも,努力義務にすぎないものとされている。また,派遣元に対する計画的な教育訓練等の実施の義務(前記⑤)も,公法上の義務とされていることから,実効性に乏しい。
このように,改正案では,派遣労働者の雇用や待遇の安定化,適正化を図ることは期待できず,むしろ,雇用の不安定化,不適正な労働条件の固定化を招きかねない。
6 まとめ
以上のとおり,改正案に沿った法改正がなされれば,派遣労働者の保護のための有効な策が講じられないままに,派遣労働の固定化,拡大化が進み,派遣労働者による正規雇用者の代替が進んでいくおそれが強い。
このことは,派遣労働者は勿論,労働者全体にとっても,雇用の不安定化と待遇の低下を引き起こし,格差と貧困の問題をより深刻化させかねない。
当会は,改正案に反対するとともに,登録型派遣の禁止,派遣労働者の均等待遇,派遣業務の専門分野への限定など,人間らしい労働と生活を確保するための抜本的な労働者派遣法改正を行うよう求めるものである。
以上