会長声明2015.06.15
少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明
広島弁護士会
会長 木村 豊
当会は,少年法の適用年齢を18歳未満まで引き下げることに強く反対する。
第2 意見の理由
1 自由民主党は,平成27年4月14日,「成人年齢に関する特命委員会」を開催し,同委員会において,今国会(第189回国会)の会期中に,少年法の適用年齢を18歳未満まで引き下げることも含めた少年法の改正について一定の方向性を示すとの報道がされている。
上記特命委員会の開催は,選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法等改正法案が今国会に提出され,同法案附則11条に「少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされていることに関連した動きであり,委員からは,「18歳で選挙権をもつ以上義務や責任も負うべきだ」という趣旨の意見も出たと報道されている。
2 しかし,法律の適用年齢を考えるにあたっては,それぞれの法律の立法趣旨に照らして,統計等の客観的なデータに基づいた慎重かつ理性的な検討がなされなければならない。
少年法は,未だ心身の発達が十分ではなく,環境その他の外部的条件の影響を受けやすい若年者に対しては,刑罰を科するよりも保護処分によって教化を図るほうが,更生に資するという保護優先主義を立法趣旨としている。現行少年法が、旧少年法において少年年齢を18歳未満としていたものを,20歳未満に引き上げたのも,18歳・19歳の少年は,未だ心身の発達が十分ではなく,保護優先主義という少年法の立法趣旨が妥当することを理由とするものである。
そして,保護優先主義を全うするために,犯罪の嫌疑が認められる限り事件は全件家庭裁判所に送致され,医学,心理学,教育学,社会学その他専門的知識を有する家庭裁判所調査官による少年の成育歴等に踏み込んだ社会調査,少年鑑別所での心身鑑別,付添人による援助等を踏まえて,保護観察,少年院送致等の多様な選択肢の中から少年の要保護性に応じた適切な終局処分が行われている。
このように,少年法は「少年の刑事事件について特別の措置」を講じている(少年法1条)ところ,少年法の適用年齢の引き下げを検討するにあたっては,現行少年法制が少年の更生・再犯防止のために機能しているかどうかについて,統計等の客観的なデータに基づいた慎重かつ理性的な検討が必要である。
また,1990年代に少年に対する成人刑事罰が大幅に強化され,厳罰化の法制が進められた米国の実証的研究によれば,少年に刑事罰を課すことによる一般予防の効果が不確かであること,また,特別予防についてはむしろ逆効果であること,特に暴力事犯では刑事処分を受けた少年の再犯率がかえって高いことが指摘されており,2000年代からは厳罰化を見直す動きも始まっていると報告されている(『家庭裁判月報平成22年6月第62巻第6号』35頁以下参照)。さらに,ドイツの連邦司法省の再犯統計によると,若年者の再犯率は,少年刑法により有罪の言渡しを受け刑を執行されて釈放された場合が高く,逆に刑事手続を打ち切り,教育的措置を行った後は低下するという結果が出ている。
したがって,少年法の適用年齢の引き下げを検討するにあたっては、このような諸外国の研究等も踏まえた統計等の客観的なデータに基づいた慎重かつ理性的な検討が必要であって,かかる調査・検討に基づいた具体的な立法事実もないままに,「18歳で選挙権をもつ以上、義務や責任も負うべきだ。」という安易な考えで少年法の適用年齢を引き下げるのは,保護優先主義を掲げる少年法の立法趣旨に反する。
3 また,少年法の適用年齢を引き下げるべき根拠として,「続発」する少年の凶悪事件に「対処」する必要があるという意見もある。
しかし,司法統計年表によれば,家庭裁判所の終局決定人員中殺人(未遂等を含む。)事件数は,平成13年には86件あったものの平成20年以降は40件以下で推移しており,少年の凶悪事件はむしろ「減少」傾向にあるのである。
また,少年の凶悪事件への「対処」については,すでに少年法の改正により立法的な措置が講じられている。すなわち,平成12年少年法改正により,行為時16歳以上の少年が,殺人や傷害致死等の故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合は,原則として,成人と同様に公開の法廷で行われる裁判員裁判を経て刑事処分を受けるとされ,平成26年少年法改正によって,少年に科す刑罰の範囲が拡大された。このように,現行少年法によっても,少年の凶悪事件について,事案の性質及び被害感情を踏まえた処分がなされる法制度あるいは運用となっているのであって,これに加えて事案の性質を問わず全ての犯罪について少年法の適用年齢を18歳未満まで引き下げて成人と同様に扱うべき立法事実は存在しない。
4 以上のとおり,現在,自由民主党の特命委員会において検討されている少年法の適用年齢引き下げは,少年法の立法趣旨に反し,かつ,具体的な立法事実に基づくことのないものである。
よって、当会は、少年法の適用年齢を引き下げることに強く反対する。
以上
広島弁護士会
会長 木村 豊
当会は,少年法の適用年齢を18歳未満まで引き下げることに強く反対する。
第2 意見の理由
1 自由民主党は,平成27年4月14日,「成人年齢に関する特命委員会」を開催し,同委員会において,今国会(第189回国会)の会期中に,少年法の適用年齢を18歳未満まで引き下げることも含めた少年法の改正について一定の方向性を示すとの報道がされている。
上記特命委員会の開催は,選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法等改正法案が今国会に提出され,同法案附則11条に「少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされていることに関連した動きであり,委員からは,「18歳で選挙権をもつ以上義務や責任も負うべきだ」という趣旨の意見も出たと報道されている。
2 しかし,法律の適用年齢を考えるにあたっては,それぞれの法律の立法趣旨に照らして,統計等の客観的なデータに基づいた慎重かつ理性的な検討がなされなければならない。
少年法は,未だ心身の発達が十分ではなく,環境その他の外部的条件の影響を受けやすい若年者に対しては,刑罰を科するよりも保護処分によって教化を図るほうが,更生に資するという保護優先主義を立法趣旨としている。現行少年法が、旧少年法において少年年齢を18歳未満としていたものを,20歳未満に引き上げたのも,18歳・19歳の少年は,未だ心身の発達が十分ではなく,保護優先主義という少年法の立法趣旨が妥当することを理由とするものである。
そして,保護優先主義を全うするために,犯罪の嫌疑が認められる限り事件は全件家庭裁判所に送致され,医学,心理学,教育学,社会学その他専門的知識を有する家庭裁判所調査官による少年の成育歴等に踏み込んだ社会調査,少年鑑別所での心身鑑別,付添人による援助等を踏まえて,保護観察,少年院送致等の多様な選択肢の中から少年の要保護性に応じた適切な終局処分が行われている。
このように,少年法は「少年の刑事事件について特別の措置」を講じている(少年法1条)ところ,少年法の適用年齢の引き下げを検討するにあたっては,現行少年法制が少年の更生・再犯防止のために機能しているかどうかについて,統計等の客観的なデータに基づいた慎重かつ理性的な検討が必要である。
また,1990年代に少年に対する成人刑事罰が大幅に強化され,厳罰化の法制が進められた米国の実証的研究によれば,少年に刑事罰を課すことによる一般予防の効果が不確かであること,また,特別予防についてはむしろ逆効果であること,特に暴力事犯では刑事処分を受けた少年の再犯率がかえって高いことが指摘されており,2000年代からは厳罰化を見直す動きも始まっていると報告されている(『家庭裁判月報平成22年6月第62巻第6号』35頁以下参照)。さらに,ドイツの連邦司法省の再犯統計によると,若年者の再犯率は,少年刑法により有罪の言渡しを受け刑を執行されて釈放された場合が高く,逆に刑事手続を打ち切り,教育的措置を行った後は低下するという結果が出ている。
したがって,少年法の適用年齢の引き下げを検討するにあたっては、このような諸外国の研究等も踏まえた統計等の客観的なデータに基づいた慎重かつ理性的な検討が必要であって,かかる調査・検討に基づいた具体的な立法事実もないままに,「18歳で選挙権をもつ以上、義務や責任も負うべきだ。」という安易な考えで少年法の適用年齢を引き下げるのは,保護優先主義を掲げる少年法の立法趣旨に反する。
3 また,少年法の適用年齢を引き下げるべき根拠として,「続発」する少年の凶悪事件に「対処」する必要があるという意見もある。
しかし,司法統計年表によれば,家庭裁判所の終局決定人員中殺人(未遂等を含む。)事件数は,平成13年には86件あったものの平成20年以降は40件以下で推移しており,少年の凶悪事件はむしろ「減少」傾向にあるのである。
また,少年の凶悪事件への「対処」については,すでに少年法の改正により立法的な措置が講じられている。すなわち,平成12年少年法改正により,行為時16歳以上の少年が,殺人や傷害致死等の故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合は,原則として,成人と同様に公開の法廷で行われる裁判員裁判を経て刑事処分を受けるとされ,平成26年少年法改正によって,少年に科す刑罰の範囲が拡大された。このように,現行少年法によっても,少年の凶悪事件について,事案の性質及び被害感情を踏まえた処分がなされる法制度あるいは運用となっているのであって,これに加えて事案の性質を問わず全ての犯罪について少年法の適用年齢を18歳未満まで引き下げて成人と同様に扱うべき立法事実は存在しない。
4 以上のとおり,現在,自由民主党の特命委員会において検討されている少年法の適用年齢引き下げは,少年法の立法趣旨に反し,かつ,具体的な立法事実に基づくことのないものである。
よって、当会は、少年法の適用年齢を引き下げることに強く反対する。
以上